第51話 今日を始める
互いに持ち寄った食料を食べ、明日に備えてテントに入る。
果たしてあれが最後の晩餐になるのか……それが明日の結果しだい。
倒せ無かったら逃げても死ぬ。
生き残るにはあのドラゴンを封印するしかない。
寝袋に包まりながらも、俺の胸にはモヤのようなものがまだ渦を巻いたままだ。
だが……。
隣を見れば、棚見が俺と同じように寝袋に包まりながら眠っていた。
その顔は穏やかであり、到底明日に人生を掛けた決戦が待っているという様には見えない。
こいつは言った、明後日からも旅がしたいと。
俺の胸は晴れてはいない。
だが……、だが絶望に打ちひしがれてもいないのは――その言葉が頭の底にこびりついたからなのか。
後ろ向きな考えに囚われやすい俺とは対照的に、棚見は前向きに希望を口にした。
(俺は……、また旅がしたいのか? こいつと。死にたくはない、けれど最悪の結果をつい考え込んでしまう。それでも、生き残れたなら。その時は――)
――素直に聞き入れようか、今度こそ。
本当は、他人を信用し切れない俺の一人旅のはずだったのに。
勝手について来たこいつを、煩わしくも思っていたのに。
なのに不満も言わずに隣を歩くどころか、むしろ振り回してくる棚見を、今はもう無碍に扱えなくなってきている自分がいる。
友達。
家族以外に親しい関係を築くのも怖くなっていた俺に、新しく友人を受け入れる器量について再び考え直させる気を起こさせた。
(……あの時から他人を信じられなくなって、ずけずけと関わってこようとする奴なんて毛嫌いしていたってのに。芯の無い男だな、俺も。こいつの本心だってわかんないってのにな)
人の心に無理矢理入り込もうとしてくる感じとは違う、自分を押し付けて来るくせに相手を蔑ろにしない。変わった男だ。
これが全部嘘なら、俺はもう立ち直れないだろう。演技でやれる範疇を超えてる。
「……もう寝るか」
こういう時間だからか、色々な考えが脳内に巡り巡っていた。全くバカらしい話だな。
俺は目を閉じることにした。
でも明日もこんな感じに一日を終えたなら……俺は自分に呆れるだろうな。
安堵しながら。
…………………………。
「……ん……っ……」
「…………おやすみ。頑張るから、オレ……」
◇◇◇
清々しい鳥の鳴き声が聞こえてくる。
とうとう朝が訪れた。命運を決める一日の始まりだ。
「ふぁ~……よく寝たびぃ。よーし、今日も一日元気にガンガン行こうぜ」
「朝から元気だなお前……こんな時だってのに」
そうこんな時だってのに、いつもの感じで相変わらずの棚見が始まった。
背中を伸ばしながらあくびをして、それでテンションが起動する。
こいつの変わらなさが時々羨ましくなるな。
「さ、もう出ようぜ。ルシ姉さんが外で待ってるかもじゃん」
そう言うとテントの入り口を開く棚見の動作と連動して、朝の光が舞い込んでくる。
気持ちのいい朝だ。いつもの朝を今日は堪能したい。
二人して外へと出ると。隣に建てたテントの入り口が開いていた。
昨日の焚火跡の前の椅子にルシオロが座っている。