〜ドキドキのシルフィーナ〜
―――酒場「ラフィール」
【side:シルフィーナ】
ラフィールに新しく作った"専用スペース"。
ランドルフさんの魔法で結界や、音が漏れないようにされている"勇者パーティー専用"の個室。
――ガーフィール。頼む! 俺達だけの酒場になってくれ! 人目がありすぎて死にたくなるんだよぉお!
しばらく貸切にしてたけど、他のお客さん達も大切にしてるパパが"貸切"を解いた時のアード君は可愛らしくてキュンキュンした。
カレンさんはギラギラした真紅の瞳で、
「お金はいくらでも使っていいから、寝泊まりできるスペースもお願いしていいかなぁ!!??」
パパに見た事もない大金を積んでいた。
ランドルフさんも、我が物顔でどこで仕入れてきたのかもわからない高級酒を買い揃えてる。
奥には少し休めるスペースも作ってるけど、
――高級なのはやめて欲しい。いつものラフィールの延長で作ってくれ。じゃないと、ラフィールじゃないんだ!!
アード君が、ここまでラフィールを好いてくれてて嬉しかった。
そんな場所で、ウチらは4人で食事をしてる。
お客として店に居るなんて、なんだか新鮮だ。
それにしても……、
(ふふっ、悪い顔してたなぁ〜……)
自分の事を悪く言われてる時は、全然いつも通り飄々としてたのに、リッカちゃんを傷つけるような言葉に、ウチは"初めて"アード君が怒ってるのを見た。
顔はいつものように笑っているのに、その違和感にウチが気づかないはずもないんだ。
「ねぇ、アード君、えっと、"これから"どうするのかな?」
「シルフちゃん……、エリナちゃんのおっぱいって本物なのかな?」
もう随分と出来上がっているようなアード君。
「……ア、アード君。見たこともないくらい真剣な表情のところ、悪いんだけど、……えっと、"これから"は、」
「シルフちゃんのおっぱいは本物だよな?」
真剣な眼差しに見つめられると、質問の内容なんて気にならなくなっちゃう。
もう、顔が熱くなって仕方ない。
「……ほ、本物だよ! お、お昼に……」
"触ったよね?"
そう続けようとしたけど、言葉が出てこない。
ウチも何を言ってるの!?
もぉお!! 何でこうなるんだろ!?
ウチも飲み過ぎなのかな!?
ウチは今日、"冒険者"になれなかった。
パーティーの仲間として、一緒の時間が増えると思ったのに、それは叶わなかった。あのギルドマスターは大嫌いだし、それも仕方ないけど、「アード君と一緒に居る」って目標は遠ざかったように感じてる。
「このまま、流れちゃうのかな……?」
今日の成果は、アード君の初めての顔を見れた事だけ。まだウチの見たことのない表情をたくさん見たい。
ずっと……。アリスさんみたいに"片時も離れないような存在"になりたい。このまま、"店員とお客さん"の関係に戻るのは絶対に嫌なんだ。
早くこの不安を消して欲しいのに……、
「……確かに弾力があって、ふわふわで、とってもグッドだった!!」
何かの審査員のような雰囲気を醸し出しているアード君。
な、なんか変な酔い方してるよぉお!!
ち、違うの! 早く『これから』について話そうよぉ。
心の中ではそう叫ぶのに、褒められてると思ったら顔が熱くなるし、恥ずかしいし、アード君の手の感触も蘇ってきて、もうまともに顔が見れない。
「だ、旦那"しゃま"……。わ、私のお胸は、大丈夫"れす"か? 至"らにゅ"点は、"ごじゃい"ませんか?」
真っ赤なアリスさんは、なぜかいつもよりペースが早くて、完璧に出来上がってる。呂律が回っていないし、何かの呪文を呟いているようにも感じる。
けど……、なんだか、いつもより"えっち"な感じ。トロンッとした空色の瞳も、少し濡れてる唇も……、い、色気が凄い。せ、"聖女様"の色気が凄い!!
「……主様、妾はアリステラを寝かすの。だから、ソファはお終いなの」
「……うぅーん……? じゃあ……か、か、帰ろうか? ちょっと早いけど、今日はお開きにしようか!?」
「はい。旦那"しゃま"……」
「……きょ、今日は妾の"ベッド"で寝る日なの。妾の前ではやめてなの!!」
「え? はっ? そ、そんなんじゃないし!」
「主様! よ、欲がダダ漏れなの! 妾の前では接吻もしないでなの!!」
「ハハっ! 4000年も生きてるくせに……って……、モフモフの"上"……だとッ!? な、なんて、」
「ぜ、絶対ダメなの!! そ、そんな、」
「リッカ"しゃん"でも、旦那"しゃま"のあの顔を見られるのは"らめれす"!」
アリスさんはそう言うとガタッと立ち上がり、フワァッとたたらを踏む。
「ア、アリスさ、」
後ろに転んでしまいそうなアリスさんに、ウチは慌てて声を上げるけど、
ガシッ……
アード君が素早く支える。
……か、かっこよすぎだよ、アード君。
って、長い長い!! 見つめ合う時間が長すぎるぞぉ〜!!
