第16話 敵か、はたまた……。
「いや~悪いねお姉さん、ホントこんなに貰っちゃっていいの?」
「別にいいさ、店に出せない出来損ないだしね。それにいうほど量も無いと思うけど」
「ほとんど文無しのオレ達にとっちゃこれだけでも大量だよ。なんかこれだけだと申し訳ないみたいな? 肩でも揉んじゃおっか!」
「いいさいいさ。肩ならうちの亭主に毎日揉んでもらってるからね。仕事取ってやらないでやってよ」
「あら? 中々アツいじゃん、うらやま。そうすると円満の秘訣ってやつが聞きたくなっちゃうかな~」
そんな会話を他所に、俺はパン屋の女性を手伝った礼として焼きたてのパンが入った紙袋を覗き込んでいた。
この匂い。やっぱり食欲を誘って仕方がないな。
しかしまさかこんな事になるとは、節約する予定だったが思わぬ幸運だ。
男二人で食べるにしても、昼飯分ぐらいは余裕にある。こんなに貰えるなんて、棚見じゃないが申し訳ないくらいだ。
「……ってなもんさ。別に大した話じゃないだろ? 要は気が合った上でお互い気を合わせるのさ」
「いや大した話だって。まずそんな相手に出会うのが難しいっしょ? でもこんないいアドバイスまで貰っちゃってさ、ラッキー過ぎて明日は風邪ひくかも」
「こっちこそ楽しくおしゃべり出来たからお相子さ。……そっちのあんたも、こんないい相棒持てて果報者じゃないか。大事にしてやんなよ」
「は、はぁ……ど、どうも」
やっぱりこのおばちゃんどっか勘違いしないか? 一々訂正するのもめんどくさいし、適当に合わせとくか。
「じゃあオレ達行くね。開店前に客でもないヤツがいつまでも居るもんじゃないし」
「ああ。あんた達この辺りの人間じゃないだろ? 何処行くのか知らないけど、またこの町に来ることがあったらここにおいで。おいしいパン作って待ってるからさ」
「あんがと! じゃあば~い」
「ど、どうも。お邪魔しました……」
扉を開いて外へと出る。
「いや~気前のいいお姉さんに出会えて早速ハッピーじゃんか。このまま町もいい感じに旅しちゃう?」
「まさか。パンの入った紙袋だけ持って町を出ろって? 数分で化け物の餌食だろ」
「ははっだよね。……でもどうする? 何をすればいいかもわかんない感じじゃんオレ達。せめて分かりやすいモクヒョーってもんが欲しいんだよね~」
言い分はわかる。しかし、そんな都合の良いものは無い。
アンテナ張って町民の会話にすら気を付けて情報を集めなけれならない身の上だ。
面倒だとは思うし、とにかく気が滅入るけれど。
……だが指標が欲しいのも事実。
奴らは世界の危機だとか言ってても、どう危ないのかは話してない訳で。
今は目先の物でもいい、何をすればいいのかを決めたい。
(せめて金。それから身を守る装備的なものが欲しいが……)
そんなことを考えながら歩き続けていると、ふと視界に見覚えのあるローブ姿の人間を発見した。
距離は遠い、視界の端に偶然映っただけだ。
「なあ、あいつ」
「あいつらの仲間じゃね? ちょっとついて行こうよ」
同じように棚見も発見していたようだ。