表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/82

〜え、あ、えっと〜


   ◇◇◇【SIDE:シルフィーナ】



 ――ラハルの森



「冒険者ならではの水浴びには掟があるんだ。パーティーメンバーで汚れを洗い合うっていうのが決まりなんだけど……」


「……えっ?」


 アード君の言葉にウチはビクッと身体を震わせて顔色をうかがう。アード君の表情は真剣そのもの。


 えっ、あっ、ちょ……、さ、さっきの、ものすごく速いゴブリンを討伐した時より、真剣なんだけどぉ!! 


 漆黒の瞳はやけに色っぽくて、ウチは顔に熱が湧いてきた。




   ※※※※※




 つい先程の戦闘。


 そのあまりに圧倒的な武力にウチは、声も出なかった……。


 ただ目が離さなくて、自分には向けられた事がない……いや、見たこともないような冷酷な漆黒の瞳から目が離せなかった。



 正直、少し怖かった。

 アード君がアード君じゃないみたいで。

 目で追う事もできないような魔物を軽く捻り潰す姿は、酒場で可愛らしい笑顔を絶やさない姿とは対照的で……、


 カッコよかった。


 冷たい瞳も気怠そうな表情も。

 魔物を嘲笑する呆れたような笑みも……。


 それは間違いないのに少し怖かったんだ。



 触れてはいけない存在もの

 人智を超えた神々しい存在もの

 ただの酒場の店員が見てはいけない存在もの



 神様は残酷だ。

 頭で理解しちゃった。


 『アード君の隣に立つ』


 自分が踏み出した一歩が、どれだけ険しいものなのかを。



 それなのに……、


 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……


 身体は……、ウチの心臓は、どうしようもなくアード君を愛してると言っている。


 息が詰まるほどの光景に、ただ圧倒され、涙を堪える事しかできない自分が悔しくて仕方なかった。


 いいんだ。わかってた。

 これが、ウチの現在地。

 大丈夫、ちゃんとわかってる。



 ――シルフちゃんは強くなるよ。



 この一言だけが、ウチが一歩を踏み出す力になる。この一言だけが、ウチが目指すべき指針となる。



 目指す場所は変わらない。

 変えられない。

 ウチは誰よりもアード君の隣にいたいんだ。



 誰よりも速く駆け上がる。

 誰よりも努力してみせる。



 ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……


 この壊れたように脈打つ心臓が、ウチに力をくれるから……。



   ※※※※※



 そう決意を新たにしていたのに……、"突然の異臭騒ぎ"がそれを吹き飛ばした。


「じゃあ……、脱いでくれる?」


 湖に到着するやいなや、『いつも通り』のアード君のペース。


 自分の匂いもかなり気になってはいるし、すぐにでも身体を綺麗にしたいけど……。


 ま、待って!! "冒険者の"? "水浴びの掟"? "身体を洗い合う"? そ、そんな事、聞いたことないんだけどっ!


 "脱いで"って……、どこまで!? 全部だよね!? えっ、あっ、……ちょ!! どうすれば!?


 掟っていうのは、嘘だろうけど……、こ、ここは信じたフリをして、お互いに身体を洗い合う……って恥ずかしすぎるよ! こんな明るい場所で!!



 湖は日差しが反射して、キラキラと輝いている。



 ゴブリンの返り血で服がベタベタで気持ち悪いけど、アード君の目の前で、自分で服を脱ぐのは、流石に恥ずかしいし……、汗も掻いてるし、血塗れだし……。


 もう鼻が麻痺してるのか、気が動転しているのか、匂いも気にならなくなっちゃったし……、いや、でも、クサイよね……?


 モジモジとするウチの様子をジッと見つめ続けるアード君は、少し鼻息が荒くなってるような気がする。



「ちょ、ちょっと待ってね? な、なんだか恥ずかしく、」


「シルフちゃん! これは冒険者の掟なんだ!! それに、装備や衣類を《縮小シュリンク》したら、とんでもなく洗濯が早く終わるんだよ!?」


「えっ、あ、う、うん……。で、でも、ちょっと心の準備、」


「そんなものは必要ない!! シルフちゃんはもっと誇るべきだ!! 君のその身体を!!」


「……!!」


 う、うぅ……。


 ア、アリスさんはいつも一緒にお風呂に入ってるって……、それに、それ以上だってしてるって……。


 うん。ウ、ウ、ウチだって、ははは、裸の一つや二つ!!


「わ、わかったよ!! べ、べ、別に冒険者の人達なら、"当たり前"なんだもんね!?」


「そうだ! その通り!! 一枚ずつゆっくりと脱いでくれ!」


「……えっ?」


「あ、いや、違う! 違わないけど、違う!! さ、さぁ!! どうぞ!!」


 アード君はズイッと一歩前に出て、ウチの前に立つ。


 こ、これで嘘をつけてると思ってるのかな?


 で、でも、"冒険者の掟"なんだから。

 アリスさん。冒険者の掟だからっ!! って、いやいや、えっ、と……、


 ウチは顔にとてつもなく熱を感じながら、自分の装備に手をかけるけど、アード君は瞬き一つしない。


 こ、こんなの無理だよぉお……。


「ちょ、ちょっと、アード君!! 後ろを向いててくれるかな? そんなに見られてたらウチ、ちょっと恥ずか、」



 クルッ!!



 尋常ではないスピードで後ろを向いたアード君はすかさず口を開く。


「これは普通の、当たり前の事なんだ!! でも、最初は少し恥ずかしいだろう! 俺は紳士だ!! さぁ! どうぞ!!」


「……アリスにいうの……」


「リッカ!! お前は黙っててくれ!! これは"神聖な儀式"だ! ……ん? ……ア、アリス……? アリス!!」


 アード君は今、思い出したかのようにアリスさんの名前を叫ぶ。


 え、いや、ちょっと待って!!

 きゅ、急に冷静になんて、ならないでよ!!


 ウチはもう……。



 ガシャん……



 慌てて装備を脱ぎ、下着姿になったウチ。


 アード君とリッカちゃんは脱いだ装備が落ちた音で、クルッと振り返る。


「……し、下着は、よ、汚れてないから……」


 ウチは小さく呟いた。


 もう恥ずかしすぎて……、でも、アード君の気を引きたくて、リッカちゃんにそれを見透かされるのが怖くて……、こんなズルい自分も恥ずかしくて……。



「……く、黒かッ!!」



 アード君はそう叫んで綺麗な漆黒の瞳を血走らせ、リッカちゃんは驚いたような顔でウチの身体を無言で見つめる。


「え、ちょ、アード君!? リ、リッカちゃん!?」


「そ、そ、想像以上の破壊力だ……!!」


「……シルフ、えっちなの……」



 カァアア……


 ウチはもう本当に恥ずかしくて、……もうどうすればいいのかわからなくて、透き通る綺麗な湖に飛び込んだ。



 パシャんッ……


 水はとっても冷たいけど、ドクンッドクンッと心臓がうるさいし、2人の方を見れなかった。






〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「もうやっちゃえよ……」

「シルフィーナアア!!」


 少しでもそう思ってくれた読者の皆様。

 広告下の評価ポイントを、


【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】


 にして【ブックマーク】もして応援して頂ければ最高にテンション上がります! たくさんのブクマ、評価、心から感謝ですよ! 毎度、励みになっております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