くねくね
くねくね。
有名な都市伝説だから知っている人も多いと思う。水田や河原などにいて、くねくねと動いている。遠くから見る分には問題ないが、近づいたり望遠鏡で見たりすると、その者は精神に異常をきたし、くねくねとしたダンスを踊り続ける……
仲間内に怖がりが一人いる。ホラー映画や怪談なんかは特に苦手だ。
「そういう話、嫌なんだよー。聞かせないでくれよー」
分かっているとつい嫌がらせをしたくなるのが人情だ。友人の家に集まった時、僕らはそいつにくねくねの怪談を聞かせて怖がるのを楽しんでいた。その友人の部屋の窓からはちょうどおあつらえ向きに水田が見える。話し終えた後、意地の悪い奴が悪ノリを始めた。
「……あれ? なんかくねくね動いてね?」
と水田の方を見て言う。そしてしばらく凝視し続けると突然に「くーねっくね、くーねっくね」と繰り返しながらダンスを踊り始めた。にたにたとした気持ちの悪い笑顔で。それを見て、別の奴も水田を見ると同じ様に踊り始めた。それを見て察したのか、また一人、そのくねくねダンスに加わった。もちろん、“怖がり”は青い顔になっていた。その顔が面白かったものだから、僕もそのくねくねダンスに加わった。「くーねっくね、くーねっくね」と。そうして遂には“怖がり”以外の全員がくねくねダンスを踊った。
「お前ら、怖がらすのはやめろよー。いい加減にしろよー」
と涙ながらに“怖がり”は訴えていたが、僕らは気にせず踊り続けた。可哀想に、彼の顔はどんどんと蒼白になっていった。それでも誰も止めなかった。酷い話だと思う。もっとも僕も止めなかったのだけど。
そして、やがて恐怖が限界に達したのか、突然彼も「くーねっくね、くーねっくね」とダンスを踊り始めたのだった。それを受け、皆はドッと大爆笑した。
「アハハハハ! まさか踊り出すとはな!」
「ウケる! ちょーウケる!」
もちろん、皆は踊りを止めていた。が、“怖がり”の彼だけは相変わらずにくねくねダンスを踊っていた。「くーねっくね、くーねっくね」と。
「ちょっ! もういいって悪かったって」
一人が止めようとした。しかし、それでも彼は踊り続けた。
「いや、ほんとにもう良いって」
別の一人が言ったが、やはり彼は「くーねっくね、くーねっくね」と踊り続ける。その頃には誰も笑っていなかった。
初めに彼をからかうくねくねダンスを始めた意地悪が「いい加減にしろ!」と言って彼を引っ叩いた。しかしそれでも彼は踊りを止めなかった。
「くーねっくね、くーねっくね」と、にたにたと笑いながら踊り続けている。
どうする事もできず、僕らはそんな彼の様子にただただ凍り付いていた。