〜アリスの決意と……〜
―――高級宿「風見鶏」
【side:アリステラ】
チャプンッ……
1人、湯船に浸かって身体を清める。
昨夜は、シルフさんと旦那様にどうして良いのか分からず、いつもよりお酒のペースを早めてしまいました。
リッカさんの尻尾の上で目が覚め、
――主様を迎えに行ってくるの。
リッカさんは旦那様の元へと向かった。
『どうなったのか?』は気にならないと言えば嘘になる。……でも、もし、そうだったとしても、それは、元ある姿でもあるように感じている。
大切なのは、私の気持ちが変わる事はないという事。
旦那様にはたくさんの愛を頂いている。
独占したい気持ちが無いわけではないけど、これ以上を望んでしまえば天罰が降る。
『自由』でいる事と『何にも縛られない』事。
旦那様の自由を奪い、縛り付けてしまう事なんて私に出来るはずがないし、妻として……それを理解し、支える事の方がよほど大事な事のようにも思う。
ですが……やっぱり……、
「私だけの旦那様で……」
小さく呟き、自分の言葉を遮るように、湯船を掬って顔を洗う。
パシャんッ……
いつからこんなにわがままになったんだろう?
私はいつからこんなに融通が利かなくなったんだろう?
早く旦那様に会いたい。
1日、離れて眠っただけで、こんなにも辛い。
こんなにも不安で、こんなにも愛している事を自覚させられてしまう。
離れられるはずがないのなら、そばに居られる努力をするしかない。旦那様の側に……。誰よりも愛しい、旦那様の隣に……。
よし! 決めました!
私はもうウジウジ悩んだりは致しません!
旦那様にもそばに居たいと思って頂けるように、今日からお酒が強くなるように努力しなくては!
すぐに眠り込んでしまい、晩酌の相手にもなれないような妻はアード・グレイスロッド様の妻ではないですよね?
「私はどんな旦那様でも心からお慕いしているのです! 努力するのです! お酒の、」
バシャッ!!!!
私の言葉を遮るように、急に湯船に現れたのは旦那様。大きく目を見開く私に、旦那様も大きく目を見開かれる。
「ア、アリス、」
ガバッ!!
会いたいと思ったら現れて下さった。
私はトクンッと胸を高鳴らせると共に、旦那様を胸に引き寄せ、ギュッと抱きしめた。
「ちょ、アリ、ス! 苦し……」
「旦那様……早くお会いした、かっ……」
旦那様は目を見開いたまま、私のお胸を見つめて……、こ、このように明るい場所で……!?!?
い、いけません!!
何度も何度も曝け出してはいても、まだ少し慣れない。私は顔に尋常ではない熱が込み上がるのを感じながら、旦那様の視界を塞ぐように、さらにギュッと身体を密着させた。
〜〜〜〜〜〜数分前。
まずはアリスの元に行かないとな。
"やった、やってない"に関わらず、きっと1人、寂しくベッドで泣いているかもしれない。
流石の俺でも、妻を1人でシクシク泣かせるような事はさせない。泣かすなら泣かすで、ちゃんと俺の目の前で泣かせてやろうと思うんだ。※反省しろよ。
「……よ、よし。シルフちゃんを起こして、昨日の事をはっきりさせて、アリスの元に帰らないとな」
「主様はこの部屋のお風呂を見てくればいいの……」
「……ん?」
「この部屋には、"もう1人"いるの」
リッカは小さく呟くとフイッと視線を逸らしながらも、俺の浴衣をキュッと摘む。
ふっ、可愛いやつめ……。って、"もう1人"? な、なるほど!! ……確か昨日は"モフモフの日"。リッカとアリスも一緒に俺たちと寝てたのか?
つまり、いま風呂にいるのはアリス!!
流石にアリスとリッカの目の前でシルフィーナを抱くようなことはないだろう。まず、リッカが泣き始めるだろうし、いくら酔ってたからって……、し、してないよな?
