森デート
――ラハルの森
グザンッ! ガッ、グシュッ!
襲い掛かる6匹のゴブリンを真剣な表情で屠ったシルフィーナは、ホッと安堵したように俺達に視線を向けた。
「……ど、どうかな? アード君、リッカちゃん」
シルフィーナからの問いかけに、俺は曖昧な笑みを返した。
日に日に強くなってない……?
シルフィーナの両手には短剣が握られ、周囲にはゴブリンの残骸。
「え、えっと……、アード君?」
「……え、あ、あぁ。すごい、ぞ……? いい感じ!」
「そ、そっか! 冒険者になれるかな?」
「あ、あぁ。もちろん」
「よ、よかったぁ~!! 早くギルド再開しないかなぁー!!」
「うぅーん!」と伸びをするシルフィーナの胸元を凝視し、思考を投げ捨てる。
プリマスの失踪後、ギルドは新しいギルドマスターがくるまで閉鎖中らしい。冒険者たちは無職同然で、この3日でルフからかなり数が減っている。
「早くアード君と仲間になりたいな!」
シルフィーナは返り血のついた顔をニコッとさせる。
このギャップが堪らないんだ。
襲いかかってくるゴブリン達の眼は血走っていた。
目の前に"極上の女"がいるのだから、それも当たり前だ。卑猥すぎる血走った瞳には見覚えがあり、それが鏡に写った時の俺だと気づいた時には泣きたくなった。
最初はの頃バユンバユンのおっぱいに釘付けだったが、その鋭い眼光と柔軟な身体に瞳を奪われる。
おっぱいはもちろん、身体の柔らかさってなんかエロいんだ。
なんかわからないが、身体の柔軟さは肌の柔らかさや、色んな"形"に直結……、って、いや、そうじゃなくて……、
それとは対照的な真剣な表情がたまらん!
ゴブリンとはいえ、あまりに一方的な蹂躙は、俺達を毎度唖然とさせるんだ。
シルフィーナは未だに固まっている……いや、ドン引きしている俺達に、「へへ……」と安堵したように少し頬を緩める。
「えっと……リッカちゃんもどうだったかな? ウチ、強くなってる?」
「……ま、魔力量はカレン、アリス、ランドルフには遠く及ばないけど、シルフもなかなかやるの」
「ほ、本当!? 本当にウチ成長できてる?」
「……経験はまだまだ足りないと思うけど、これからもっと色々な"武具の声"を聞けば、もっともっと強くなれるの!」
「うぅ~……、ありがとう、リッカちゃん!! とっても嬉しいよぉ!!」
シルフィーナは叫びながらリッカに抱きついて、リッカは少し照れたようにフイッと顔を逸らしながらも尻尾をフリフリとさせる。
でも、そんな事はどうでもよくて、巨乳同士のハグ。
意識せずとも、モニュんむにゅんをガン見する。
間に挟まれたい……。
顔を埋めたい……。
って……、違う、違う。"武具の声"じゃないんだよ。シルフィーナの【追憶】は、『"スキルの様なもの"が鍛錬しだいで増える』なんて単純な物じゃない。"全ての声"を聞けば……、とんだチートだ。
まぁ助言はしない。
「でも、まだまだだよね!? ウチ、頑張るから」
シルフィーナは相変わらず、俺に助言を求めない。どっかのバカ勇者にも見習って欲しいものだ。
俺は煩悩と考察の狭間で、そんな事を考えながら、「……ふっ」とカッコつけて小さく笑ったが、
「……ふふっ! アード君、鼻水が出てるぞ?」
シルフィーナはいつもと変わらないイタズラな笑顔で俺の前に立ち、「そんなに驚いてくれて嬉しい!」と俺の鼻水をハンカチで拭ってくれる。
ヤ、ヤバい……。
森デートを重ねるのは危険だ。
気を抜くと、「抱かせて下さい!」と土下座してしまいそうだ。3日に1度、さっきの鋭い眼光で俺を蔑んで欲しいとすら思っている。
いや、浮気じゃない……よな? いや、知らんけど。とりあえず、シルフィーナにゴブリンの血の落とし方をレクチャーするのは必須だな!
「主様、"浮ついてるの"……」
リッカの声にハッとする。
目の前には小さく首を傾げるシルフィーナ。
「……バ、バカめ。シルフちゃんがバユンバユンッで身体が柔らかくて、鋭い視線で、これから水浴びで……!!」
ここまで口にして、自分で浮ついている事を自覚しながらも、
――旦那様……?
