第42話 震える記憶
「さあ、いつまでもこうしている訳にはいかないな。”お宝”が手に入ったのなら、ここからの脱出を考えるとしよう」
「っ……ふふ……。そそ! こっからどやって出るか考えねえとだしね。でもこれ以上先に進めそうにもないしぃ、戻って他の道探しちゃう?」
「あの炭鉱にも戻れんしな。それしかないか」
幸いにして他にも行っていない道がある。
あの女達がここを発見する可能性は低いだろうが、万が一を考えるならいつまでも同じ場所にいるわけにはいかない。
そうしてこの祭壇らしき空間から出ようとした時だった。
「うん?」
「どしたん香月くん? あ、トイレだったら俺が先に通路に出るから安心して……」
「するかこんなところで! そうじゃなくてこのナイフが震えたような気がして」
「え?」
手に持った短剣が、微かに震えたような気がしたのだ。
気のせいだとも思い、手の中のそれに目をやると……確かに振動している。
その震えはやがて大きくなり、刀身から僅かに光が漏れ出した。
「な、なんだこれ……なんか光って――」
口にすると同時に、短剣の光が最高潮に達して視界が白く染まる。
あまりの眩しさに目を瞑りたくなるも、予想外の出来事に身体が硬直して動かない。
「香月くん! 大丈夫? ドコいるワケ?!」
「お、俺はここだ! くそっ、全然目が効かねえ!」
それからどれほどの時間が経ったのか?
体感としては数秒ではきかないような気がするそれが晴れた時、そこにあったのは――。
「……っ……! どこだ、ここ……?」
明らかに先ほどの空間ではない。
周りを赤い粒子のようなものに囲まれたこの場所は、到底現実の物とも思えない程におどろおどろしい。
不安が丹田からあふれ出し、贓物を飲み込んで、四肢の先を乗り潰さんとし反吐を催す感覚。
あまりの恐怖に叫びだしたくなる。開いた口のガタガタと震え出した隙間から漏れ出ていくのは喉奥からドロドロと絞り出る猜疑心とでも言うのか?
俺、俺は、俺が、誰だ? 何を言って、俺は、オレハ……!
『――ねぇ、どうして同じ学校に進んでくれなかったの?』
「ぁ……ぁぁ……ぁっ」
「か、香月くん!? しっかりしなっておい!!」
途端、誰かに肩を揺さぶられた。
そこで俺はようやく、声の主が誰であるか気づいたのだ。
「ぁ……たな、み……? 棚見なのかお前……? 俺、は……?」
「どうしたんマジ!? 急に震え出してさ? ……ああでも何ともなさそうで。でも……ほんと大丈夫? これ何本? ぶんぶんぶんって、揺らしたらわかんないか」
目の前までやって来て指を三本立てた棚見が手を揺らしていた。
この謎行動、わかるのはそれがいつもの棚見だという事。
「はぁ……ぅぅ……。ああ、大丈夫だ。三本だろ?」
深呼吸が震えが押さえつける。
吐き出した言葉と共に安心感が脳を支配した、らしい。
周りを見れば先程と同じ祭壇の空間だった。
じゃあ俺はさっき見たのは……こいつが原因か。
視線を落とせば光を放っていた短剣。もう光も振動も無かった。
(やっぱり曰く付きの代物だったか。棚見の様子に問題が無い事を考えれば、持った人間にだけ作用すると考えるべきだな)
恐ろしい物を味わった。何と形容すればいいのか分からないが、二度と体験したくはない。
今収まったところを見るに、一度のみの作用なのか。断言が出来ない以上、手に持つのは危険だな。
指輪の中にでも入れておこう。
「――やっと見つけたぞガキ共!!」
どうやらその時間すら厳しいようだ。