自分が一切信じられない俺は、ゴクリッと息を飲み、風呂場へと走る。
――ひどいです。旦那様……。
なんてシクシク泣いてたら、"約束"を破ったことに繋がりかねない。約束を守らない俺なんて、クズだ。さすがに下衆にはなりたく無い……。
ガラガラガラッ!!
「アリスッ!!」
叫びと共に風呂場の扉を開くと、そこには、筋肉ムキムキの全裸が、堂々とルフの街を眺めていた。
「……うぷっ、オロロロロッ……」
裸のアリスだと思って扉を開けたら、そこにはバッキバキのおっさんの全裸があった。
『絶対に"していない"』という安堵と、あまりのギャップに二日酔いも手伝って、俺は普通に嘔吐した。
「カッカッカッ! どうしたんだよ、アード! 人の顔を見て吐くなんて失礼なヤツだなぁ、おい!」
「ふ、ふざけろ、ガーフィール!! 顔じゃなくて、その股にぶら下がってるのに吐いたんだよ!」
「ん? ふざけんじゃねぇよ、なかなか立派だろ?」
「そういう話はしてないんだよ! バカめ!」
「何をカリカリしてんだよ? ……!! もしかして、俺が風呂の隙に、シルフに手を出したんじゃねぇだろうな? それは"まだ"許さねえぞ!?」
「……? ぁあ? 何言って、オロロロロッ!!」
「……ア、アード、お前って本当に失礼なヤツだな」
ガーフィールは苦笑してから、「カッカッカッ!」と大声で笑う。
ふざけろよ、マジで……。まあ、ガーフィールの前では流石に有り得ないだろ……。
全く覚えてないが、どうせ、「宿で飲み直すぞ!」なんて叫びながら2人を宿に連れ帰ったのだろう。
いかにも、"俺"がやりそうな事だ。
「それにしても、初めて泊まったがマジで良い宿だな! 冒険者として駆け回ってた時でも、こんな高級宿には泊まった事は無いぜ?」
「……」
俺はガーフィールの言葉を無視しながら、指先に魔力を込めて、宙に魔法陣を描き始める。
魔法の錬成は、まだ慣れてないし、かなり面倒だが、いち早くアリスの元に向かって抱きしめてやりたい。
この部屋から飛び出した所で、ここに入った記憶もなければ、騒いだ記憶もない。つまり、この部屋から出たら俺は迷子になる。
「聞いてんのか、アード! どうだ? たまには男同士、ゆっくり裸で語りあわねぇか?」
「ふざけろ! 俺は男と風呂に入る趣味はない!」
「たまにはいいじゃねぇか! 昨日は、『ガーフィール。まだ飲み足らない……。宿で飲み直そうぜ?』なんて、可愛かったのによぉ」
「……!! き、気のせいだ! バカめ!!」
「カッカッカッ! いつもツンツンしてるくせに、可愛い奴だぜ、アードは!」
「う、うるさい! バカ! じゃ、じゃあな! まぁ、せいぜいくつろげ! ……開店前のラフィールで一杯やろうぜ!」
「ぷっ、カッカッカッ! よし! 今日は貸切にしてやるよ! 今日は最初から飲もうな?」
「……ふん、つまみは作れよ」
俺は鼻で笑いながら、魔法陣を書き上げる。
グッと魔力を込めながら、
「『アリステラ・シャル・フォルランテ』……」
1人で泣いているだろう妻の名前を呼んだ。
バシャンッ!!!!
目の前には大きく目を見開いて驚きながらも、明らかにホッとしたように微笑む裸のアリスがいた。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「ガーフィールおったんかい!」
「俺はアリスの味方やで!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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〜ご報告〜
本日、運営様よりR18に抵触するとのご指摘がありまして、SSにて投稿しておりましたアードとアリスの「初めて」を削除致しました。
削除後、運営様よりokも頂きましたので、今後ともこの作品をお楽しみ頂ければ幸いです。




