第41話 くたびれた刃
「これって……随分とボロボロだけど、ナイフ?」
「かもしれない。本当に古ぼけてるから断定出来ないが」
箱の底にあったのは……刃もこぼれ、変色も酷い、原型を保っておらず、かろうじて短剣の類ではと思える程度の何かだった。
なぜこんなものがわざわざ箱の中に入っていたのかは分からないが、何かしらの意味があるんだろう。
でなければ炭鉱の奥に隠されているはずもない。
「相当な年代物じゃん、売れるかな? いや無理かなやっぱ」
「古ければいいってものじゃないだろうしな。素人目にも価値が付くような代物だとは思えない」
そういえば以前テレビでどっかの宗教が儀式用にこの手の短剣を用いる、というものを見た。
これも似たようなものならば、武器としてではなく儀式用の物として使用するのかも。
そう考えるとこの空間に保管されているのも頷けるものがある。
何かを祭っていたとか、神への捧げ物だったとか。
この短剣の他には入っているものはない。強いて言うなら、この短剣を入れた当時の空気とか? そんな太古のロマンを彷彿とさせるものがあるが……そういう考えはガラじゃないな。
「罠の危険はどうだ?」
「ちょっと棒でつついてみる。よいしょっと」
火の消えた松明の先で短剣をつつく棚見。その結果は……短剣が少し動いた程度でそれ以外に何の反応もない。
「大丈夫かな。ほいっと……うん、問題無い感じじゃない?」
棚見が手に持ってみるも、確かに罠らしきものが発動する様子も無い。
指でつついたりで、いたるところを眺めたりした棚見は、満足したのかそれを俺に突き出してきた。
「ちょっとこれ元に戻してみて。キレイになったら売れるかもだし」
「……ま、この間の剣が宿代程度にはなったしな。物は試しか」
警戒は怠らず、慎重に手に持って力を込めようとする。
しかしここで問題があった、原型がわからないということだ。
元がどんな形でどんな色をしていたのか知らない以上、完全に元通りになるとも思えない。
(いや、新品に近い状態にさえすればいいんだったら、イメージに合わせて作り変えればいいか)
大きさはそのまま、出来る限り元に近い形を想像しながら改めて力を込める。
(大体こんな形じゃないか?)
できる限り細部までイメージして……。
そうしてボロボロの短剣が俺のイメージしたものへと変化をはじめ、出来上がったのは儀礼用の派手な見た目だった。
以前テレビで見たものに近い見た目になってしまったが、問題は無いだろう。
「へえキレイじゃん! これって売れるよ絶対。よーし、街へ行ったらいい部屋に泊まろうぜ」
「お前な、素人の目線なんてなんの当てにもならないんだから……」
「いいじゃんいいじゃん、こういうのは気持ちが大事っしょ。売れなかったら旅の思い出ってことでさ。ほら無駄になんない。二人のお宝じゃーん」
陽キャ特有のポジティブシンキングだな。
でも、思い出か……。考えた事もなかったな。
こいつにとってはその思い出とやらにも価値がある、とでもいうのだろうか。
お互いに生きる事が優先の身上なのは変わりがないが、そういったものを考慮する余裕を、こいつは持っているのだろう。それもまた、ポジティブシンキングゆえか。