第1話 巻き込まれた俺
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、こういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
俺は自称する事では無いが陰キャで、ネット小説の類を好んで読んでいる。
だからこの展開に、いち早く察したという自信がある。
……直後には取り乱したのだから、他の連中とは誤差の範囲だろうが。
気づいた時には、宮殿のホールとでも言えばいいのか? 神聖な感じのする大広間に俺達は居た。
他クラスの俺には顔なじみの人間など一人も居ない上に、放課後の時間だった事もあり、よりにもよって不良寄りの陽キャしかいないようだが。
「な、なんだよこれ!? 一体誰だてめぇら?!!」
当然の怒号を飛ばすのは、見るからに不良の金髪の男だった。
普段ならば全く思考が合わないような人種だが、この時ばかりは完全に一致していた。
喧嘩なれしていそうなその男も、想定外の事態に焦りと困惑の色を隠せないようだ。
この場合、呼ばれた全員がそうなんだろうが……。
俺達は黒いローブを来た人間に囲まれていた。
目深くフードを被っているせいか、老若男女の判断はつかない。
この辺りはクラス転移やらクラス召喚やらの冒頭とよく似ている。
などと考えられる程度には、知識上の慣れが余裕を持たせ始めていた。
あとはこの場をどう切り抜けるかだ。
他の連中より余裕はあるかもだが、それでも心臓がバクバク言ってる。
この場での選択次第では、即殺されかねない。そういう展開も俺は知っている。
ローブ集団の先頭に立つ、一人だけ顔を隠していない、恐らく一番偉いであろう女が笑顔のまま前へと出た。
「突然のお呼び出し、申し訳ありません。皆様に集まっていただいたのは他でもありません」
雰囲気は穏やかで、それこそ詐欺の類に引っ掛けてきそうなタイプの口調だった。
それに自己紹介から始めないあたりに、どこか癇に障る傲慢さを感じる。
「勇者様方には私達の世界を救って頂きたいのです」
「はぁ!? 勇者!? いきなりツラ見せてきたと思ったら……頭イカれてんのかテメェ!?!」
大声を出したのは金髪の男だった。
当然極まりない発言で、誰もが思っている事を口に出してくれた点には感謝したい位だ。
この展開に覚えのある俺でも、実際こんな目に合ってうんうん頷けるもんじゃない。
このパターンは何度も読んだ事がある。そのままペラペラと世界の救済やら世界の危機とやらが語られるんだろう?
この場合、オタクとして理不尽さを感じずに能力を貰えたりする可能性に喜ぶべきなのかもしれないが、それ以前に一人の人間として不安しか感じない。
これは現実なんだ、楽観的には到底考えられない。
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