第22話 そして傍に居る
その言葉に間髪入れずに手を上げた隣のそいつ。
俺も気になることはあるが、ここは棚見に譲る事にしよう。
「結局オレ達ってどんな力が使えるんすか? そのあたりあのシキョーサマから聞かされてないんで、気になってんのよね」
これは素直に驚いた。俺も全く同じ質問をしようと思っていたからだ。
それに対して、リーラコーエルは若干言いづらそうに返答を始める。
「……非常に申し訳ありませんが、皆様方がどのようなお力に目覚めたかはこちらも把握しておりません。実際にお使いになられるまでわからない、としかお答えする事が出来ない事をお許し下さい」
目覚めた瞬間に教会が把握出来る、とかじゃないって事か。残念だ。
いや、重要な情報を把握されてないと考え直す事にしよう。
結局のところ俺はこの宗教団体を信用してないんだから、ここはポジティブに考えるべきか。
「ふ~ん。じゃあさ、オレ達以外にここに来たヤツっている?」
「それに関して言えば、お二人が初めてとなります。他の方々はまだこちらには到着なさってないご様子で、恐らく神殿の方におられるかと」
そうか。いや確かに昨日連れて来られた時点で夕方だったわけだから、一晩そこで寝て過ごすのは悪い考えじゃないよな。
「そっかぁ。でも大変だよね、よく考えたら。あそこの森って熊とか猪とかの化け物が出るワケじゃん? みんな無事に来れるかなぁ」
心配の表情が見て取れるのは、あそこに残してきた人間が全員こいつの知り合いだからだろうか。
しかし化け物に関して言えば、俺達二人でも対処できたわけだし。人数の面を考えても然程問題は無いんじゃないのか。
「化け物……? 失礼ながら、あの森でそのようなものと本当に出会ったのですか?」
今まで表情を崩さなかったリーラコーエルが初めて怪訝な表情を浮かべた。
「え? そうだけど、何かおかしいの?」
「私の知る限り、あの森は人に害をなす魔物の類は確認されていません。……しかし、そうですか」
顎に手を当て、何か考えている様子。
あの森はあれが普通だと思っていたが、異常事態が発生していたのか。
ということは本当なら何の問題もなくこの町に来て、そして説明を受けるはずだったと。
しかし何でそんなことが起きたのか? この辺りの事情を知らない俺にはいくら考えてもわかるはずもなかった。
考えがまとまったのか、リーラコーエルは再び口を開いた。
「申し訳ありませんが、私は席を外させて頂きます。問題の森の状態をこちらで確認に行かなければならないようですので。他の救世主様方も直接お迎えに行く必要があるようです。……お二人はこのまま当教会を利用しても構いませんが、どうなさいますか?」
「あ、いや。オレ達はもう行こうかなって。ね、香月くん?」
「え? あっそ、そうです。どうも、ありがとうございました……」
「いえ、皆様のお役に立つことが我々の役目ですので。では、これにて失礼させて頂きます」
それだけ言うと、この部屋は再び二人だけになってしまった。
とはいえ、俺ももう行こうと思っていたから席から立つ。
「で、どうする? 町を見て回るか、それとも」
神殿に戻るか。
俺の知り合いは一人も居ないが、こいつに取っては知り合いばかりだ。
安否が気になるんじゃないかと思う。その場合、俺はこの町に残る事にするが。何せ俺の知り合いじゃないしな、気まずい。
「向こうには戻らないかな」
意外な答えだった。しかし何故?
「多分オレが行くよりもここの人達に任せた方が説明とか省けるし、安全だと思うからその方がいいんじゃない? それに~」
「な、なんだよ……?」
「オレが行っちゃったら香月くんがまた一人になっちゃうしね。オレってばやっさし~、ありがとうって言ってくれてもいいんだぜ」
ニヤニヤする棚見を見てるとイラっとするが、ここで反論するのは奴の思う壺だ。
敢えてそのまま流す事にした。
「……とりあえず町に戻るか」
「そだね~」
そう言って俺達は部屋を後にしたのだった。