第11話 やっとの一休み
「ん? お金がどうかしたん?」
「日本円なんて、ここで役に立たないんじゃ……」
「…………あっ」
この時ばかりは俺もこいつも同じ心情だっただろうよ。
「ああ!!? オレたちってもしかしなくても無一文じゃん! ……どうすっぺ」
初めて見るこいつの困り顔。こんな奴でもこういう顔するんだなとか考えても仕方がないわけで。
これでじゃベッドどころか路地裏で一夜を明かすことになりかねん。どうしたものか……。
困り果てて何かないかと周りを見る。
……すると、手に持ってる剣に目がいき……。
◇◇◇
「ありがとうございましたー」
背中に店主の声を浴びながら店を出た俺達。
武器屋と思われる看板の店をくぐり抜けて、今日手に入れたばかりの剣を売っぱらう。
多少名残惜しいが、これも仕方ない。
一応俺の能力を使ってもう一度新品同様の状態で店主に見せた。
どうやらこの剣はこの辺りでは取り扱ってないものらしく、それなりにいい値段で売れた……と思う。
こっちの金の相場が今一つわからないから何とも言えないが。
「とりあえず今日のホテル代になったかな? どう思う?」
「……こういう町じゃホテルじゃなくて宿かもしれん」
傍から聞いたらどうでもいいようなやり取りをしながら、武器屋の店主についでに聞いた宿泊所の場所まで向かっていた。
「剣、売っちゃって良かったのかな?」
「金が無いんじゃ仕方ない」
せめて少しばかりの資金ぐらいおいて消えてくれたらよかったのに、あの妖しい連中め。
残った連中もきっと苦労することだろうな。
いや、もしかしたら売り物になるような道具を作れる能力を持った人間がいるかもしれない。
別に心配するわけじゃないが、同郷の人間が野垂れ死にしたりするんじゃないかと考えると思うところがある。
でもあの人数だったらいろんな能力で森も難なく抜けてこれるだろう、きっと。
ここいらで特に安い宿の扉を潜り抜ける。
「いらっしゃいませ」
若い女の店員の声が聞こえてきた。
入り口から入ってすぐのカウンターに立つ彼女に今日の宿泊の話をつければいいんだろうか。
「……あ、あの」
「お姉さん、今日二人で泊りたいんだけどぉオレ達ってあんまりお金持ってないんだよね。一番安い部屋って空いてる感じ?」
俺が言い終わる前に棚見が宿の状況について話を聞いていた。
さすがに口を開くのが早い男だ。
店員が料金の書かれた案内表を見せながら説明を始める。
「一番お安い部屋ですと一部屋開いていますが、ベッドが一つしかありません。申し訳ありませんがベッドが二つ以上でお安い部屋ですともう埋まっております。どうなさいますか?」
「どうする? 同じベッドで寝ちゃう?」
いや冗談じゃない、何が悲しくて野郎二人で寝なくちゃならないんだ。俺は全力で首を振った。
「ああ……。じゃあ床に布団とかって出来る?」
「可能です。その場合お部屋代も変わりませんが、本当に床に敷いてよろしいので?」
「まあ汚れてなかったらいいんじゃない? 野宿よりはマシだしね」
「承りました。では後程お布団の方はお部屋の方にお持ち致しますので、……こちらの鍵を持ってお先にお部屋へと上がられて下さい」
カウンターの下から鍵を取り出した女性店員は、その白い手に持った鍵をやさしく俺の手へと渡してきた。
「……」
「どったん? なんか難しい顔しちゃってさ」
「あ、いや。……あ、ありがとうございます」
受け取った鍵の部屋番号を確認して、部屋のある二階へと階段を上っていった。
……いやな記憶というのは不意の思い出すもんだな。
つまらない感傷に気分を落としたが、だからといってそのことで足を止めるわけでもなく、鍵と同じ番号が書かれたプレートのある部屋へとたどり着いた。