第10話 付き合わされて抗議
『これ返すね』
そう言ってさっきまで使ってた剣を再び渡して来た棚見、いやお前の方が適任だろう。
そう思って抗議の睨みを向けるも、口笛を吹くだけでさっさと道を歩き始めた。
一体奴の思考回路はどうなっているのか? 今日だけでそんな事を数回考えたが、答えはいつも考えるだけ無駄という結論だった。
とっくに答えが出ているのについ考え込んでしまうのは、こいつに振り回されてる証拠だろうか?
正直嫌になるな。
手に切った剣を見る。ボロボロだった刀身は今は新品同様。
これを俺が成したというのだから、いよいよもってファンタジーの実感が強く沸き上がってくる。
(こうなると俺の能力とやら物を新品に戻すってことか? いやそう決めつけるのはさすがに早いか)
こういう場合、転移物の小説だと……。
「……ステータス。ステータスオープン……」
聞こえないようにボソッと呟く。しかし、何も起こらない。
空中にゲームのようなステータス画面が表示されて、自分のスキルやら職業やらを閲覧出来たりするんじゃないかと思ったが……あてが外れてしまった。
俺だけが出来る特殊スキルで成り上がり! といきたかったが。
出来ないものにこだわっても仕方ない
俺たちをここに呼び寄せたあの女、やはり相当性格がねじ曲がってるんじゃないか?
せめて何が出来るかくらい教えろっての。
「見て見て! 森を抜けたぜ香月くん! はぁ綺麗だなぁ……」
しばらく歩いてやっと森の出口を通り抜けた。
夕陽も降りた森の中は薄暗く、正直あの状況で化け物に襲われたらひとたまりもなかったが、結局あの猪以来何も出会わなったな。
はしゃぐ棚見じゃないが、森を抜けた草原の夜空はきらびやかだった。
満天の星空。
言葉にするとなんてことはないが、都会育ちの俺にはテレビやネットの中の産物でしかなかったそれが、まさに頭上に輝いてる。
「イエーイ! やっぱラッキーじゃんオレたち! 明日もきっといい事あるって」
何がそんなに楽しいのか、天に手を掲げて一人でやいやい騒いでいた。
(調子のいい奴……)
でもこの光景は素直に興奮出来た。
それにもう一つ、幸運な出来事があったのだ。
「見てよ、向こうの方ピカピカしてるっしょ! あれ町だよ町! あ、でももしかしたら村かもね」
そう、森の出口からそう遠くない場所に町らしきものを見つけたのだ。
「町……か」
目的の一つを達成出来そうになって、感慨深いものを感じる。
とは言ってももう夜だ。町の散策だなんだっていうのは今日はもう諦めた方がいいだろう。
「よーし競争だドーン!!」
「……は?」
突拍子もないことを言い放ちながら急に走り出した棚見。
これだから陽キャは意味がわかんないんだ!
「くっ、くそ。こっちは剣持ってんだぞ……!」
別に張り合うつもりはないが素直にムカつく。
「ホラホラ、置いてくよー!」
散歩時の犬のようなはしゃぎっぷりで、俺を置いて奴は走り去っていく。
その後ろ悪態をつきながら俺も走っていくのだった。
◇◇◇
「着いたね~町。ま、入り口だけどさ」
「……はぁっ……! ひぃ……ぁあ……ぅ……!」
結局距離を開けられながらそれでもたどり着いた時、俺の息は上がっていた。
体育の授業でもここまで全身で呼吸するような感覚に陥った事は無いのに。
授業では疲れきれない程度に適当に手を抜いて走ったりしていたから、この感覚は本当に久しぶりだった。
こっちは剣を抜き身で持って走って来たんだぞ! 運動能力だってこいつの方が上なのに……!
抗議の目線を向ける。そんな俺に奴は肩に手を置いてきた。
「まぁまぁ、いい運動になったと思ってさ。ほら、今日はベッドでぐっすり眠ろうよ。せっかく町まで来たんだし。オレってつい最近までバイトとかしてたからちょっとしたお金持ちなんだよね~」
そう言って懐にしまってあった財布を取り出して見せて来た。
まあ、俺もはっきり言って疲れたしここは好意に甘えて……あっ。
「金……」