第19話 彼らは何のために……?
「そう言って頂けるとこちらとしても助かります。……さて、こちらの事情を離す前に自己紹介などをさせて頂いても?」
「え、ええ……」
「ありがとうございます。私はこちらで皆様方の説明役を任されております、リーラコーエル・グルーザッハと申しまして。以後、お見知りおきを」
やはりというか、ファンタジーな名前が飛び出してきた。
これだけでも、ここが日本とは明確に違う場所だと認識させられるな。
「あ、オレ棚見矢耕ねお兄さん。好きに呼んじゃってね……リーさんでいい? それともコーちゃんとか?」
「こちらもお好きにお呼び下さいませ。それでそちら様は……」
「……俺は」
「香月くんだぜ。よろしくしちゃってね!」
「はいカツキ様でございますね」
フルネームで名乗らせろよ。なんで見ず知らずの人間にいきなり下の名前で呼ばれなきゃならないんだよ……よし、ここはちゃんと訂正して……。
「いや俺は」
「でさ、結局そちらさんてどういうアレなワケ?」
遮られた!? 俺は若干驚いた顔で隣を見るも気づかない様子だ。
「では改めましてわたくし共についてお話致します」
そのまま話が続いてしまった為、もう訂正する事が出来なくなった。
……諦めて話を聞こう。
「我々は『マリシュエラ教会』という組織でございまして、一言でいえば……」
「宗教団体って事? やっぱそっかぁ」
「はい、ご理解頂けたようで何よりです。そして皆様方はそのマリシュエラ教の司教様の手でこちらへと召喚された、という訳にございます」
やはり宗教がらみの団体か。それだけで嫌な感じもするが、これ自体は想定内だから驚きは少ない。
第一印象が怪しいローブ集団の時点で覚悟していた事だ。
「シキョーサマって、あそこにいたの全員が?」
「いえ、そういう訳では。確かに司教様は何人かいらっしゃいますが、儀式を主導されていたのは御一人でございます」
じゃあ、あそこに居た他の連中は手下か。
笑顔を貼り付けた美人。近寄りがたい雰囲気を放っていた……というより関わってはロクな事になりそうな女が儀式とやらを起こしたって事か。
「そ、その……。あ、あの女の人って今は……?」
「あの方は既にこの地を発っておりますのでお会いする事は出来ません。もし御用が御有りなら直接総本部へと向かわれるしかありません」
「そ、そうですか……」
別に用は無い。文句はいくらでもあるが、あったらどんな目に合うかもわからないし。
「本部? それってこっから遠いのリーさん?」
「そうですね……。この国の首都である『セングラスト』に存在しておりまして、その場所はここから北西に向かって五百里といったところでしょうか」
里? 一里が約四キロだから……二千キロもあんのか!?
いや、この世界特有の単位でもっと近い場所にあるのかも……。
「そちらの世界の他の単位で申し上げてもよろしかったかもしれませんね。約二千キロメートルの地点に首都は存在します」
合ってた……。
というかやっぱりこいつら地球の知識がある程度持ってるな。
「ご安心下さい。翻訳魔法により、そちらの知識に合わせて単位などは互換性を持たせておりますので、今後混乱を招くような事はないかと」
「へぇ便利。ラッキーだね香月くん」
なんでそれで喜べるんだよ。
「でもそんなに離れてるなら帰るのも大変じゃないの?」
「いえ、司教様程の実力者ともなると転送魔法が使えますので。今頃はあちらで実務に当たっているかと」
俺達の事勝手に呼び出しておいて自分はさっさと日常業務に戻ってるのかよ。
やっぱムカつくな。
「さてやはり貴方様方が一番お聞きしたいのは――こちらでの御役目、ではありませんか?」
リーラコーエルの雰囲気が変わった。より真面目になった、とでも言えばいいか。
やっと、本題に入るようだ。