瞬殺と真髄
ーーラハルの森 vs.変異ゴブリン
ガキンッ、ガキンッ!!
ダラダラと鼻血をながし、片手でゴブリンをあしらいながら、俺はなんだか、アリスに会いたくなった。
俺が鼻血を流した時、アリスがいてくれない事がちょっと寂しかった。
いつもならアリスが《回復》してくれて、優しく抱きしめてくれて……。
シルフィーナは不安気な様子で小さく首を傾げている。リッカは「シルフ、少し離れてるの」なんて、シルフィーナを避難させた。
ごめんな、アリス。
俺、かなり浮ついてた。
アリスのおっぱい、大好きだからな。
はぁ〜……ダメだな、俺。
……もういいか。別にいいや!!
どうせ俺は無能だよ、クソッ!
心の中で吐き捨てながら、
ガキンッ!!!!
先程よりも少し力を込めて、ゴブリンを吹き飛ばす。
「《地面縮小》」
パッ……!!
ゴブリンが吹き飛ばされるよりも速く、俺は背後に回り込むと、
グ、ギギイィイ!?
ゴブリンは目を見開き、驚愕した。
おそらく、リッカでも余裕で始末できる相手だろう。全然、大したことない。リッカはもちろん、獄炎鳥や"グリム…なんたら"の方が全然強かった。
グギィイイイイイイイ!!!!
ゴブリンからの"不埒な気配"が消え失せ、悪魔でも見たかのような焦り散らかした顔は、なかなかに笑わせてくれるが、俺の表情は動かない。
「《空間縮小》《常時》」
ズズズッ……
手に持っていた獄炎鳥の刀に、黒いモヤを侵食させる。
俺に恥をかかせたのは、
「全部、お前のせいだ!!」※いや、お前のせいだろ。
グザッ、グザッ、グザンッ!!
高速で刀を振るい、切り刻む。
本当に"変なゴブリン"だ。
『核』が3つもあるなんて……。
まぁ俺の知った事じゃないがな。
ズチャアァ……
少しずつゴブリンの肉片がズレていくと、
ズパァアンッ!!
弾け飛んだ肉片から血が飛び散る。
「空間……」
返り血を浴びるのが嫌だった俺は《空間縮小》で血を消し去ろうとしたが、
……この後、水浴び!?
先程、汚れていたシルフィーナとの"水浴びイベント"が頭をよぎり、多少、汚れても返り血を受け入れた方が"おいしい"と判断する。
サァアーー……
森に穏やかな風が吹く。
俺の少し長めの黒髪が靡いている。顔に付着している返り血は、かなりかっこよさを演出しているはずだ。
……ふふっ、シルフィーナ、ゲットだぜ……。
先程の醜態を払拭した気になるが、
「いや、クッサッ!! めちゃくちゃクサイな、このクソゴブリンッ!!」
鼻が曲がりそうなほどの異臭に「うっぷっ」と口を覆い、涙目になった。
「……ア、アード君! ウ、ウ、ウチも、か、返り血が気持ち悪いんだ! ど、どうすればいいかなぁ……?」
顔面蒼白のシルフィーナと、俺の同様、鼻と口を塞ぎ涙目のリッカ。
えっ? そんなクサ、いや、クッサ!!
これ、ゴブリンの血じゃないだろ!! クソがッ!
「ウ、ウチ、早く身体、洗い……たいよ……」
「……へっ?」
か、"身体を洗い……たい……"だとッ!?
いま、『身体を洗い合いたい』って言ったよな!?
「よ、よ、よし!! じゃあ、水浴びに行かないとな! こ、こ、こっちだ! 俺が、いい水辺を知ってる!」
自分の異臭に耐えられず、鼻を摘みながら声をあげたついでに自分の「嗅覚」を《縮小》して、ほくそ笑む。
ついに、【縮小】の真髄をお見せできそうだ。……俺には、超合法的にシルフィーナを丸裸にするための策がある。
全部脱がせて、服を《縮小》。
……極小の衣類や装備にすることで、あっという間に洗濯が終わるのだ! そして、服を纏わない美男美女が……身体を"洗いっこ"……。クックックッ……完璧すぎる! 完璧すぎるぞ、俺!
曰く、"だらしない顔"で先頭を歩く俺の後ろから、リッカの声が飛び込んでくる。
「"ありゅじしゃま"……、そっちに"水の気配"はないの……」
鼻を必死に摘んでいるリッカの声にピタリと足を止める。
「えっ!? どこ? リッカちゃん! 早く!! ウ、ウチ、このままじゃ……!」
真っ青で涙目のシルフィーナ。
「……い、急ぎゅの。妾、自分の鼻を捨てたくなってきたの」
トコトコと早足で歩くリッカの言葉に、軽く傷つき、あとで"お仕置き"を決意しながらも、俺の脳内ではシルフィーナにとんでもないことをしていた。
アリスに心の中で謝ったことなど、もちろん一切忘れていた。




