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第24話 食事の為に

「っしゃあああ!! ……っと。よし、これで……何匹目だっけ?」


 村を飛び出し二時間程。指輪から取り出したこの懐中時計が正確ならだが、それくらいの時間を掛けて下山していた。


 その過程で昼飯の確保の為、途中で発見した川に釣り竿を垂らしていた俺。

 どういう訳か俺は今だ一匹も釣り上げていないにも関わらず、棚見は今のでもう六匹目だ。

 何なんだこの差は……。


「もうこれくらいでいいかな~。にしてもメッチャ便利じゃんこの指輪! 釣り竿にバケツまで入ってるとかさ」


 魚をバケツに放り込んだ後、無邪気に指輪を見るその顔は、子供が玩具を見るように実に活き活きとしていた。


 旅に必要な道具は一通り揃えてくれたおかげで、最低限の衣食住の確保が出来た。

 ここで釣りをやれてるのもその恩恵な訳だが……。


 おかしい。お互い釣りの経験は無いし、同じ道具に同じ釣り餌を使ってこれって……はぁ。


「なんか暗い顔してんじゃん。大丈夫だって、ほら! 香月くんの分もちゃんと取ったんだし、半分ずつ食べようぜ」


 キチンと半分に分けられるっていっても俺の成果は一匹も無いんだけどな。

 いつまでも気にしたって仕方無いか。


 集めた木の枝にマッチで火を着け、十分な火力を確保する。

 後は棚見のバケツに手を突っ込んで川魚を……あれ?


「この……この……! くそ、逃げやがる!」


「貸して。……はい」


 俺が苦戦した魚掴みをあっさりとやってのけて益々気落ちしてしまった。

 思わず肩を落としてしまった俺を誰がどうして責められる。


「まま、初めてなんてこんなもんじゃん? じゃ仕方無いって~」


 励ます言葉を送るこいつも初めてな訳だが。


 まな板を取り出して魚を寝かせ、暴れ回るそいつに苦戦しながらもなんとか内蔵を取り出す。

 ……ふぅ、これはなんとか出来たぞ。初めて故に達成感もひとしおだ。


「失った自信もこれでやっと」


「あ、終わったよこっち。……どうしたの? そんなに口空けてさ」


 俺が一匹仕留める間に五匹目が終わったらしい。

 呆然としてしまった俺を誰がどうして責めらる。




「いいニオ~い……。なんかいいよね、こういう感じ。憧れが現実に! みたいな?」


「…………そうだな」


 十分に塩を振った串刺し魚。

 焚火の周りを囲ったそいつから漂う匂いが食欲をそそられると同時に、先程の傷心を忘れさせてくれ……てはくれなかったが、それでも今は喉が鳴るこの感覚に任せよう。


 熟練者は状態を見て火の強弱を使いこなしたりするんだろうが、素人同然の俺達は何よりもしっかり焼く事を重視した。

 当然、生焼けが怖いからだ。水分も十分に落とさないと。


「ちょっと焦げ目が強い感じだけど、もういいよね? はいパン」


 今朝貰ったパンを受け取った俺はそれを片手に持ち、もう片方の手で魚の串を持つ。

 ……思った以上に熱くて一瞬落としそうになったのは内緒だ。


「んじゃ……いっただっきまーす!」


「頂きます」


 同時にかぶりつく俺達。

 きっとこの瞬間に思った事は同じなんじゃないか?


「……んんん! んま~い!」


「ん……」

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