第31話 追いつめる怒声
仕方なくその後を静かについていく事にした。
徐々に足をそろりと進め、その音の聞こえが良くなるにつれ、壁に背中を合わせながらしばし。
やがて自然光とは思えない光が見え始めた。
「やっぱ誰かいるんじゃない? オレ達と同じお宝狙いか……?」
「いや俺は違うっての。大体ここに宝なんて……」
二人だけにしか聞こえないごく小さい声で話ながら、ついにその音が聞こえる距離まで到達した。
ほの暗い炭鉱の脇道の先、確かに話し声が聞こえる。
棚見は持っていた松明の火を消して、俺もその内容が聞こえるように耳を澄ませた。
「……に……はず……」
「ちゃんと……しな……なった……ぞ」
言い争いだろうか? あちらも大きい声で会話していないようで、何を言い合ってるのかはわからない。
「なにやってんだろ?」
「おい、さすがに顔を出すのはやめろ!?」
脇道の先を見ようと、棚見がそっと覗き込み始めた。
「……あ。香月くん、オレちょっと感動しちゃったかも」
「は? 一体何言ってんだ?」
「だってさ、耳。耳が長くて尖がってんだぜ? 人じゃない人的な人だよ、スゲー……」
何をいまいち訳の分からないことを言って感動しているのか。
それでも内容をよく考えて、俺なりの結論を出した。
「耳の尖ってて長い人間……エルフみたいな感じか?」
「そうそう、それだよそれ。いや~未知との境遇だぜ」
「……遭遇だろ」
ファンタジー知性体の代表のような存在が、どうやらこの先にいるらしい。
なぜ言い争ってるのかは知らないが、もう確認したならここを離れよう。
大概の場合、エルフは人間に対していい感情を持っていないと相場は決まっている。俺の読んできた小説ではそうだ。
ここは穏便に退散させて貰おう。
「言い争いするぐらい忙しいんだろ? じゃあ邪魔しないようにここは帰ろう」
「う~ん、仕方ないなぁ。オレのお宝……」
だからそんなもの無いっての。
そうして落ち込む棚見を連れて元来た道を戻ろうとした時だ。
「……ッ!? には……り!」
「な……!? どこ……!」
何だ? 道の向こうで騒がしくなったような会話が微かに聞こえてきたような。
もしかして気づかれたか!?
「は、早く戻るぞ!」
その時、何故か風のようなものを感じたが、今はそんな事に気をやる余裕は無い。
「! ……いや、多分もう遅いんじゃないかな」
それはどういう……?
そんな疑問が沸き立つよりも早く……。
「何者だッ!」
「!?」
「あちゃ~、やっぱ見つかったか~」
いつの間に俺の後ろから怒声が聞こえた。
どうしてか回り込まれていたようだ。
手に光球を持った二人の女。
脇道の先から後から出て来た一人と、俺の後ろに一人。
これは、もしかしなくても不味いのでは……?