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怪異は怪異を以て 怪奇作家最後の事件  作者: 蛇ングウェイ
恐怖篇
6/13

怪談ブログ 幽魔 ででっぽっぽ考察

 これは友人から聞いた話だが、彼は幼いころ、夜更かしをしていると親から「寝ない子誰だ ででっぽっぽ」と言われたという。

 寝ない子供を寝かしつけるために怪異を持ち出すというのはよくあることだ。それこそ私も幼いころは『もっこ』が来るぞと脅されたし、お化けがやって来るという絵本も多くある。面白いのはこれは世界共通の文化らしいところで、例えば英国には『子供部屋のボーギー』なる言い伝えがある。ボーギー、ボギーマンなる存在が、子供をさらうというのだ。

 しかし気になるのは『ででっぽっぽ』とは何なのか、という点である。正直、初めて聞く名前だ。どんな怪異なのか気になるが、友人も怪異の性質までは親から聞いたことはないという。これでは考察のしようもないと思われるが、しかし我々には重要な手掛かりが一つ残されている。名前だ。怪異において名前はかなりの手掛かりとなる。例えば先に述べた『もっこ』も、その名前を鍵として正体に辿り着けるのだ。『もっこ』の場合、これは蒙古が由来なのだという。元寇の際、蒙古軍が子供や女を攫っていったことから来た怪異が『もっこ』なのだ。蒙古をモデルにした怪異が東北地方まで伝わっているというのはなかなか面白い。怪異は伝播する。語られることで、伝えられることで、日本中に拡散することもある。

 閑話休題。

 話がそれてしまい申し訳ない。今回の話は『ででっぽっぽ』だ。

 これが何なのか。私は、鳩なのではないかと思う。名前がまず鳩の鳴き声だ。検索してみて欲しい。キジバトの鳴く動画が出てくるはず。この名前と全く同じ鳴き方をしているのが分かるだろう。そして鳩にはとある俗信がある。

「鳩が夜鳴くと人が死ぬ」。

 どうやら古来、鳩が夜鳴くと人死にが起こるとして恐れられていたことがあるらしいのだ。

 ここから推測するに、『ででっぽっぽ』という怪異は、鳩が鳴くのを聞かないよう、早く寝なさいという意味が込められているのだろう。鳴いたとしてもそれを聞いた人間が一人もいなければ、それは鳴かないと同然である。ある意味、これは怪異の本質のひとつだ。怪異とは、人間から生まれるもの。人の観念から生まれるもの。そうである以上、人間が知覚しない存在は怪異になり得ないのだ。

 ……だが、あらゆるものには例外が存在する。例外揃いな怪異にもそれは当然ある。

 人間の知覚や認識から生まれた、不可解な事象と穴の空いた論理を埋めるための怪異とは別の怪異もまた、存在しうる。解釈としての怪異ではない───本物の怪異。

 私は何度かそれを見た。

 それは例えば何百年も前から人を食らい続ける、山中異界の魔物である。

 負の想念を込めて記した言葉通りの異形を具現化させてしまう文筆家である。

 人ならぬ化外との混血の裔だとか。死を撒き散らす忌まわしき桜の木もいた。

 町外れの廃屋に住み着いた呪い。地図に記されていないが確かに存在する屋敷。

 よくないものが通る田んぼ道。人知及ばぬ宇宙から此方を見下ろす虹色の瞳。

 人喰の彫刻ばかり作る芸術家に会ったことも、川縁を歩く地蔵擬きに逢ったこともある。

 そうした奴らは、問答無用だ。ルールも対策も、時には因果すらも通じないと見て良い。

 寝ない子を浚うのは解釈の怪異だが、寝ている親をも殺すのが本物の怪異。

『ででっぽっぽ』は恐らく死に直結した怪異であり、浚う以上の凶悪さを持つ。

 これが本物の怪異だとしたら、その鳴き声は寝ていても回避できない。そのまま死へと連れ去られるだろう。

 本物ならぬ解釈の怪異、寝付きの悪い子供を寝かせ、夫婦の営みの時間を作るための存在。そんなかわいらしい鳩であって欲しいものだ。


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