無表情で首を傾げるアリスが脳内で語りかけて来て、一瞬にして、理性を総動員する。
「……ア、アード君」
顔を真っ赤にして、うるうるの瞳を伏せたシルフィーナの破壊力に、
「グオッハッ!!」
俺は血を吐いた。
シルフィーナの頬に付いているゴブリンの返り血が、先程の真剣な眼差しを思い出させる。それとは対局にある可愛すぎる照れ顔に、俺はなかなかのダメージを受けたのだ。
ダ、ダメだ、ダメだぞ、アード・グレイスロッド!
お前にはもうアリスという完璧な嫁が……。
…………よ、よし。貴族になろう!!
サクッと侯爵位を貰って、重婚しよう!!
……って、ふざけろ!
そんな面倒な事やってられるか!!
俺の『自由』は絶対に奪わせないぞ!!
シルフィーナとも結婚するために、うっかり貴族を目指してしまいそうになるとは……。
シルフィーナめ、なんて罪深い女なんだ……。
「主様、だらしない顔なの……」
俺の思考を遮るようなリッカの言葉。
俺の"ベッド"のくせに生意気だ。
「……ふざけろ、リッカ! 俺は顔だけが取り柄の男、」
「そ、そんな事ないよ! アード君のいいとこ、もっといっぱいある!! 確かに今はえっちな顔してたけど、顔だけなんて事は絶対ないよ!」
俺の言葉を遮ったシルフィーナはそういうと、また顔を赤くし、なんの悪気もなく照れたように視線を逸らした。
うん……。えっちな顔してたんだー。
ってことは、だらしない顔だったんだー。
照れ照れのシルフィーナに苦笑しながらも、俺には乗っかる選択肢しかない。
「……そ、そうだぞ! お、俺には良いところがいっぱいあるんだ!」
正直、パッと思いつくような俺の良いところはないが、澄まし顔のツンデレ爆乳幼女の使い魔には、わからせる必要がある。
ここ4週間、いつも9本の尻尾を"ベッド"代わりにして、グータラと惰眠を貪るだけの男じゃないとわからせないといけないのだが……、
「……そ、そんな事、知ってるの」
予想に反して、リッカは小さく呟いてからフイッとそっぽを向いて顔を真っ赤にさせやがる。
なんか、心がポワポワする。
なんだろうか、この優しい世界は……。
やはり、俺の予想は間違いじゃないようだ……。
世界中の女は俺に惚れている!!
長かった。やっと来やがった。
待ち望んでいた『モテ期』ってヤツが!!
ポンッ……
俺はリッカの頭に手を置き、少し屈んでリッカの白銀の瞳と目を合わせる。リッカは更に顔を赤くするが、そんな事は知ったことではない。
「リッカ、そろそろ、モフモフで身体を洗ってくれないか……?」
俺は大真面目だ。
"いける"事を確信した俺は、冗談なんて疑う余地もないほどのシリアス顔で常々思っていたことを口にした。
「……い、いやなの! あ、主様は……、ア、アリスといつも一緒に入って、その、あの……は、始めてるの知ってるの!!」
「……はっ? 新婚さんだぞ? "それ"は当たり前だろ?」
「わ、妾はそんなの見たくないの!!」
「ふざけろ! いつも俺達を『オカズ』にして自分でやってるんだろ! どうせなら、目の前でしろ!!」
「な、な、な……、し、し、し、してないの!!」
リッカは顔を真っ赤にしてフイッと視線を外し、短めの着物の裾をギュッと握る。
おっ……なんかいい。
なんかいいぞ、おい。
パインパインの胸の谷間……。
見た目が幼女だから、さすがの俺でも"そういう"事は倫理的に考えないようにしているが、コイツは4000歳以上のクソババアのはずだ。
よくよく考えれば、俺はコイツのおっぱいを触った事がない。
「ほぉ~……、『主様』に嘘を吐くんだな? これはキツイ、キツイお仕置き、」
ゴクリと息を呑みながら、おっぱいを見つめていた俺だが、視界の端にモワァアっとした気配が横切る。
「……ん?」
改めて視線を向けると、その『暴力の気配』は、俺とリッカを苦笑しながら見ているシルフィーナに向かい、濃く、近くなって……?
「《地面縮小》……」
パッ……
俺は瞬間移動すると同時にシルフィーナの腕を掴み、リッカがいる方向に避難させると同時に剣を抜く。
ガキンッ!!
2本の歪曲している鎌のような剣と、俺の獄炎鳥の素材で作られた刀がぶつかると、ソイツは姿を現した。
グギィイ……!!
通常のゴブリンよりも一回り小さいが、両腕だけが異常に発達している見たこともないゴブリン。
なかなか重たい一撃……ってのはどうでもよくて、
「……うえっ!! 気持ち悪ッ!!」
あまりに歪で変異的なゴブリン。
そのあまりの気持ち悪さにドン引きした。
温かい感想、本当に感謝!
頑張れます! 引き続きよろしくです!!
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