第29話 投げやりな言葉
それからしばらく、旅の進路について話し合いが続いた。
なんとなく、こういう時間は有意義に感じられて……悪くないかもしれないな。
俺一人で旅をしていたら、間違いなく存在しない時間だったろう。別にそれでも構わないといえば構わないのだけれど。
◇◇◇
村で食料を買い込んだ後は、旅の再開。
地平線まで続く長い道のりだが、この草の匂いに風の心地よさならどこまでも歩いて行けそうだ。……とか普通は考えるものなんだろうが。
(ああ、やっぱ足が痛い。山歩きの疲れがそのまま残ってしまったじゃないか、ほんと何で寝なかったんだ俺)
もはや後悔しても遅いが、今日の足取りは昨日以下だ。
相変わらず一人で喋り続ける棚見の相手をする気力も昨日以下だ。……いや元々無いに等しいが。
……いや待てよ、こういう時こそ昨日手に入れた知識を使う番だ。
幼児向け魔導書の中で紹介されていた魔法。疲れを癒すそれを試してみるか。
(えぇっとまず魔力を……。あ、そもそもその魔力を感じる所から始めなきゃじゃないか!?)
ズブの素人も同然の俺は、基礎の基礎すらない。いきなり魔法を使ったってそういうわけもいかなかった。
だ、だがまだ諦めるのは早い。その魔力の取り扱いについても書かれていたじゃないか!
地球出身故に、未知の感覚を捉えるのは苦労するかもしれないが、使いこなせれば間違いなく便利なはずだ。
(今日は……無理かもしれないが、それでも同じような状況はこれからもあるかも知れないんだから。始めるなら早ければ早いほどいいはず)
棚見の話声を聞き流しながら、本に書かれていた魔力を感じる方法を……。
「そういえば香月くんさ、オレ実は試しに練習してる事があんだよね~。ま、今朝からなんだけどさ」
「……え? あ、ああなんだよ?」
さっきまで一人で喋っていた棚見が不意に話しかけてきたもので、反応するのが遅れてしまった。
「見ててよ~、これちょっとすごいかもよ。……はっ」
そう言うなり手のひらを見せて来て――そうしたら急に手のひらが光り始め、て……?
「え? は?」
「ほら昨日読んだ本! あれ見てオレにも出来るんじゃねって思ってさ、へへ。起きてから練習してたんだよね。出来るようになったのはついさっきなんだけどぉ……」
後半に関しては何を言ってるのか、もう耳に入って来なくなっていた。
俺が今から始めようとした事をもうこいつは終わらせていた事実に正直ショック。
さ、先を越されてしまった……! それに使いこなしているだと!?
「これすごいしょほんと。いや~感動だべマジ。イエーイ、香月くんも喜んでよ。ハッピー!」
「……はっぴー」
投げやりな言葉しか出せない俺を誰が責められるものか。
重い足と重くなった心を引きずるように、俺達は目的地である炭鉱跡地へと歩き続けた。