〜拗ねるリッカと気になるシルフィーナ〜
―――高級宿「風見鶏」
【side:リッカ】
「……主様?」
ノックをしたら、青ざめた主様が扉を開けた。
妾は首を傾げながらも、小さく口を尖らせる。
"本来なら"、昨日は妾の尻尾で主様とアリスが眠る日だったから、それも当たり前。
――リッカ! 3日間に1度は"ベッド"としてモフモフさせてくれ!
昨夜が3日間の最終日だった。
自分で言ったのに、主様は昨日、妾の"ベッド"で眠らなかった。
――い、嫌なの!!
主様からの要望に妾は照れてしまったから仕方ないのかもしれない。必要とされて、求めてくれたのが嬉しいのに、妾はそう言ってそっぽを向いたのだ。
こんな自分が嫌になる。
主様は「生意気だよ、アリス。リッカがなんか生意気だよ?」なんて笑って許してくれるけど、本当は"ベッド"でもなんでもいいの。
主様のそばに一緒にいられるのなら……。
だから楽しみにしてたの。3日に1度、主様の体温を感じながら寝られるのを、妾は心待ちにしていたから、少し拗ねているの。
チラリと主様の顔を伺えば、みるみる漆黒の瞳に涙が溜まっていく。(……えっ?!)なんて少し驚いて目を見開くと、
ガバッ!!
「……!!」
主様にすっぽりと抱きしめられた。
あまりに急なことで、《幻術》が解け、ブワッと9本の尻尾が開く。
「リ、リッカぁあ!! ち、ぢがゔ! "してない"! 俺、じでない!! じんじでぐで(信じてくれ)!!」
キュゥ〜ンッ!!
か、か、可愛いの……。
あ、主様、か、可愛いの……!!
妾を抱きしめながら感じる"焦燥"。
きっとアリスにどうやって言い訳をしようか考えているんだろう。
そこに"妾"は居ない。
でも……、主様は"ズルい"の。
こ、こんな……、ただこうしてギュッてしてもらうだけで、"3日に一回"の"ベッドの時間"なんてどうでも良くなってしまうの。
「……だ、大丈夫なの。"リッカ"は主様の使い魔なの。見捨てる事なんてあり得ないの」
このまま腕を回したい。
妾も主様をギュッて抱きしめたい。
でも、腕が言う事を聞いてくれない。
「アリスは……? アリスは"新居"か?!」
「……」
「リッカ! アリスはどこなんだ!? まさか、尻尾の後ろに隠れて……」
「……居ないの」
ぷくぅ〜ッ!!
「何をブスゥーッてしてる!? "主様"の一大事だぞ!? 早く昨日の事を説明してくれ!!!!」
主様は大きな声で叫ぶと、ハッとしたようにシルフの様子を伺い、あからさまにホッとしたように胸を撫で下ろし、ますます妾は頬を膨らませるが……、
「リッカは覚えてるだろ? 何があったんだ?」
妾の耳元で小さく呟いた。
ゾクゾクッ……!!
思わず声が出てしまいそうになったのを我慢しながら、妾の耳に感じた少し熱い息と、"昨夜"の事がフラッシュバックして、お腹がキュッとなった。
〜〜〜〜〜
ヤマト酒を飲み過ぎた主様は、ユラユラと揺れていた。
これ以上は身体に良くないと思って、妾がヤマト酒から"ただの水"に変えたのに、主様は一切気がつかないほどには酔っていた。
「リッカは"耳"が弱点なんだぞ? シルフちゃんでもリッカに勝てる!! ハハハハッ!!」
すっかり酔いが冷めた……というよりも、酔っ払っていながらも、必死に"いつも通り"を振る舞うシルフは、
「ちょ、アード君、そんなはずないよ! リッカちゃんの氷、本当にすごかったし!! もぉ、飲み過ぎだぞ? 今日はもうやめとこう? 身体が心配だよ!」
と返したが、
「……シルフちゃん……、朝まで付き合ってくれるって言ったのに……」
「つ、付き合うけどさぁ!!」
口を尖らせた主様に、シルフは簡単に籠絡した。
妾は『何にもわかってない主様』にフイッと顔を背ける。
(誰だっていい訳じゃないの……!!)
そもそも、主様しか、妾の耳に触れる事なんて許さないし、『普通』は"触れられない"。
少しだけ……、ほんの少しだけお酒に飲まれていた妾。ここで主様からフイッと顔を背けたのが良くなかった。
パクッ……
主様は無防備な妾の耳を"食べた"。
「んんっ!! ひゃあッ!!」
「あははッ! リッカ、可愛いな、お前は!」
「……むぅ〜……」
主様はグイッと"ただの水"が入った器を傾けると、
「はぁ!! うまい!! リッカ、おかわり!」
なんて満面な笑みを浮かべていたのだった。
〜〜〜〜〜
(ま、また、"パクッ"ってされたら……、わ、妾、もう……ダ、ダメなの……!)
主様の"昨夜、何があった?"の質問には答えず、少しいつもの仕返ししたいと思ったけど、
「なぁ、リッカ……? 聞いてるか? 全く覚えてないんだが? 俺、昨日、"大丈夫"だったよな?」
「……そ、そんなに心配しなくても大丈夫なの」
結局、妾は主様には逆らえないの。
※※※※※【side:シルフィーナ】
(待って、待って、待って!! なんでこんな事になってるの!?)
アード君とリッカちゃんの会話に目が覚めると、頭がガンガンッと痛む。
昨日の事は覚えてる。
酔いに任せて、少し暴走しちゃって……、それから……って、"それ"は置いといて、これどうなってるの!!
自分の服装がかなり露出度が高い事は即座に理解したし、一応、寝ているフリをしながらシーツを引き寄せて、見えないようにはしたけど……、
(……し、"した"の…?)
ウチの頭には疑問がグルグルと回っている。
別段、いつもと変わりはない。
強いて言えば頭が割れるように痛い事だけ。
特に"違和感"は感じないけど……、"した事"ないから、わかんないよぉお!!
アリスさんに対する罪悪感で胸が痛くなり、ギュッと自分の胸を抱き締める。急に聞こえなくなった、アード君とリッカちゃんの会話に更に不安を煽られる。
(ちゃんとアリスさんに言ってからじゃないと……、"お酒のノリ"じゃなくて、ちゃんとアード君にも、望んで欲しかったのに……)
なんとも言えない心境。まだ何もわからないのに、結ばれてたなら、嬉しいのに、なんだか悲しい……。
(う、うぅううう!! わ、わかんないよぉお!!)
本当に一切覚えてない。
トイレでひとしきり泣いてから、個室に戻ってアード君とリッカちゃんとまたお酒を飲み始めて……。
パパ、いたかな? ん? いたよね? あれ? いない……? お、"お酒"って怖い!!!!
初めての"記憶喪失"。
ウチの頭にあるのは、アード君との『初めて』の有無と、アリスさんへと罪悪感だけ……。
(ど、どうしよう!! 何もわかんないよぉ!!)
ウチは起きているのがバレないように心の中で絶叫した。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「アリスは無事なのか!?」
「シルフ、初めてをなめたらアカン!ww」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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