第50話 明後日を見据えて
何で脱線してしまったのか。それも俺を主題に置いて。
それにいくら棚見が陽キャといえど、実際の女の目線など分かるはずもない。なのになんで二人してわちゃわちゃ出来るのか? こういう時陰キャは形見が狭い。
何時までもこれでは困るのでドラゴン対策についての話し合いを再開する。
「本当なら今すぐに仕掛けるのがベストに近いでしょうね。……ここにいる三人が負傷したり疲れたりしてなければ。いくら弱体化している状態と言っても、今行ったら返り討ちに合うだけ。だから戦うのは明日にするわ」
「明日倒せなかったら?」
「打つ手なし、と思ってこの国と心中するしかないわ。どうあがいてもそれ以上の時間は伸ばせない、間違いなく手に負えなくなるもの。……どうせ死ぬなら生まれ故郷で死にたいのだけれどね」
明後日は存在しないというわけか。
しかし、故郷とは? ルシオロはこの国の出身じゃないのか。
「それで肝心の作戦だけれど、第一に先手必勝ってところかしら。朝早くに行って寝ているうちに切りつける。比較的刃の通りやすい目の辺りを狙うといいかもしれないわね」
「それってさ、そんなに上手くいくワケ?」
「まさか。相手は凶暴なドラゴンよ? 警戒心だって相当でしょうし、可能性は然程高くないわね。だから第一の手なのよ、それで決着がつければ御の字程度に考えておいて」
つまり本命の作戦ではない。
ルシオロは続ける。
「もし気づかれた場合に備えて、特定の地点に誘い込むわ。実は今アレがいる森、少し前に行った事があるの。だからある程度地形を把握してる」
「地の利を得る、と。でも空を飛ぶ相手にどうやって有利に立つ?」
「誘い込む役を誰かがやる必要があるでしょうね。本能で生きている相手なら目の前の餌を追いかけるでしょう。あの森の奥には巨大な穴の開いた岩山があるのよ、さらに奥にはドラゴンが余裕で収まる空間があるわ。そこならご自慢の羽も自由に使えないはず」
「でもそんな狭い場所じゃオレ達も危なくない? 逃げ場ないじゃん」
「私も出来る限りの事はするから、そのくらいのリスクは覚悟しなさい。確実に切りつける為には直接対峙するしかないのよ? 私だって嫌なのは変わりないの。どの道失敗すれば全員死亡は確実なのだから、逃げ場なんて初めからないわ」
「ほえ~シビアぁ。……じゃ、囮役はオレって事で!」
(何故こんな話を聞いて危険な役を買うんだ!?)
俺は正直驚いて棚見の顔を凝視した。信じられない気持ちだったからだ。
いくら失敗イコール死とはいえ、俺には到底この役を名乗り上げるなど出来ない。
俺の視線を受けながらも、棚見はニヤっと笑って答えるのだった。
「だって、この中で一番足速いのってオレじゃん? あ、もしかしてルシ姉さんってば」
「残念ね、私は運動事は得意じゃないの。それが出来る子は死んじゃったし、そちらに一任するしか無いわね」
「ほら! やっぱオレじゃん」
「だけどお前……!」
「ま、なんとかなるっしょ! だって香月くんも頑張るんじゃん? ってことはさ、オレも安心してやってやれるってコトになるよね」
「何を訳の分からない――」
「誰も知らない影のヒーローってカッコイイじゃん、みんなでなれるチャンスなんだぜ? パっと国救っちゃってさ! そしたら――」
――明後日からまた一緒に旅しようよ!
明後日。
こいつにはそれが見えているのか、俺達が勝ち残る未来が。
何の疑いも、その目には映ってはいなかった。