第21話 旅の準備
「か、勝手に……」
「あ~、もしかして照れてる? じゃあ今度は彼女が出来た時にしてやんなよ。勿論左手に、さ」
(怒ってるんだ馬鹿! 大体大きなお世話だ!)
小指に嵌った指輪を見て内心溜息を一つ。
これ実は呪いとか掛かってないよな? 嫌な妄想だけは幾らでも思いつく自分も嫌。
考えても仕方ない、こうなったら使い倒してやる。
「デザインもイイし、気に入っちゃったかな。へへ、オソロ~」
俺は嬉しくないぞ。
「お気に召したようで、こちらも報われる気持ちです。また、その指輪の中には心ばかりの物を入れておきましたので、旅のお役に立てばと思います」
どうやら中身は空じゃないらしい。とはいえ、それを一体どうやって確認しろと言うのか?
俺が何を考えているのか分かっていたかのように、リーラコーエルは説明を始める。
「指輪を嵌めた状態で念じればよろしいのです。そうすれば脳内に直接中身が映し出されますので」
困った、説明がいまいち説明じゃなかった。
念じる? 念じるって何だ? 俺の人生において欠片もした事の無い行為だ。
どうすればいいのか……?
「あ! へぇ、こんなのも入ってんの。お金も入れてくれてんじゃん、親切ぅ」
隣では棚見がさも当たり前かのようにそれをなしていた。
何故こいつはこういうことが出来る? ……なんか負けた気がしてムカつくな。
試行錯誤の末、俺は指輪を睨みつける事にした。
中身を見せろ。…………がっ!?
「ぅ……っ……!」
「え? 香月くんどうしたん? 急に口抑えちゃって」
心配する声が飛んできたが、今はそれを気にする余裕もない。
急に吐き気が込み上げてきた。これは一体?
「落ち着いてくださいカツキ様。その症状は初めて指輪を使用した方には良くある事なのです。今までにない未知の感覚に襲われますので、脳が混乱をきたして頭痛や吐き気などの症状を催すのです。……深呼吸して、飲み物を口にするとある程度気分も落ち着かれるかと」
言われた通りにゆっくり深呼吸し、紅茶で喉を潤した。
確かに徐々に落ち着いてきて……吐き気も収まったみたいだ。
「ビックリしたぜ、ほんと大丈夫なワケ?」
「私の方もご説明が足りず申し訳ありません」
リーラコーエルは謝罪を口にしつつ、言葉を続けた。
「慣れさえすれば何も問題無く使用できるはずです。それに直接指輪を見る必要も無くなります」
慣れかぁ。
だとしたら何で棚見は初めてなのにこんなピンピンしてるんだ? 個人差って事か? ちょっとズルいな。
まあいい。気分も落ち着いたことだし改めて指輪の中身を確認することにした。……でもしばらくはこの感覚に慣れそうにないな。
頭を抑えつつも確認を続けると、確かにいろんなものが入っていた。
さっき棚見が言ったように金の入った袋。ご丁寧に金額まで把握出来る。どうなってんだこれ?
それ以外にも服を二着程、靴まで入ってるな。下着もある……女性物も入ってるのはこれを配るのは俺達だけじゃないからなんだろうな。
まあそれはさておき、地図やテントなどの野営道具まであるから確かにこれは便利だ。
他にもナイフやら剣やら槍やら、武器が一通りあるしそれに……。
「あら何これ、本? マドウショ……?」
「初心者向けに分かりやすく解説した本を入れておきました。興味が御有りでしたら是非活用なさって下さればと」
地球から来た人間としては一番興味がそそられると言っても過言じゃないな。
一応ありがたく活用させてもらうとしよう。まともに使えるようになるのはいつの事か分からないが、見て損は無いはずだ。
「さて、これで言付かった説明等は終了となりますが……他に何か気になることはございますでしょうか?」