第49話 用心を怠るべからず
手を取り合った俺達がまずとった行動は――やはりというか作戦会議だった。
夜も更け、炭鉱跡近くで焚火を囲む。
「あまり悠長に時間をかけている訳にもいかないわ。アレはまだ目覚めたばかりだから力を取り戻して無いけれど、時間をかければかけるほどこちらが不利なのだから」
「つまり、元気になってマジヤバになっちゃっていく感じ?」
「そうよ。森へ向かったのもおそらくお腹を満たすためでしょうね。不幸中の幸いなのは、今すぐに暴れ回れないって事と……」
ルシオロは懐に手を伸ばし、とある物を取り出した。
「短剣……? これって、あの……」
「ええ、アレが封じられていた古代の遺物。最初はこうだったらしいけれど、封印した際に朽ち果てた姿に変わったらしいわ。何でもドラゴンの魔力を抑え込んだ為、なんて伝わっているけれど」
「で、これをどうすんの? まっさかこんなちっこいナイフでドンパチしようってんじゃ」
「そのまさか。私自身言いたくないけれど、これであのドラゴンと戦うわ。というより、これ以外に有効な手段が無いのよ」
彼女自身あまり口に出したい話じゃないのだろう。
確かにこんなもので立ち向かうしかないというのは勘弁してほしい話だ。
「この短剣はあのドラゴンを封じ込める為に、古代のエルフ族が作り上げたもの。それ故にアレに対してだけは絶大な効果を発揮するわ。……傷つけられればの話だけれど」
「うぇ~……マジかよ」
この短剣とあの巨体を誇るドラゴン。これしか対抗する手段が無いと言われれば嫌にもなる。
何より相手が空を飛べるのだから、こちらはあまりにも不利だ。
「エルフ族が魔力を込め、そしてこの切っ先でドラゴンが血を流せばそれが封印の儀式となる。伝承ではそう伝えられているわ」
「伝承ねぇ……。なんか怪しい」
「言いたいことはわかるけれど仕方が無いわ、そんな眉唾物の言い伝えにすがらなければならない状況だもの。……この短剣は一旦坊やに預けるわ、どう使うかはあなたも考えて」
「お、俺に……?」
目の前に差し出された短剣、これを俺に託すと言われても……。
あの洞窟での出来事を思い出す。あの時は、この短剣に幻を見せられてえらい目にあった。
俺が悩んでいるのが分かったのだろう、ルシオロは淡々と言葉を紡いだ。
「坊やが想像している事は起きないわ。幻覚はドラゴンの力によるもの……持った者に恐怖を植え付けて自分の意のままに操るなんて、厄介な話よね? でもその力の源が外に出て行ってしまったのだから触れても問題無いわ。だってそうじゃなきゃ私が持てないでしょう」
な、なるほど。確かにそういう理由ならルシオロが平気なはずは無い。
意を決して短剣に手を伸ばす。……しばらく経っても俺の体に異常はなかった。
「ふぅ……」
「用心深いわね。そういう性格は嫌いじゃないわ、ある程度信用出来るもの」
「ルシ姉さんも香月くんの事気に入っちゃった? 気が合うじゃん」
「一緒に仕事をするなら、だけれど。タイプかどうかという点じゃ違うわ、だって人間の上に年下だしね。一般的にもあまり女の子にちやほやされるタイプでもないでしょうしね」
その通りだが、別にいいだろ今は。
「あなたの名誉のために嫌いじゃないとだけ言っておくわ。貴女はどうかしら?」
「初めて会った時から一緒にやってきたんだべ? そりゃお気にって事で。それにイメチェンすれば結構いい線いくと思うけどね~」
「そう? まあ私に人間の女の子の審美眼なんて理解し切れる訳じゃないからいいけど」
「ごほん! ん、んん! ……そろそろ本題に戻ろう」