第38話 見くびりの代償
「貴女は一体何度同じ話をするつもり? その件に関しては謝罪したでしょう、しつこいわね。今考えるべきは鍵のありか。面倒な事に石一つ一つが微弱ながら魔力を帯びているせいで判断がつきにくいのよね。一体どんなトリックを使ったっていうのかしら?」
「ふん、人間の男に興味でも沸いたか。全く品性を疑う」
「……少なくとも今の貴女よりは気品を失ってないと自負出来るわね。男と女で関係を結び付けたくなるなんて……いいわね、気分が若いままで。それも人とエルフの関係に視線を向ける下劣さには頭が下がるわ」
「ッ! 言わせておけば……っ」
「ああもう止め止め。これ以上貴女と喧嘩なんてする気もないもの。――私達の使命、まさか忘れた訳じゃないわよね?」
「それこそお前に言われる筋合いの無い事だ! くっ、結局のところあのガキ共をとっ捕まえれば済む事よ!」
溜まった鬱憤を晴らすかのように、ソラレは地面に転がった赤い石を蹴とばす。
もしかしたら本物が混じっている可能性もある。あるが、この程度では傷も入らないだろうという判断が彼女に暴力的な選択をさせていた。
そんなソラレの行動にため息を吐くルシオロ。この吐かれた息が彼女の鬱憤の霧散でもあった。
ある程度の苛立ちを追い出したおかげか、本来の冷徹な程の判断力が思考を冷やす事に成功する。
腕に持った水晶が赤い石の魔力に反応する。
これは特定の魔力にのみ反応するアイテムであるそれが、地面にバラまかれた石にも反応を示している。それも大量にあるせいで強い反応を示していたのだから実に厄介な手を使われてしまった。
錬金の一種か? しかしそれ程の凄腕魔導師にも思えない。
ルシオロは長年のパートナーであるこの勘にも信頼を置いていた。
(相手は唯の人間の子供ではないわ。見くびり過ぎると出し抜かれる。見つけ出したら――)
――確実に息の根を止めなければ。
今後の計画にも関わってくる。半ば確信めいたその悪寒が余計に頭脳の熱を奪っていった。
◇◇◇
「……ふぃ~ごちそうさんした! 香月くん、足ってば今どんなもんなん?」
「大分マシにはなったな。もう一度走られるくらいなら回復した、と思う。お荷物にならんようにはするさ」
「荷物は背負えばいいから問題なーし! じゃ、そろそろ行こうか」
「ああ」
この空間の空気がそうさせるのか、体が思った以上に癒えた気がする。
筋肉から余計な熱も逃げたようで、軽いストレッチくらいなら耐えられる気分だ。
片付けたシートの下から地面が再び現れ、再出発の準備が終わる。
今背後に戻るのも危険性がある以上、先に進んで状況の把握を優先する方がいいのだろう。
「おっ宝おっ宝お宝~」
「よくもまあこの状況で宝探し気分を続けられるもんだ……」
そんなテンションにあてられたか、俺の中の行き過ぎたネガティブが少しばかり鳴りを潜めたようだ。
こういう時、確かに奴のような存在が頼もしく見えるのかもしれない。