第4話 出会う若者達
改めて確認するが、俺の知り合いはいない。あの集団は全員顔も知らない他クラスの人間ばかりだ。
じゃあ誰だ? 誰が俺の名前を?
半ば警戒するように、俺は宮殿の入り口へ向けて振り返った。
「へへ。やっぱさ、キミってば香月くんじゃん? ほらやっぱそうだ! オレってばナイス推理っしょ!」
馴れ馴れしい態度を取りながら近づいてくるには、やはり俺の知らない顔だった。
日に焼けた褐色の肌に、肩まで届くような癖のある茶髪。俺より背が高い。
パッチリとした釣り目に人懐っこそうな笑顔を張り付けていた。
不審がる俺の顔を見てか、その人物は笑いながら八重歯を覗かせて口を開いた。
「あ、ほらさ、この手帳! キミんじゃん? この写真なんてソックリ」
そうして差し出したのは、俺の顔写真が貼ってあるページを開いた生徒手帳だ。
落としてたのか。なら俺の顔も名前も知っていて不思議じゃない。
だがなんで後ろ姿だけで俺だと分かった?
「ぇ……ぁ……なんで……?」
疑問を口にする俺に対して、そいつは……。
「だってあそこに居る連中ってオレのダチばっかだからさ、そこで顔の知らないヤツの手帳が落ちてたら、後は消去法じゃん?」
なるほどだった。
見るからにチャラそうな見た目をしてるクセして観察眼が鋭い。
「ぁ……で、でもなんっで……?」
「オレが此処に来たワケ? そんなのこれ届ける為に決まってるっしょ」
そう言って、俺に生徒手帳をそっと手渡して来たのだからますます混乱した。
一体何のメリットがあってこの男、わざわざ俺みたいな縁の無い陰キャにこんなもの届けて来たって言うんだ?
「折角のこんなステキな出会いだぜ? こんなチャンス逃がしたらハッピーじゃないじゃん」
「す、てき……?」
「そうそ! 出会いはいつもステキじゃないと。だってダチになれるかもなんだよ? だからハッピーじゃん!」
何言ってるのか全然理解が出来ない。これだからノリだけで生きてそうな人種ってヤツは苦手なんだ。
「ホラホラ、もっと嬉しそうな顔しちゃってさ! オレってほら、クラスの人気者じゃん? って知らないかオレの事なんて。でもお調子者なのは見ての通りって!」
タハハと笑うその男の顔を見て、余計に理解に苦しむ。
「ぁ、ありがと……。じゃ」
良く分からない男の意味不明な行動に悩まされている程の余裕は無い。
先ずはこの辺りの地形とか、近くに街があるのかとか、そういう有意義な事をしなければならない身の上なんだ。
実際、いきなり笑顔で近寄ってくる陽キャなんて信用出来ないだろうよ。何も考えてなさそうでも、肌の合わない人種とは一緒に居てもそれだけで消耗してしまう性分だからな。
そんな疑心に満ちた俺を他所に、男は立ち去ろうとする俺の肩に手を置いて来た。
「な!?」
「一人でどっか行くの? でも何かあるかわかんないぜ?」
こいつからしたら当然の疑問なのかもしれないが、正直なところ放っといてほしい。
リスクは承知の上、そもそもこの男には何の関係もない。
「べ、別にそっちには関係……」
「じゃあオレも行ったげる! ほら、落し物届けた仲じゃん? じゃあ関係者じゃん!」
「ぇ……?」
は?
思考が一瞬ショートしてしまった。この男は一体何を言ってるんだ?
お前にはお仲間の陽キャがいるだろ。だったらはみ出し者に一々構うんじゃない。
こいつに何の得がある? お友達と仲良く異世界探訪でもしてる方が有意義な時間だろ、絶対。
振りほどこうにもこの男、俺の肩をがっちり掴んで離さない。
なんだこいつ、見た目以上に力があるぞ。
このまま無理やり行こうとしても無理だな、このままじゃ埒が明かない。
俺は一旦深呼吸して、喉を整えながら疑問を零す事にした。
「な、なんで俺に」
「ついて行く理由なんて一人じゃ寂しいからでいいじゃん? 意外とウマ? が合うかもだぜ」
意味が分からない。