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おっ◯いがいっぱい



   ◇◇◇



 ――ラハルの森



 対岸に現れた気配にバッと視線を向けると、そこには、お姫様抱っこされている俺の嫁がいた。


 女同士だとしても、なんだか気に食わない。


 ……様になってたから、余計にムカつくのだ。


 俺の男としての器は微生物並だ。

 例え、親友で、幼馴染で、同性……と言っても、アリスは俺のだ。


 アリスは曇りない紺碧の瞳を見開き、憎々しい"バカ"は明らかに肩の力を抜いたようにホッと笑顔を浮かべた。


「……ア、アード様!! "その子"、何者なの!?」


「うるさい! お前に関係ない!!」


「……えっ? でも、すごい魔力量で、」


「うるさい! 嫌いだ、お前!!」


「……ぼ、僕、何かしちゃったかな?! 嫌だよ、アード様ぁあ! ごめんなさい!」


 カレンは半泣きになりながら、ジャブジャブと湖に入ってくるが、アリスはその場に立ち尽くし、小さく小首を傾げたままだ。


 ……なんだ? 俺以外に"抱っこ"されやがって! なんで、そんなことになるんだよ。もう俺は拗ねる! 俺は平気で拗ねるからなッ!


 フイッとアリスから視線を外すと、目の前には、


「あっ、カレンさんとアリスさんの事だったんだ……! リッカちゃんも教えてくれればよかったのに……」


 すぐそばに来ていた、俺の服を着ているシルフィーナ。


 ダボダボの俺の服、胸の大きさで少し浮いている裾からは綺麗な美脚……。その見えそうで見えないのが堪らない……ってちがーーう!!


 "事後"じゃん!

 えっ? うそだろ?

 めっちゃ、事後じゃん!!


 俺はピクピクと顔を引き攣らせる。


 ……上半身が裸の俺は、少し落ち着いてきた様子のボロ布1枚の少女を抱きしめている?

 

 うん。抱きしめている。


 俺からすれば、まだガキとはいえ、貴族の中では15歳前後で普通に嫁ぐ事もあるか?


 うん。あるだろうな。多分。


 って、事は……?

 これは俺が2人、同時に相手にしてた的な? そんな夢のような事をしていた的な状況に見えるんじゃ……? 


 うん!! 見えるだろうなぁ!!


 同性で親友の勇者にお姫様抱っこされて、拗ねているが、これは明らかに俺の方が……?


 俺は真っ直ぐにアリスを見つめる。

 アリスはキョトンとしているが安定の無表情。

 ってか、遠いからわかるわけがない。



「アード様! その子は誰なの!? シルフちゃんはなんでアード様の服を来てるの!? 僕だって"まだしてもらってない"のに!」



 バカが確信めいた事を叫べば、シルフィーナはサァーッと顔を青くさせる。


「えっ、いや、ちが……!! 違いますよ、カレンさん!! ウチ、アード君とそん、な事……。ち、違いますよ、アリスさん!!」


 真っ赤になって必死で否定するシルフィーナ。


 シルフちゃん。

 それはもう逆効果でしかないのでは……?


 サァーッと血の気が引いていく。


 俺は自由を求めている。それについてはアリスにも伝えているし、一見、堂々としていればいいのかもしれない。


 だが、声を大にして言いたい。


 アリスに内緒でコッソリは違う!

 アリスも認めてくれてから"イク"!!


 俺はクズだが、モラルに反する事をするようなバカにはなりたくないし、『そばにいる』と約束をした手前、もうアリスがそばにいたくないような真似はしたくないのだ。


 ギリギリセーフを常に考えているだけであって、アウトにはなりたくないのだ。



 つまりは……、


 ……し、してないぞ!! 俺、浮気してない!! シルフちゃんの身体をまさぐろうとしただけ! 死にかけてた吸血少女に血をやっただけ……!


 この世界で抱いたのはお前だけだ!!


 自分を正当化するのに必死だ。



「アード様! ちゃんと説明してくれなきゃやだよ! 一番弟子には、アリスの次に"色んなこと"を教えてくれないと……!!」


 お前、もううるさい! ばか。


「まっ、待って下さい、カレンさん! ウチとアード君は、し、してなくて、これはえっと、血で汚れて……」


 シルフちゃん。それは誤解されちゃうぞ?


「……"してる"じゃん!! シルフちゃんも『初めて』だったんでしょ!?」


 お前、もう黙ってろ!


「……なっ!! ま、まだ、"処……じょ"です……」


 シルフィーナは小さく呟くと、顔を真っ赤にさせて瞳をうるうると潤ませる。


 あっ……。へ、へぇ〜……。

 そ、そうなんだ。

 ま、まぁ、ガーフィールの監視が常にあるし、いっつも仕事の手伝いばっかでそんな暇ないよな……。


 って、今はそれどころじゃない!! 


 バッとアリスに視線を向けるが、やはり相変わらずの無表情だ。せっかく表情の機微から察する事を覚えた俺でもこの距離では無理だ!!


 何を考えているのか全くわからん!!


 ……よ、よし。

 リ、リッカ!! リッカだ!!

 お前がちゃんと説明しろ!!


 救いを求めるようにリッカに視線を向けると、わざとらしく白い着物キモノの帯を緩めて胸の谷間を強調したように着崩されている姿。


 恥ずかしそうに頬を染めながらもニヤニヤと頬を緩めているのが目に入ると同時に、先程のシルフィーナの言葉が蘇る。



 ――カレンさんとアリスさんだったんだ。教えてくれれば……



 ア、アイツ……確信犯だ!!

 泣かせる! アイツは絶対に泣かしてやる!!


 今日という今日は、"恥ずか死"させてやる!

 泣いてもやめてやらない。ガクガクでブルブルするまで、耳をいじめ抜いてやる!!


 密かにリッカへのお仕置きを決定していると、


「ね、ねぇ! さっきから、君は誰なの!?」


 カレンは俺に抱きついていたままの吸血少女を引き剥がす。


 けど……、


 ビリビリッ……!


 少女のボロ布は簡単に引き裂かれ、まだ幼い、少し"貧弱"な裸が目の前に……。


「あっ、ご、ごめん!!」


「アード君! ダ、ダメだよッ!!」


 慌てて謝罪するカレンと、俺の視界をパッと塞ぎ、グイッと引き寄せたシルフィーナ。


 モニュんッ……


 後頭部への直接攻撃は効果抜群だ。


 ……もうなんでもいいや!


 アリスはこんな事で怒らないし、ちゃんと説明したら大丈夫なはず!! お姫様抱っこされたのも許してやろう! 今は聖母おっぱいに抱かれて幸せだ!!



 ツゥー……



 俺は鼻から液体が流れるのを感じながら、シルフィーナにその身を預けた。




〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「リッカ、かわいい」

「シルフ……おい、シルフ……ww」


 少しでもそう思ってくれた読者の皆様。

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