結婚退職はクロだ節
お馴染みのは“月曜真っ黒シリーズ”ですが、黄緑ちゃんの原案です(^^;)
その1 <奸計>
ローズピンクの“ブランド”ケースに包まれたスマホがテーブルの上に置かれ、今この場とは違うカフェの物音を再生し始めた。
どうやら二人の女性の押し問答らしい。
「……譲るって!! 一体どういう事よ!!」
「私、遥みたいに綺麗じゃないし……」
こう話す“女性”の声に工藤辰哉はスマホと目の前に座っている女性の顔を見比べた。
見つめられた女性は少し頬を染めて俯く。
その“俯いた女性の声”が話を続ける。
「初めて好きになった人と、初めてだったの……」
「盗ったのね!! 辰哉を!! まさかアナタがそんな事するなんて!!」
「ごめんなさい! でもどうか!『返して!』なんて言わないで!! この通りお願いします!! 私がままならない身の上だって事も理解してください!!」
「そんな勝手な事!! まるで既成事実作りの実効支配じゃない!!」
「私はあなたをバカにしているわけでは決して無いんです!! 慈悲を乞うているのです。 あなたにとって殿方はアクセサリーみたいなものでしょう、アナタが川越さんとも深いお付き合いなのも、私、知ってますのよ……」
このセリフに辰哉は苦い顔でカップの中身をグビリ!と飲んだ。
「ミルクピッチャーはお使いにならないの」
先ほど来、この物語の“主役”を張っている香坂真帆の指は銀色の冷たいミルクピッチャーを離れ、辰哉の小麦色の腕と焼け残った白いグローブ跡を辿って、彼の手の甲に浮き出た太い血管の上で遊んだ。
「お怒りになられる? それとも……遥さんや川越さんが憎らしいのかしら……大人しい私は、あなたのそのギラギラしたところがとっても好きなの!! 私を貰って下されば、あなたは更なる高みに昇って今より比べようもないくらいに様々なものが手に入りますわよ」
辰哉は触られている手をひっくり返し真帆の手首を掴んだ。
「どうか!私をしっかりとあなたのものになさって! あなたの感情で私を満たして!!」
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その2 <毒吐く>
7年目で係長職はこの宮北産業では最短記録らしい。
もちろん同期はすべてオレの部下だ!
ここ2、3年のちょっとしたラリーは適度な緊張感でオレの仕事にエンタメを付加してくれたが、登ってみると……たかだか三合目くらいなのに、これからの大体の道筋が見えてしまった。
「バカバカしい! ここは才覚よりサイコロの出目で立ち位置が決められるスゴロクだ!! そして今、オレがやっているのは雨後の筍の駆逐と唐変木への制裁みたいなもの……」
オレは急に学生時代が懐かしくなった。
都心を走る電車のホームから見渡せる釣り堀が頭に浮かぶ。
でも、釣るのはコイはコイでも生身のオンナ……『恋』を釣る岡釣りだ!!
一度は飽き飽きして放り投げた色恋沙汰が、いわゆる甘酸っぱい『青春ソース』をいい塩梅に振りかけらた状態で思い出されて、オレの情熱は一気に加速し、自慢の竿を存分に振るった。
そして今日の釣り堀は……このあいだ主任に引き上げてやった川越信二の遊び場である“地酒処”主催の蔵めぐりバスツアー
その中で、掃き溜めに鶴だった今利遥にオレはロックオンした。
カノジョ、行きは信二の隣だったが、帰りはオレの隣で差しつ差されつ……解散後はカノジョを拉致り……各蔵での“戦利品”を提げ、デパ地下を経由してブティックホテルに到着。
“挿しつ挿しつ”で極上の大吟醸の香りがするカノジョを味わった。
カノジョは本当にイイ女で……しばらくはオレも夢中になり、指を咥えてジト目をするばかりの信二をうざく思いながらも、カノジョを引き連れて地酒イベントに参加した。
あるイベントでオレはカノジョの飲み仲間の女性を紹介された。
その女性は、“和風美人”と言えなくも無いが全くもっての地味子ちゃんで……名前を香坂真帆と言った。
聞けば全国でも名だたる名蔵 新潟の香坂酒造の一人娘!! あの地域一帯に君臨する素封家で祖父は運輸大臣まで務め父親は国会議員という家柄、蔵の社長は母が勤めていると言う。
「私自身はこんなにつまらない女なんです」
少しばかり上目遣いにオレを見る……僅かに下三白の目に宿した光がジワリとオレの心にモえて……
その日のうちに“組み敷いた”。
あまりにも簡単で、いささか拍子抜けしたが
この直後……
『小学校の林間学校での“ニジマスつかみと焼き体験”で、手づかみにしたニジマスの腹を指で裂いた時の様な』震えを下半身に感じる事となり、オレは“甘やかな征服欲”の虜となった。
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その3 <黒田節>
結納からさばけた祝宴で、真帆の父である香坂喜一郎は、辰哉に朱塗りの大杯に酌をさせて機嫌よく黒田節を舞った。
聞けば義兄弟の契りを交わした福岡のとある蔵元からの直伝らしい。
二節目からは見様見真似で辰哉も舞に加わり酒席は大いに盛り上がった。
斯様に辰哉は香坂家との関係を着々と築いて行った。
その深夜、離れに敷かれた布団の中で真帆は辰哉にベッタリと甘えた。
「あなたは本当に素敵!! 何に対しても貪欲なあなたに私は“そっこん”なの!! ああ!あなたにみなぎる力を私の中へ!! たくさんたくさんちょうだい!!」
「少し休まないか? 万が一でもキミに飽きたら困るだろう!」
「心配しないで! 浮気は一向に構わない! と言うか他の女のエナジーも根こそぎ奪って私に還元してくれればいいのよ! うん!それって!!なんて素敵なの!! いっそ!私達の子供ができたらカットしてもいいんじゃない?! ウチの父はそういう知己もたくさんあるから、まさかの時の再形成術も問題はないわ」
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その4 <ふたたび毒吐く>
「宮北産業での7年間は私にとってかけがえの無い財産です!! 私は結婚をし、妻の実家の仕事に携わる事となります。 ついてはこの財産を是非ともこれからの仕事に生かしていきたいと思います!! 私は今日、宮北産業を退職いたしますが今後ともご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。」
両手に花束を抱えたままお辞儀をし、壇を降りた辰哉に信二が駆け寄って来る。
「ご結婚おめでとうございます だけど寂しくなります」
「そんな事言わずにこれからも飲みに行こうぜ!! 今度はオレが開拓して色々連れて行ってやるから! で、遥ちゃんとはいつだ?できれば結婚式には招待して欲しいが……」
「来年の6月にはと思っています」
「じゃあまだまだ独身だな!ガンガン行こうぜ!! お前も一人で収まってるタマでもねえだろ?! 遥ちゃんの事はともかくウチの嫁の事は気にする必要はないからな!」
。。。。。。。。
作者はこの後、あと1行書こうと思った。
しかしそれは……余りのも非人道的だったので止めた。
時間が足りなくて“はしょっちゃい”ましたが……意味わかるかしら??
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