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〜異変〜



   ◇◇◇【SIDE:アリステラ】



 ――ラハルの森


 ルフ周辺の村を回るのは四度目。


 近隣の魔物被害にはカレンが対応し、傷ついた人々には治癒魔法に合わせて聖回復薬ホーリーポーションを3本支給する。


 井戸に数滴垂らせば、下級回復薬になり、売却すれば、自然被害での家屋の修復費にも当てられる。


 その使い道は多種多様と言っていい。


 ランドルフの協力の元、複雑な術式を組み込んであるので、利用時には私の承認が必要となるから悪用の心配はない。


 今の主な"聖女仕事"は、聖回復薬の製作だ。


 今回、訪れた村は4ヶ所だったが、二度目に訪問した村が1ヶ所あった。そこで見た光景は、背筋が凍るようなものだった。


 ――……えっと、ロック君とか、マーシャちゃん、リグ君、サシャちゃん……村の子供がずいぶん見当たらないけど……、どうしたの?


 ――……? 勇者様? そのような子はこの村におりませんが……?



 カレンは「そんなはずないよ!」と詰め寄っていたが、本当に皆が知らない様子であったのだ。


 納得できていない様子のカレンの手を引き村を後にした私たちは森を急ぎ帰路についている。


 いつもお喋りなカレンすらも押し黙るほどの、不可解な出来事。


 「なにか」が起こっている事は明白だった。


 手がかりを掴もうにも、


「勇者様方は疲労困憊なんだ……」

「多忙の中、こんな小さな村に来てくださるなんて」

「……私共に何かできることはありますか?」


 村人達の中で「おかしい」のは私達の方であった。


 この中で情報収集に動き、『相手』に気づかれることも避けるべきだと判断した結果。


 まずは帰って、旦那様やランドルフ、リッカさんの意見もお聞きしなければなりません。


 子供達が消えているのに……それに気がつかないなんて……。子供達の親ですら、その存在を忘れてしまうなんて……。どこの誰かはわかりませんが、許されるべきではないですね。



 私は、『幸せ』を知った。

 いつか旦那様との子を産み、"家族"をつくる。


 きっと少し旦那様に似ている、可愛らしい子供を想像しては1人でベッドで足をジタバタさせた。


 子供が笑って過ごせる世界を作る。


 私は、勇者パーティーの聖女ではなく、"アリステラ"がすべき事を見つけた。


 そう決意を新たにした矢先の出来事。

 フツフツと湧き上がって来るのは、悲しさなのか、怒りなのか、答えもわからないまま、カレンの手を引いている。


「ちょっと、待ってよ、アリス!」


「カレン。一度、帰るべきです。旦那様やランドルフの意見を、」


「つい先日、遊んだんだ! みんな、無邪気で幸せそうに笑ってたんだ!! ……"いつか、勇者様のような英雄になる!"って、……"とっても素敵な人と出会って、いっぱい恋をして結婚するのが夢なの"って……」


「……」


「明らかにおかしよ! 僕は勇者だ!! 放っておけない!!」


 カレンはグッと唇を噛み締める。

 私もわかっています。明らかにおかしい事は。


 ですが……、


「……1人で? 相手も分からずに……? カレン。焦る気持ちもわかります。私だって救いたいと思う気持ちに嘘偽りはありません」


「……アリス」


「今一度、冷静になるべきです」


「……で、でも、いまこうしている間にも、また同じ事がどこかで……、今まで訪れた村の中にも、本当はもっと子供たちがいたかもしれないんだよ!」


「……その可能性は充分に考えられます。『なにか』が起こっている……。どこまでの被害が出ているのかもわかっていない。ですが……、わかりますね?」


 カレンはグッと唇を噛み締める。


 きっと、カレンの頭には獄炎鳥やグリムゼードとの死闘……、"敗北"が巡っている。固く握られた拳には爪が食い込み、ポタポタッと血が滴る。



「……もし、私達の想像を超える『相手』だった場合も考慮すべきです。カレン……、あなたは勇者なのでしょう? 道半ばで倒れる事は許されないのですよ?」


「……わかってるよ。……僕は"まだ弱い"。……アリスの言う通りさ。いつも感情的で深く思考できないんだ。目の前の人が困ってたら、」


「それが、"勇者"でしょう……? あなたは何も間違っていません」


「アリス……」


「私も気持ちは同じです。すぐにでも調査に入り、『あのような事』をしている者を突き止めたいと思っています」


「……」


「しかし、私達には博識な"賢者"が……、長い時を生きた"九尾様"が……、絶対の信頼をおける"最強の矛"である"武神様"がついています……」


 カレンの真紅の瞳が揺れる。

 真っ直ぐに私の瞳を見つめて、悔しさを押し殺しているようだ。


 ……救えたかもしれない。

 もっと注意深く観察していれば気づけた事もあるかもしれない。


 でも、私達に後悔する時間はありません……。


「……信用できませんか?」


「そんなはずない!! アード様もリッカちゃんも、もちろん、アリスやラン爺だって、心から信頼してるし、頼りにしてる!」


「……はい。わかっていますよ」


 私もあなたを信用しています。


 そう続けようと思ったが、幼い頃からずっと一緒に育って来たカレンなら、私の無表情からでも、意図を理解してくれるはず。


 カレンは深く息を吐いてから、「ハハッ……」と力なく笑った。


「……うん。そうだね。一度、帰って、作戦会議しなきゃ。……ありがとう、アリス。ごめんね、取り乱しちゃって」


「いえ……、"勇者"の心が……、いえ、愚直で真っ直ぐなあなたの心が、勇者パーティーの指針なのです。そこは忘れずにいて下さい」


「……うん! じゃあ、急いで帰らないとね!」


「はい。では、早速、帰還用の魔道具を使用しましょう」


「……」


「カレン?」


「……アード様も来てくれるかと思って……、少しでも長く一緒にいられたらって……」


 カレンは小さく呟くと苦笑しながら頬を染める。


「今はシルフさんと……、いえ、でしたら《身体強化ボディ・ブースト》で帰りましょう」


「……ぼ、僕がアリスを抱えて一気に駆け抜けるね! アリスは強化魔法、苦手だし、その方が早いよね!」


「……はい、そうですね」


 私は自分への《強化バフ》は苦手だ。他者への強化バフや魔物への弱化デバフとは雲泥の差がある。


 つくづく、私の【聖治魔法】は他者への献身が全てであると実感してしまう。"では、私にできることを……"と詠唱を開始し、索敵魔法を展開する。


 戦闘に時間を取られるわけにはいかないと展開した索敵魔法。ランドルフほど精密なものでなくとも、カレンよりは、まだ優れて……、



 ゾクゾクッ……



 その原因の方向に、バッと勢いよく振り返り、《感知》した魔力量に短く息を吐いた。


「……カレン。索敵魔法を……。どうやら、簡単には帰れないようです……」


 カレンは「ん?」と首を傾げ、詠唱を開始する。その綺麗な紅い瞳が見開かれるのを確認し、そっと瞳を閉じる。


 ……旦那様には、"昼過ぎ"に帰ると言ってしまいましたが、果たせそうにありません。


 ですが……、


 ――必ず、無事に戻れよ?


 この約束を違える気はさらさらありません。


 あまりの魔力量を放つ、この森には存在しない「何か」の出現に、私は深く思考を巡らせた。





〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「これは、うん……、アードですやんw」

「まあ、いいね!」


 少しでもそう思ってくれた読者の皆様。

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