第25話 正常な唖然
出来たては格別だった。確かに焦げてはいるが、それが逆に香ばしさを演出しているな。塩だけのシンプルな味付けだが、それがまた次の咀嚼に繋がってくれる。
絶妙だ……初めてにしては上出来じゃないか?
パンと交互に食べると、相乗効果による旨味の多幸感が全身を強烈に刺激する。
気づけば二人であっという間に食べきってしまった後。
「はぁ……しゃ~わせ~って感じ。このままゆっくり昼休みに入りたいよね~」
飲料水の入った水筒に口を付けて食後の余韻に浸る棚見。
こいつすっかり目がとろけ切ってるな。いや全身もか。
「ここは学校じゃないぞ。ゆっくり過ごしたい気持ちは分かるが、片付けが優先だろ」
焚火は川の水を掛けて消し、残った灰はバケツの中に入れて近くの木の根元にスコップで埋める。
その際魚の骨や竹串も混ぜ込んで……これで完了。
「腹ごしらえも終わったんだ、出来れば今日中に山を下りたいんだから……ほら行くぞ」
「うんまぁ、行くのはいいんだけどぉ……――その前にお片付けから始めよっか」
は? そう口にしそうになった時の事だ。
川の向こう側、その向こうの山の木々の奥が騒めいたと思ったら、何かが飛び出してきて、それが一気にこちらへと向かってきたのだ。
――シャァァアアアッ!!
そんな雄叫びを上げながら、豚頭の太った緑色の化け物が拳を握りながら現れる。
如何にもファンタジー生物の登場に、ここが地球の渓流でないことを改めて実感させられた。
その巨体に似合わない、それなりに早い足でこちらに一直線に向かってくるその化け物。
川を突っ切りながら向かってくるその姿に、俺も指輪からナイフを取り出しつつも左右どちらかに避ける算段を付ける。
(真正面からじゃやり合えない体格差だ。意表をついた後逃げるか……?)
こんな思考が出来るくらいには、こちらに慣れたらしい俺は緊張感に汗を流しながらその瞬間を待った……のだけれど。
「じゃ、ちょっと行ってくるね」
「は? えっちょっと!?」
隣で槍を取り出した棚見は能天気な声を出した――瞬間、空へ舞い上がっていた。
「へい豚ちゃんこっちだぜい!」
声を掛けられた豚の化け物はほんの一瞬だけ動きを止めた、それが致命的な隙になってしまった。
声の主を探し当てるよりも早く、上空から急降下してきた棚見の槍で脳天から股座までを貫かれてしまった。
悲鳴を上げる暇もなく、絶命して横たわる豚野郎。
「おっし、いっちょ上り!」
さっきまでの俺の緊張感は?
目の前の出来事のせいで止まった思考の再起動に時間が掛かる。
しかし何よりもその時間を伸ばしたのは、次の瞬間棚見の口から放たれた言葉だった。
「これも豚じゃん。焼けば食えるかな~? ほら非常食みたいな感じで指輪に入れてさ。……どうしたの? そんなに口空けてさ」
……その後、頭が正常に戻った俺が諦めさせたのは言うまでもない。