「コ、コホンッ!!」
ウチが咳払いすると、
「……あ、ありがとうごじゃいます」
顔を真っ赤に、目をぐるぐる回して顔を隠したアリスさんと、ニヤッとイタズラの笑みを浮かべるアード君。
「……こ、こらぁ〜!! ウチもリッカちゃんも居るんだぞぉ〜!!」
「そ、そうなの! やめてなの!!」
アード君は少し口を尖らせる。
(……やだ。可愛い。……ウ、ウチにキスしてくれないかな……?)
ダメだ。やっぱりちょっと酔ってるみたい。
胸の痛みよりも、欲の方が出ちゃう。
ガチャッ……
「……なっ! 俺の店はそんな事する場所じゃねぇんだぞ、アード!!」
扉を開けたパパはたくさんの料理を持っている。
「ち、違う! 転びそうな所を助けただけだ! アリスを守るのは当たり前だろ?」
「……シ、シルフにそんなとこ見せんじゃねぇ!」
「ちょ、パパッ!!」
「……ん? 何言ってんだ? ガーフィール」
「な、なんでもないよ、アード君!! はい、ありがとうね、パパ! 店、大丈夫? やっぱり少し手伝おうか?!」
ウチはニッコリと笑顔をつくりながら、「何を言おうとしてるのかな?」と圧力をかけながら、パパから料理を受け取る。
「……あ、いや。大丈夫だ。ゆ、ゆっくりしてろ」
「そう? ありがとう!」
少し焦ったようなパパは、ウチから視線を外すとアード君に視線を向ける。
「……アード! この店で"おっぱじめたら"本当に出禁にするからな?」
「……そんなに心配なら、お前もこっちで飲めよ!」
「カッカッカ! なんだ、アード? 俺が居なくて寂しいのか?」
「そ、そんなはずないだろ! 俺は美女に囲まれて幸せだ! まぁ、イカついおっさんが居てもいいかなって思っただけだ!」
「ふっ、まだ客が残ってるが、後で顔を出すよ。シルフ、しっかり見張ってろよ?」
「う、うん! 任せて?」
パパが去って行くと、アード君はまた口を尖らせる。
「ふふふっ、アード君、ランドルフさんもいないし、寂しいんでしょ?」
「別に? いっつもうるさいのが居なくて精々、」
「よぉし! 今日はウチが付き合うから! 大丈夫だよ?」
テーブルに料理を置いて、果実酒が入っているグラスを手に取るとアード君に乾杯を促す。
「シ、シルフちゃん……」
「ほら、飲もう? アード君!」
「……ほ、本当はちょっとだけ。ほんとぉーにちょっとだけ、寂しかったんだ! アリスはすぐに潰れるし、リッカは全然、酔わないし……」
「そんな言い方ってないんじゃないかなぁ? アリスさん! 今日はいっぱい飲みましょうね?」
「……もうとっくに寝てるよ」
スヤァー……
アード君の腕の中で、顔を覆ったまま眠っているアリスさん。先程の言葉に拗ねたのか、フイッとそっぽを向いたリッカちゃん。
「……リ、リッカちゃん! 今日はいっぱい飲もうね?」
「……妾は酔えないの。お酒は酔う物じゃなくて嗜む物なの。妾、妾は……」
「……よ、よぉし! 飲もう、アード君!!」
リッカちゃんのまともすぎる言葉を聞き流しながら、ニッコリと微笑みかける。
「ハハッ! シルフちゃんのそう言うとこ好きだ! よし! 飲み直そう!! ふっ、今夜は寝かせないぜ?」
アード君は可愛くてカッコいい笑顔でジョッキを合わせてくれる。
ドクンッ、ドクンッ、ドクンッ……
尋常ではない心拍数と、込み上がる顔の熱。
う、うぅう!! "これから"より、まずは"今"だ! ズルい! ズルすぎるよ、アード君!! "好き"なんて……、いや、わかってるよ? そういうのじゃないよね? け、けど……、ああああ!!
どうしようも無くなったウチは果実酒が入っているグラスに口をつけて、真っ赤になった顔を誤魔化した。
***前話を少し改稿させて頂きました。ご承知おきください。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「シルフィーナァア!!」
「頑張れ、シルフ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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引き続きよろしくお願い致します。
頑張ります!




