第13話 特技が役に立つ
だったらついでに金も……ってこんな事は考えても仕方ないか。
やっぱ何から何まで手のひらの上って感じがして、いい気分にはならないな。
「で、何食べる? オレやっぱ肉かな~」
「一番安いスープの大盛りとパン。肉は欲しいけど、今は節約を優先したい」
「あ~やっぱそっか。じゃあオレもそれで」
棚見が残念そうな声をあげるが、こればかりは仕方がない。
今回はたまたま売るものがあったからいいが、金策を考えなければならない身の上なのは変わりがない。
そう思って注文をしようとした時だ、棚見の隣の席から男の声が聞こえてきた。
「なぁ嬢ちゃん」
「……ん? あ、オレの事?」
「話聞くつもりなんてなかったんだけどな、金がねぇってんなら……どうよ、お酌してくれたら奢ってやってもいいぜ?」
酒に酔って顔を赤らめた男が棚見を女だと勘違いして話しかけてきた。
お嬢ちゃんって、男の恰好してんのに気づかないもんかね。……好きでそういう服着てるとでも思ってるのかもしれないが。
こいつも女と間違えられて流石に怒るだろうな。酔っ払いに絡まれてご愁傷様だとは思うが、せめて俺が二人分注文してやるか。
「ん、いいよ」
「え? た、たな」
「まあま、任せときなって! ……じゃ、お兄さん。グラス持ってくれる?」
「おうよ!」
いいのかよ。
男の手元にあった酒瓶を持つと、掲げられたグラスにそっと注ぎ始めた。
「お兄さんお疲れ? まあ色々忙しいかもだけどさ、とりあえずこの一杯。これでスゥっと忘れなよ。ほぅら」
声色さっきと違くないか? 酒を注ぐ手つきも品があるように見える。
「おっとっと。……いやあ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。労ってくれる奴ってのもいないもんだが、お嬢ちゃんに出会ってこうして貰えるなら心の垢も流せるってもんよ」
「あらら、そうなの? ならこの縁に乾杯、だね」
「ああ。……ぅう……かぁあ! ふぅ、安酒でも美人に入れて貰えりゃあ美味いもんだねぇ!」
「あは、いい飲みっぷり。……もう一杯ど?」
「お、いいのかい? ……よし、約束通り奢ってやる! おばちゃん、高い肉料理大盛りで食わせてやって!」
「ふふ、ありがとお兄さん。じゃあもう一度グラスお願い」
随分とご機嫌になった男は声を上げて注文。
……こんなに上手くいくもんか? でも上手くいってるんだから現実は受け止めるべきか。
しかしやたら酒飲みの扱いに慣れてるな。もしかしたら今時の陽キャってのはこれがデフォルトなのかも。……それともこいつだけ?
「香月くんもこういうの覚えとく? また良い思い出来るかもよ~」
「俺の顔と喋りじゃ一生無理だと思う」
「え~? オレ、いいと思うけどなぁ」
こいつの感性も良くわからんな。