〜"ブリマス"と不穏な影〜
―――冒険者ギルド 「ギルド長室」
(……な、何が起こっているのですか?)
【0000】
オール"0"の魔力測定器の数値に、マーティンは顔を青くする事しか出来ずにいる。
魔法も自分のスキルである【水風】も発動させることが出来ない。あの"瞬間"から、自分の内側に溢れていた"魔力"がすっかりと消え去ったみたいなのだ。
――本当に悪気はないんだ! 悪かった!!
謝罪しながらも笑っていた。
――勘弁してくれよ、"ブリーフマスター"。
まるで悪魔のように冷酷で残忍な漆黒の瞳だった。
ガクガクッガクッ……
止まらない寒気はアードに魔力を奪われ、"生きながらに殺された"事と、あの悪夢のような出来事が一晩経っても消え去らない事。
――あなたの"仕事"は監視だけです。下手に手を出すような事はしないように、お願いしますよ?
もう一つは『主』の意向に背いてしまった事にある。
(クソ、クソッ……クソッ!! 亜人が……、あの"縮小ぼっち"が……! なんなのだ? なんなのだ!? 【縮小】とは……あの"平民"が何者だと言うのだ!!)
ガッ!!
椅子を蹴り飛ばし、鼻息を荒くしながら髪を掻き上げる。ボサボサの髪に片眼鏡。とても貴族のような余裕は見受けられない。
マーティンは、アードのような"小物"に"こんな事"が出来ると思っていなかった。
「縮小ぼっち」と呼ばれ、万年Dランク冒険者だった者に対して、自分の『主』が警戒している理由がわからなかったし、ずっと疑問だった。
勇者パーティーに加入したと騒がれていても、(どうせ荷物持ちの雑用係だろう)と軽んじた。
その結果が『今』だ。
久しぶりに『自分のギルド』に顔を見せた"要注意人物"。人間に対し、力を振るった亜人のゴミクズ。
「あの2人を牢屋に送ってやることが出来れば……」
そうする事で自分の『主』に認められ、"他の者たち"のように、側近の1人として置いて貰えると先走った。
認めたくはない。……が、格が違った。
「……クソッ……クソッ!!」
冒険者ギルドだというのに、下の階からは何一つとして物音がしない。こんな事があり得るはずがない。
「……あのクソ女共が……。上司に逆らうとは何事ですか……!!」
ギルド職員は誰1人として出勤して来なかった。
(許さない……。許す事などできない。確か"ラフィール"とかいう大衆酒場……。逆らった冒険者共も、受付嬢共も……皆、後悔さしてあげますよ……)
ギルド長室にはマーティンの荒い呼吸音だけが響く。
「……笑えないぞ、"マーティン"」
バッ!!
唐突に後ろから声をかけられ慌てて振り返ると、そこには"同志"の1人が立っていた。
「……今朝、面白い話を聞いた。なんでも、ギルドマスターが、勇者パーティーの1人に、」
「ち、違うのです! 違うのですよ、"バラン"! こんなはずでは、」
「下着1枚で暴れ回り、日頃の行いも無茶苦茶であったと……、そう聞いた」
「……」
「『主』は大変に慈悲深いお方だ」
「……!! そ、そうです! その通りですよ! ありがとうございます! 『主』よ!!」
「"『あの者』の力についてしっかりと聞いたのち、天に還してあげるように"との事だ……」
「……え、あっ、いや……。ち、違います。『主』はそのよう、」
「『あの者』は何を?」
「バ、バラン! い、1度だけでも『主』に会わせて、」
ギュッ……
"バラン"と呼ばれた男はマーティンの手首を掴み、【呪印】のスキルを発動させる。
ズズズッ……
全身に走る禍々しい"呪印"。
「グッ、アァァガアアア!!」
マーティンは激痛に身を捩る。
「"命令"だ。『あの者』は何をした?」
「わた、私の服を【縮小】し、周囲を巻き込んで……、私の"魔力"を"奪った"のです……」
「発動の条件は?」
「……ふ、"触れる事"だと判断します」
「他に何か気づいた事は?」
「あ、"亜人"は氷を使う。魔力を隠している聖女が側に……。あと、酒場の……、ラフィールの娘と一緒だ」
「他は?」
「こ、狡猾です。"あの者"は……とても、とても」
「そうか。言い残す事はあるか?」
「全ては『主』のため、」
「では、これまでの悪事を書き連ねるのだ。そして……、荷物をまとめ、魔物の餌となり、跡形もなく消えろ」
「ま、待て。待って下さ、」
「生き恥を晒すより、天に還るほうが貴様にとって、はるかに幸せな事だ。『主』は本当に慈悲深いお方だ」
「……い、いやです! わ、私は、」
「『命令』だ……」
ギュッギギギッ……
マーティンの身体に刻まれた"呪印"が赤く色づき熱を発する。
「ぐっ……があっ、バ、バラン……ううっ、うぐッ」
苦痛に歪むマーティンの表情に、バランは片側の口角だけを吊り上げる。
赤と黒の色の違う瞳。傷だらけの顔に短い黒髪。
大柄でガタイの良いバランの悍ましい表情は、苦しんでいるマーティンに向けられた物ではない。
(……『主』がお喜びになるだろう)
一切、尻尾が掴めなかった"要注意人物"。
"行動開始"の直前にルフに現れ、『主』を沈黙させた憎き人間。その人間のスキル【縮小】の発動条件の手がかりを手に入れた事にバランは口角を吊り上げたのだ。
「お前のようなザコでも役に立った……。思えば、貴様のような無能を"ここ"に配置したのは、このためだったんだろうな」
「ぐっ、あがっ……バ、バラン……!!」
「全ては『主』のお導きだ。『最終決戦』の前に、"アヤツ"を……」
全ての計画を破綻させた『アード・グレイスロッド』の出現。
――"あの者"は『人間』ですか……?
『主』と呼ばれる人物は絶句した。ルフの街で一度すれ違っただけのアードに戦慄したのだ。
解明できない事に焦燥を滲ませる。
"底"が見えないから二の足を踏んでいた。
だが、勇者パーティーへの加入。
頑なにルフを離れなかったアードが留守になる瞬間がある。
――"次"の留守で動きましょうか?
『主』は重い腰を上げた。
そのタイミングでの"手がかり"。
「……『主』こそが"神"だ」
バランは感動に打ち震えていた。
「お助けを……。『主』よ……、私に"力"を……」
救いを求めながらも身体は勝手に「遺書」を書き始めたマーティンを背にしながら、バランは音もなくギルド長室を後にした。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「ほう、次はそんな感じなんだ?」
「『主』ってだれなんだ?」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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引き続き、頑張ります!
2章終わりのSSで投稿予定だったアードの『初めて』ですが、ちょっと挟んでおかないとアードの心境が不自然になってしまうので1章終わりに割り込み投稿しようかと思っていますがいかがでしょう?
普通に次話でSS形式で挟むか悩んでます。
感想頂けると嬉しいです。




