第3話 俺を呼ぶ声
「能力の開花って、一体俺に何が出来るんだって……?」
能力特典は貰えたらしいが、残念ながらその使い方の説明を受けてない。
この場合、俺が転移物の主人公ならチート能力を貰ってるんだろうが、果たして……。
手を前に突き出す。
「……何も出ないな。流石にこんな簡単にわかるわけないか」
だったらよかったんだけど……取り敢えずはこの建物から出る事を考えよう。
人気を感じない中を歩き回り、見つけた階段を上って行く。
(あのローブの連中、結局自分達が誰かなんて説明しなかったな。それを言ったら都合でも悪いのか、嫌な感じだな)
呼び出しておいて都合だけは押し付ける。それでいて後は放置ときた。
腹も立つが、文句を言おうにもその連中はとっくに居なくなっている。
あの連中は俺達が死んでも構わないのだろうか?
(今は何か情報を手に入れないと。気にする余裕も無いんだこっちは)
階段を上り、それからさらに建物をさまよってようやく入り口らしきものを見つけた。
光に向かって歩き続けると……。
「風が気持ちいい……。なんて言ってる場合じゃないけど、少しぐらいが落ち着いたかもな」
やっと外に出れた。周りには他に建物は無いみたいだ。
俺が出てきた建物を見ると、これが絵に描いたような神殿だった。その周りに草原が広がっている。
白い姿が日に当たって眩しく見える。神聖さを感じるより薄気味悪さを感じるのはあんな目にあったからか。
入り口から先は舗装された道が続いている。どこに続いているか知らんが、街にでも続いてたらいいな。
「これからどうしよう?」
制服姿のままで佇んでいても仕方がないけども、ある程度落ち着いたせいか一気に不安を煽られた。
飯は? 金は? 寝床も探さないとならない。
今の俺が頼りにできるのはせいぜいクラス転移の知識だけだ。でもあれだって作者の実体験じゃないんだ、どこまで当てにできるものか。
あとは何が出来るかも分からない俺の能力。
不安要素が多すぎる。
でも死にたくない。一般高校生なんだ、人並みの生存意欲だけはある。
こういう時、ミリオタの友達でも居ればサバイバル知識でも教えてもらえたかもしれないが、俺にはそんな友達もいない。
俺は異物だ、除け者の対象でしかないだろう。
残してきた連中は陽キャ同士だから協力し合えるのかも知れないけど、俺には助け合える人間が居ない。
『ねぇ、このまま高校に行ってもずーっと仲良しの二人でいようね!』
……そうだ、俺には誰も居ないんだ。
『ごめん! でもこの人の事好きになっちゃったの。高校では友達でいよう、ね?』
冗談じゃない! だからギリギリで……。
一人で、一人で生きていかなきゃ……。
……本当に出来るのか、俺に?
「――きくーん! 香月くーん!」
背後から声が聞こえて来た、それも――俺の名前を呼びながら。