大波
――ラハルの森 vs."変異"ゴブリン
ピキピキッビキ!!
俺が気味の悪いゴブリンを抑えていると、リッカの氷の塔が目の前に顕現する。
目の前に一瞬で創造された氷、ヒンヤリした冷気。ドン引きしていた俺は、少しだけ反応に遅れて、普通にびっくりしたし、普通に鼻水を垂らした。
それにもかかわらず、目の前の"氷塔"の中にゴブリンの姿はない。
俺は見ていた。
リッカの氷が地面から上がってくる瞬間に、発達していた両腕の筋力がグニュんっと両足に移動して、"空中"を蹴ったのを……。
ゾクゾクゾクゾクッ!!!!
俺の背筋には冷たいものが走る。
キモすぎるだろ!!
な、なんだ、アイツ!!
ゆ、夢に出る!
グニュんって! グニュってぇえ!!
「あ、主様!! マジックゴブリン? ……とりあえず、"変異種"なの! それもかなり上位、」
「そんな事知るか! そんなことより、見たか? 今のグニュんって!! 身体がボコボゴォって!!」
「……」
「おい!」
「……け、気配がないの!! 妾でも感知できな、」
リッカの言葉を遮るように、俺は《地面縮小》を発動させ、リッカとシルフィーナの背後に移動し、
ガキンッ!!
また両腕が発達している"変なゴブリン"の鎌のような双刃を受け止める。
「コ、コイツ……なんて高位の《隠密》なの?」
リッカの言葉を背に受けながら、俺は目を瞑った。また"グニュん"を見せられるわけにはいかないからだ。
あ、あんなのが夢に出てきたら、飛び上がって起きる自信がある。疲れ果てて眠っているであろうアリスに、そんな情けない姿を見せるわけにはいかない!!
と、と、とりあえず、早く屠ろう。
それにコイツの"暴力の気配"はシルフちゃんのおっぱいにしか向いて、
「……アード君……」
ポツリとつぶやかれた言葉に、俺はクワッと目を見開いてバッと振り返った。
「主様。少し面倒だから、妾が広範囲を一気に凍らせ、」
「大丈夫だ、リッカ。ここは俺に任せろ!」
またもシルフィーナに向かう"不埒な気配"。
「《重力縮小》」
俺は周囲1m前後の重力を縮小を済ませると、片腕で軽く刀を振る。
ガキンッ!!
俺は難なく変なゴブリンを弾き飛ばした。
あの歪な両腕の筋力が力を発揮する前……、つまり、重力が急に軽くなった場所で勢いよく振り上げた両腕により、ゴブリンの体勢が死んだ瞬間。
そのタイミングに合わせて弾けば、
ガサガサガサッ!!
ゴブリンを吹き飛ばし、木々に突っ込ませるくらいはわけないのだ。急な剣戟の音にシルフィーナはビクッと身体を震わせるのを見つめながら、
ガキンッ、ガキンッ、ガキンッ!!
"なかなかのスピード"の攻撃を弾き返し続ける。
「……主様? 何してるの?」
リッカはジトォーっとした視線で俺を見つめる。
呆れたような、諦めたような、軽蔑したような……。まるで俺がわざと屠らない事に気がついたような態度だが、俺がそんなものを気にするわけがない。
シルフィーナは音が響く度にビクッと身体を震わせる。その都度、一緒に踊っているおっぱいに俺は釘付けなのだ。
シルフィーナを襲うゴブリンの気持ちがわかってしまう自分を愛おしく思う。※なんで?
「……ア、アード君、ウチ、相手の姿が見えないんだけど!!」
「……安心してくれ!! 俺には見えてる! (おっぱいがっ!!)」
ガキンッ、ガキンッ!!
バユンッ、パユんッ!!
「す、すごいスピードッ!! ゴブリンって弱いんじゃなかったの!? こんなゴブリン……まだウチじゃ……」
ガキンッ、ガキンッ!!
バユンッ、バユンッ!!
