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五話 『もったいないバザー』への悪意

 商人が生徒会室に招かれ、『もったいないバザー』についての打ち合わせがされる。

 商人いわく、いっぺんにたくさんの商品の値付けはできないから、あらかじめある程度は先に見せて欲しいということだった。

 確かに、商人は使用人もつれてきて、陳列などの手伝いをしてくれることになっているが、鑑定ができるのは商人も含めて数人だろう。

 この学園の生徒のどれくらいがバザーに参加するか分からないが、一気に来られたら捌ききれない。

 マイルズが案を出す。


「要らないものをあらかじめ先に持ってきてもらって、値付けと陳列をバザーの当日までに終わらせておくのはどうだろう? 我々が発行するチケットも、当日までに生徒に渡せば問題ないだろう?」


 なるほど!

 そうすれば、バザーの当日は渡されたチケットだけを持って会場に来ればいい。

 そして陳列された要らないものたちを、ゆっくり見られるということだ。

 商人にとっても、そのほうが負担がなくてありがたいとのことだ。


「さすが、生徒会長だわ。頼りになるのね!」


 ジェニファーが微笑むと、なぜか顔を赤らめるマイルズと、それを肘でつつくアラスター。

 ベネディクトには生暖かい目でこちらを見られた。

 リコリスはソファにふんぞり返って知らん顔をしている。

 もう完全に乙女ゲームの雰囲気ではないわね。


「では、その方法を採用しましょう。私は生徒たちへの告知文を考えますわ」

「じゃあ僕たちは、バザー当日の流れを決めよう」

「発行するチケットについて、学園長の印を押してもらうのはどうだろうか?」

「偽造防止のために、いい方法かもしれませんね。私が確認しましょう」


 『もったいないバザー』に向けて、生徒会役員が一丸となる場面だが、相変わらずリコリスは無関心だ。

 だが、内容に耳は傾けている。

 興味があるのかないのか?

 私たちがリコリスの本当の狙いを知るのは、バザー当日のことだった。


 ◇◆◇


「すり替えられているですって?」


 商人が慌ててジェニファーを呼びに来た。

 鑑定したときと陳列している品物が違うと言うのだ。

 ジェニファーたちはチケットの発行ミスがないように、生徒の名前と品物を名簿で紐づけていた。

 その名簿を持っていき会場で確認すると、確かに名簿にある品物と陳列された品物がいくつか異なっていた。


「どういうことかしら……? この会場は厳重に施錠してあったのに……」


 取りあえず、名簿と違う品物は会場から下げてもらった。

 バザーの開始を待っている生徒たちを長くは留めておけない。

 アクシデントはあったが、『もったいないバザー』はスタートする。

 今までにない催しに、ワクワクした顔を隠せない生徒たち。

 思わぬ掘り出し物を見つけて喜ぶ声も聞こえる。

 要らないものを持ち込んで得たチケットだからか、気軽にチケットを譲っている光景も見かける。

 あと1枚足りないと嘆く生徒と、そこへ快く自分のチケットを1枚渡す生徒。

 それで欲しかった品物を購入できた生徒は、譲ってくれた生徒に感謝している。

 どうやら生徒間の交流にもなっているようね。

 ジェニファーは会場を見回り、おおむねうまくいったようだと胸をなでおろす。

 マイルズとアラスターは商人たちのもとで、大きな品物の届け先を聞いたり、慌てて要らないものを持ってきた生徒の対応をしている。

 商人たちは平民なので、貴族である生徒に買い取り額を高くしろ、などと大きく出られると断れない。

 しかしそこはアラスターがいることで解決する。

 そして王子のアラスターだけだと商人たちが落ち着かないので、平民のマイルズが緩衝材となっている。

 いい流れだった。

 そこへ、ふらりとリコリスが現れる。

 今まで手伝いのひとつもしなかったのにどうして?

 会場をぐるりと回り、なんの問題もないと分かると、おもしろくなさそうに出ていった。

 もしかして?

 品物の不自然なすり替えに、一枚噛んでるとは思いたくない。

 同じ生徒会役員だ。

 だが、あまりにもその態度が不自然で。

 ジェニファーはバザーが終わるまで、もやもやした気持ちでいた。


 バザーが終わり、生徒たちがいなくなった会場では商人たちが荷造りをしていた。

 残った品物を買い取るためだ。

 金額についてはベネディクトが商人と話をしている。

 ジェニファーはその隙に、マイルズとアラスターに、リコリスの不自然な行動を伝えた。


「施錠した会場の鍵を管理していた人に話を聞こう。どの道、犯人捜しは避けて通れない」


 マイルズの言葉にジェニファーはうなずく。


「あとで僕にも教えてくれよな!」


 アラスターはクリフォードとともに会場に残り、片付けが終わる最後まで見張ってくれることになった。

 それに手を上げて応えると、ジェニファーはマイルズと一緒に鍵の管理人のもとへ急いだ。


「バザー会場の鍵ですか? 一度だけ夜に開けましたよ」


 管理人は不思議そうにジェニファーを見ながら話した。


「失礼ですが、品物を取り替えたいからと申し出られたのはジェニファーさまではなかったのですか? あの日は月が出ていなくて、私もしっかり顔を見てはいないのですが……」

「え? 私が?」

「はい、確かにジェニファーさまの名前を名乗る長い黒髪の女子生徒が訪ねてこられましたよ。そして私が開錠して扉の傍に控えていますと、持ち込んだものと中に陳列されていたものを交換しているようでした。終わったときも堂々と声をかけて出ていかれたので、まさか本人ではなかったとは……」


 すっかり恐縮してしまった管理人に、ジェニファーは「たいしたことはなかったから大丈夫」と告げるしかなかった。

 急ぎ足で会場へ戻ったジェニファーとマイルズの顔は、苦いものだったのだろう。

 出迎えたアラスターも、一瞬でその顔になった。


「どうした? 良くない知らせのようだな?」

「ジェニファー嬢の偽者が現れたそうだ」

「私の名前で開錠させて、堂々と品物をすり替えていったのですって」


 憤懣やるかたない声だったのだろう。

 アラスターが心配そうにこちらを見た。


「偽者ってどんな偽者なんだ?」

「ジェニファー嬢と同じ、長い黒髪だったそうだ」

「顔が分からないよう、月の出ていない夜を選んだようですわ」

「そりゃ確信犯だな」


 しかしそこで手詰まりだった。

 長い黒髪は珍しいが、かつらという手段もある。

 制服を着ていたようだから、この学園の女子生徒に間違いはないだろうが。


「ベネディクト先生に報告して、あとはお任せするしかないですわね」


 三人は暗い顔でうなずきあった。

 

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