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第45話 先延ばしの危機

 最初の空間に戻って来たら、確かにそこには穴が開いていた。

 それが棚見の考えた通りだからかは知らないが、さっさとこんな所から出て行くとしよう。

 他の道がどうなっていたか、とか気にする暇も今は無い。


 奴らは一瞬で回り込んでくるような魔法を使えるエルフ達だ、この炭鉱をいち早く抜ける事を考えるべき。


「さっさとここ抜けちゃおうぜ。それで新しいお宝を探しにシンテンチってやつを目指そうじゃん!」


「こんな目に合ってまだ宝だとか言えるなんてな。ある意味感心するよ」


「やったね、見直されちゃったよオレ。じゃあこのハッピーな感じで出口までゴーしないとね」


 しかし元気だ。



 穴を抜け、それで炭鉱の入り組んだ道を休まず走り抜けていく。今ばかりは足の状態を気にしている余裕は無い。

 それでもまだ不安が抜け切れたもんじゃない。


 いつ追い付いてくるか、それもあるがさっきから背中が寒く感じて仕方が無い。

 あの時背後で感じた大きな音の正体は何か? そして今だに響いているのは何故か?


 大分離れたような気がするが……いや、今は余計な事を考えるな。


「お、見えて来たぜ!」


 先頭を走る棚見が出口を見つけて嬉しそうに叫んだ。

 思えば俺よりずっと速く走れる癖に、わざわざペースを合わせて一緒に脱出する選択を取ってくれたのは棚見なりの気遣いか。


 だがこれでその苦労から解放してやれる。俺もいつまでもお荷物でいる訳にはいかないからな。


 何気なしに入った炭鉱跡でこんな目に合うんだから、今度からはちゃんと情報を手に入れてからダンジョン探索をするべきだな。


 出入口から吹きすさぶ外の風が心地良い、苦労が報われた気分になるがそれに浸るにはまだ早い。


「よっしゃ! それじゃあ同時に脱出ー!」


「うおっと!?」


 一瞬止まったかと思うと、背後からしてきた俺の腕を掴んで出口に向かって飛び込みを開始した。


 それには俺も完全に予想外で、タイミングを合わせられずに一緒に転びながら外へと飛び出した。

「っとぉ!」

 着地音を最小限に抑えて、俺達は何とか五体満足で外に抜け出せたようだ。


「ふぅ風が気持ちい~。あ、よく見たらもう夕方じゃん。空があっか~い」


 流石に数時間の滞在の結果か、外はとっくに陽が傾いていた。


「今日どうする? また元の町戻って一泊するとか?」


「いや、ここからなら次の町の方が近いはずだからそっちに行こう。最悪は野宿になるかもしれんが」


「オレ達はテント持ってるしねぇ。それでもいいんじゃない?」


 そう、このまま夜までに町にたどり着けなかったとしても地面の上で横たわる必要は無い。

 テントも寝袋も持っているし、正直食料の心配の方が大きい。一応宿でサンドイッチは多めに買っているので、腹が空いたまま夜を明かす事も無い。


 だが、一番の問題は……。


「いつまでもこんな所にいる訳にも行かない。出来るだけ遠くに離れて奴らを撒かないと」


 奴らが追いかけてきているという問題を解決できてない。

 だが、外に出れば炭鉱内のように追い込まれる心配は無い。圧倒的に広さが違うのだ、最悪近くの森に逃げ込んで身を隠せば奴らも探し出すのは困難なはずだ。


 その時、背後の出入り口から激しい音が聞こえて来た。

 内部が崩れるような音、やはり崩壊したか。


「これってオレ達逃げ切れたって事? あのお姉さん達もこれじゃあ追ってこれないかもね」


「……多少思うところはあるが、俺達の命を狙ってきた連中だ。自業自得だと思って忘れよう」

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