第47話 共闘の提案
振り返れば、血に塗れた長髪のエルフが瓦礫の上に立っていた。
(あの女! エルフの片割れ!? 生きていたのか……)
複雑な心情だ。この女に命を狙われている身としては再開したくはなかったが、あのドラゴンに食べられなかった点に変な安堵を覚えているあたり、自身の平和ボケに内心呆れてもいた。
それも、生き埋めの方がまだマシな最後だったのでは? と思う程度だが。
「お姉さんがここにいるって事は、さっきの……」
「ええ、お察しの通り。警戒心を抱かなったあの子が悪いのだけど……。だけれど、あなた達にはしてやられたわ」
この会話から察して、食われたのは短髪の女だけらしい。
あの好戦的な性格故に警戒心を抱かなかったって事か? だが何に対して? あのドラゴンか?
それに気になるのは”してやられた”という点だ。
どうにも、俺達に逃げられた事を指している訳じゃななさそうだ。
「あなた達は……まあ知らなかったんでしょうね、あのドラゴンを見て驚いていたあたり。私達の目的は、ある意味そのドラゴンでもあったわ。こうなる事を望んでいた訳では無いけれど」
「どゆ意味? ちょっとオレってばなぞなぞ苦手なんだけどさ。そういやお姉さん、今はボロボロじゃん。だったらもうオレ達の事、ほっといて欲しいな~って」
「……そうね、最早あなた達の命を狙うなんて意味は無いわ。本当――もっと早くに始末しておけばよかった」
肩で息を吐きながらも、プレッシャーのようなものをかけてくる女。
一瞬体が強張る俺と目つきが鋭くなる棚見。
しばしの間緊張が訪れたが、女の方が先に敵意を取り下げる事で終了した。
「ふぅ……。こうなった以上、私達の計画はご破算。まさかあの短剣が古の姿を取り戻すなんて想定に無かったもの。……坊やがやったのでしょう? 完全にこちらの負けだわ」
俺を見る女の顔には諦めに似た感情が浮かんでいるように見える。
俺があの短剣の形を変えた事が堪えたようだ。
(しかし……古の姿? あの短剣の元の姿はあれであっていた、って事か?)
だがそうだとして、それが何を意味するのかまるで分からない。
ダメ元で棚見の顔を見ても、同じように会話の意味が分かっていないようだ。
改めて女の顔を見た。
「あれの状態を変化させるなんて相当な腕の魔導師くらいでしょうけど……坊やはそういう感じじゃないのよね。生まれ持った特別な力、といったところかしら?」
ドキッとした。後天的な物である事以外当てられたからだ。
何故俺だとわかったんだ?
「ちょっと。お姉さんさ、オレがやったかもしれないじゃん。なーんで香月くんがやったって思うワケ?」
「最初にそう思ったのは石に掛けられていた偽装を解いた時ね。あれは他人に気づかれないように私が掛けたものだったのだけれど……。それからあなた達が大量に作った赤い石を関連つけて、ね。坊やが差し出した短剣も、最初は何をと思ったのだけれど、一連の現象から考えてもしやと怪しんだって訳よ。……でも一番の誤算は彼女の迂闊さを計算し切れてなかった事なのよね」
はぁ、とため息をつく女。そんな気はしていたが、やっぱり二人はさして仲が良かった訳じゃななさそうだ。
言われた事を整理すると、確かに判断するには十分な材料だ。そういう意味では俺もまた迂闊だったかもしれない。