「……確かに、素早い動きだっ!! くっ、くっそぉ~……おそらく、最上位だな! なかなか手強い……(おっぱいだッ)!!」
ガキンッ、ガキンッ!!
バユンッ、バユンッ!!
「……えっ!! ウ、ウチも戦うよ!!」
シルフィーナは2本のダガーを手に取るが、俺の視線はシルフィーナの"片乳"に夢中だ。
心臓部には簡易鎧を装備しているシルフィーナ。固定された"お山"に、寄せては返す"片乳"。
流動的で一箇所に留まることがない津波は俺の欲望を刺激する。
は、は、挟まれたい……。
俺は、この"大波"に溺れたい!!
「……えっ……? アード君!! な、何か指示して!! ウチにできる事はなんだって!!」
「……えっ、マジで……!?」
「アード君!! 早く!」
「……えっ、あ、……ん?」
「ウチ、アード君がいつ攻撃されたのかわからなかったけど、……"受け流す"だけなら、ウチにだって!! 大丈夫、きっと反応できるよ!!」
勇ましくグッとダガーを握りしめたシルフィーナの言葉にハッと我に帰ると、何やら鼻の下に液体が流れているのを感じた。
(鼻水か……? 攻撃なんてされてないが?)
俺は首を傾げながらスッと拭い、緊張しながらも立ち向かう事を選んだシルフィーナに、(不安にさせすぎたな……)なんて少し反省する。
ガキンッ、ガキンッ!!
襲い来るゴブリンを片手で軽くあしらい、シルフィーナの肩にそっと触れる。
「アード君、ウチだって、」
「わかってる! 大丈夫。心配しなくていい!! シルフちゃんは、これから異常なスピードで強くなれるよ! さっきの戦闘でわかってるから……」
「……えっ? でも、アード君、」
「ふっ……、だが、今は俺に任せてくれ。俺は冒険者の先輩だし、勇者パーティーのポーターだからな! それに……、"もう、充分見たから"……」
「……アード君」
「安心していいからな?」
俺はニカッと笑顔を作ってから、めちゃくちゃ真剣な表情を浮かべ、果てしなくカッコつけると、シルフィーナに完璧すぎる横顔を見せつけた。
『いつも酒場に来るグータラの常連客』
そのイメージはそろそろ払拭してもいいだろう?
俺が、"実は無能じゃない"と知っているシルフィーナ……、いや、「守るべき対象」であるシルフィーナには、力を誇示する事で"本当"に只者じゃないと教えておいた方がいいのかもしれない……。
ってか、シンプルにチヤホヤされたい!
当初の目的通り、
――アード君、素敵!! 抱いて!!
なんて言われて、
――悪いな、俺にはアリスがいるから……。
なんて言って、カッコつけたい!!
でも、シルフィーナは抑えられなくて、俺を押し倒して……ハハハッ、最高かよ!
「主様、カッコつけてるけど鼻血が出てるままなの」
「……は、鼻血?」
「乱暴に拭ったから頬にまでベットリなの」
「……」
「…………」
「……」
死にたいんだが……?
「……ア、アード君! だ、大丈、」
慌てた様子のシルフィーナの言葉を片手で諌め、あまりの恥ずかしさに赤面しながらも鼻血を拭った。
……めちゃくちゃカッコつけてたのに台無しだ。なんで俺は『ここぞ』という時にバシッと決まらない……?
……全ては煩悩か……?
俺の煩悩は絶対に108つじゃない!!
クソッ!! ふざけろッ!!
いっつも、いっつも俺の邪魔しやがって、俺っ!!
ガキンッガキンッ!!
ってか、なんだよ、コイツ!
いつまで諦めないんだよ!!
気持ち悪い!!
さっさと消えろよ、バカがッ!!
俺は襲ってくる"変なゴブリン"のせいにした。
もう全てはコイツのせいなんだと、情けなすぎる自分を正当化して、剣を少し握りなおした。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「大波のルビ、おかしいやろ」
「シルフィーナ好きィ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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