第27話 集中力のデメリット
「でしょ? ほらさ、いいよねやっぱ。田舎のあったかさとか、懐い感じ? 好きでしょ? オレも好き」
「俺が好きかどうかなんて知らないだろお前」
いや嫌いじゃないけれど。
そういやコロッケってのはフランスから伝わった料理を日本独自にアレンジした料理だっけか。
こんな異世界の田舎で食べられるとは…………いや、待てよ。
(もしかして、これは地球の料理を知って再現したとか……?)
流石に考え過ぎか。日本の大衆料理をこっちで再現する理由なんて無いはず。
大体、これを売ってたのはただのおばちゃんだ。どう考えても教会の人間には見えなかった。偶々こっちにもあったってことだろう。
(懐かしさなんて……こういう環境だからそう感じるだけだろう)
さっきまでは純粋に美味いと思えたこのコロッケ。今は余計な思いを抱いてしまって口に運ぶ手が止まってしまった。
チラリと棚見を見る。顔をほころばせながらかじりつく様は本当に美味いからだろう。
「なになに? オレの事見ちゃってさ。あ、見惚れちゃった? オレってツミツクリ~」
「はあ? 寝ぼけた事言ってるなよ。……まぁお前はそれでいいかもな」
「……ん?」
奴の様子にほっとしたのだろうか? 少し気が抜けて、そしてまた俺は食べ始めた。
◇◇◇
宿のベッドに横になる俺。
腰を落ち着ける安心感からか、酷使した足がこれ以上の労働を拒むかのように重く感じる。
足を伸ばすだけで軽く痛いな……明日の朝には治ってればいいが。残ってないよな?
やっぱ慣れない山歩きはきつかったな。
向こうではどうあげいても体験出来ない魔物退治は……こっちは慣れとかないとこの先死活問題かも。
「やっと一息つけるな」
今この瞬間だけは、何も考えずにいたい。
「ふぅ……」
「あ、若いうちからため息ついちゃってさ。すぐおじさんになっちゃうぜ」
「……うるさいな」
隣のベッドでは棚見が横になって本を読んでいた。
別室も考えたのだが、やはり先の事を考えれば少しでも金の節約をするべきと考え同室となった。
それでも二人ともベッドに寝れる事を考えれば、昨日よりも贅沢している感がある。
「お前って字とか真面目に読むタイプだったのか。ちょっと意外」
「え~失礼じゃないそれって。……なんてね。マジに読む本なんて漫画くらいだけどさ、でも意外と面白いんだよねこれ」
奴が読んでいるのは、いわゆる魔導書だった。
『三歳から楽しめるかんたんな魔法の教科書』というタイトルの幼児向けのそれだったが、あいつはさっきから読み込んでいた。珍しく静かに。
そんなに面白いのだろうか?
気になって俺も指輪から取り出して目を通してみるが……なるほどこれは見やすい。
幼児向けだけあって絵が多く、本当に分かりやすく魔法を解説していた。
これは絵本に近いな。
確かに、静かに本を読める機会がこの先あるかもわからないし、目を通してもいいだろう。
何より魔法について学べば役立つ場面もあるかもしれないし。
(俺も使えるかもしれない)
目覚めた能力ばかりに気を取られていたが、何もそれだけを武器にする必要もない。
そう考えて、俺も本の虫となって読む込み始めた。
本来、寝るまで読むつもりだったのだが…………気づけば朝日が窓から差し込んでいた。
「あ、あれ?」
「ふぁぁ……ぅぁっ、良く寝たぜ~。香月くんってば今日早いねぇ」
隣のベッドで同じように読んでいたはずの棚見は、寝起きの目をこすっていた。
……寝ていないので俺の足は当然重いまま。