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第23話 旅立ちの二人

「で、どうする? 図らずも準備が出来上がってしまったし、このまま旅に出るか?」


「そうだね~……、とりま地図出してから行先決めない? やっぱドコ行くか決めてからの旅っしょ!」


 言い分はもっともらしいが、こいつが言うとまるで旅行にでも行くかのようだ。


 教会近くの公園のベンチに座り、指輪から地図を取り出す。

 ……初めてやったが本当に指輪から出てきたな。不思議な感覚だ、正直ちょっと酔いかけた。


 それはともかく地図を二人で覗き込む、村の入り口に書いてあった名前からして俺たちが居るのはこの地点だ。わざわざ描いてくれたのか、赤い点で現在地が示されていた。


「あ、やっぱそっか」


「あ? 何がだよ?」


「オレ達が居るのってやっぱり山の中だったなって」


「あ、ああそうだな……」


 納得したような顔をするが、どの時点でこいつは気づいてたんだろうか?

 確かに言われて見れば山特有の気候を感じる……訳ないか、都会育ちで。

 俺は山に登った経験が無いので違いは分からない。ということはこいつはそうじゃないんだろうな。


 それは別にいいが、この付近にある目ぼしい場所は俺達が元々いた神殿くらいしかなさそうだ。

 ここから近い村でも、それなりに距離がある上に下山しなきゃならない。


 山頂付近の開けた場所にこの町があるとは言っても標高自体は高くなさそうだ、下山するにも然程苦労する事もなさそうだが……。


「とりあえずは下りてみない? それで近くの村に行って、それからまた別の場所行って~ってな感じでさ。オレいろんな場所行って美味しいもの食いたいな」


「やっぱり旅行感覚じゃないか……。大体、美味い物って……金はどうするんだよ? 手持ちに余裕が出来たって言っても稼がなきゃいつか尽きるぞ?」


「それはさ、やっぱバイト? その場所その場所で働くみたいな」


「バイトね。ま、確かにそれも一つの手だが。……いや、いっかそれでも。俺達は冒険者かもしれないが、わざわざ危ない橋を渡る必要も無いしな」


 これがその手の小説とかだったら、ギルドらしき所に行って依頼を受けて……という感じで路銀を稼ぐんだろうが。

 俺たちは冒険者としてはズブの素人だしな。力も無いうちに傭兵の真似事なんて、な。


「危ない橋って例えば?」


 どうもこいつはその手の事に疎いらしく、お約束が分からないらしいな。


「依頼受けたりとか、魔物の素材集めて売ったりとか。まあ、つまりそういうことだ。でもお前が言ったようにバイトして稼げば……」


「いいねそれ! なんか面白そうじゃん、採用!」


「……は?」


 いや、だから危ない橋を渡る必要なんて無いって今言ったばかりじゃないか!


「た、棚見お前な」


「せっかくだし、そういうのもやって行こうぜ! 何事も経験って言うじゃん? 学校じゃ教えてくれないオトナな社会勉強ってことでさ。お金稼げて美味しいもの食べて、一石二鳥! ……あ、この場合三鳥か。じゃサンチョー!」


 何能天気なこと言ってんだこいつ?

 そんな社会勉強は地球には無いし、それをわざわざここでやる必要もない。


「自分の力だって把握してないうちにそんな」


「だからさ! ソレも知っちゃおうってワケ。ガンガン敵ブっとばして、ガンガン強くなっちゃって! そんでお金稼いで美味しいもの食べて、一石二鳥! ……あ、この場合」


「どうでもいいそんなのは! 俺が言いたいのは」


「ヤバかったら二人で乗り越えりゃいいじゃん! オレと香月くんのサイキョーコンビに向かうとこ敵ナシってね!」


 どこからそんな自信が来るんだ?

 だが一つ分かっていることがある。こいつとの付き合いの中、こんなことを言い始めたらもう聞く耳を持たないという事だ。


 ……仕方ない、こいつとやっていくと決めたのも俺だ。


 自分を鼓舞するようなそんな気持ちじゃない、ただ自然な諦めの溜め息だ。


「はぁ……わかったよ」


「ヨッシ! じゃあいっくぜ~……!」


「おいなんだ急に!?」


 ベンチから立ち上がった棚見に手を掴まれた俺の驚くを知らず、奴は……。


「ドーン!!」


「うぉお!?」


 そのまま俺を巻き込んだまま、勢いよく走り出しやがった。

 当然俺は為す術も無く転びそうになったが何とかこらえるも、いつ手に持った地図を振り落とすかと気が気で無い。


 それでも何とか指輪の中に戻すも、未だ慣れない感覚と強引に手を引っ張られて走らされる感覚に酔いそうになるのを必死に我慢しながら、町の外へと連れ出されたのだった。


「おい、ちょっほんと……うっ」


「あ……」

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