"ブリーフマスター"
―――冒険者ギルド
「「「ぷっ……ブハハハハッ!!」」」
「"ギルマス"、ブリーフかよ!」
「真っ白って……おい! 名前書いてるぜ!」
「ハハハハッ! なんか"シミ"もあるぞ?!」
冒険者ギルドは笑いに包まれる。
それとは対照的にピクピクと顔を引き攣らせる"ブリーフ野郎"。
ブリーフは別にまぁいいとして、デカデカと名前まで書いてて、シミまでつけてくれてるなんて、果てしなく"優秀"な男だ。
こんな面前でぶん殴るわけにもいかないから、逆に激昂させて、"横暴なギルマス"を演出してやろうと思ったが、コレはコレで……。
「……主様……?」
か細い声が後ろから聞こえるが俺は振り向かず、目の前で俺を睨みあげてる"バカ"をジッと見つめる。
おそらく過去に何かあったであろうリッカに、精神的なダメージを与えるなら"同じ事"をしてやるだけだ。
俺が買ってやったブラシで、毎日嬉しそうに尻尾の手入れを欠かさないリッカの毛並みに、"何か"あったらどうしてくれる……?
"コイツ"は社会的に殺してやる。
俺がニヤリと口角を吊り上げると、クワッと目を見開いたブリーフ野郎。
「き、貴様ぁ! 私にこのような事をしてタダで済むと思わないことです!!」
ガッ!!
軽く肩を押された俺は、ここぞとばかりに……、
「が、がぁあああああ!! い、痛って!! 肩が……、俺の肩がぁああ!!」
"モヒカン"も顔負けのやられっぷりを披露すると同時に、吹っ飛ばされたフリをしながら、ギルド内を備品の一部を《空間縮小》して破壊しまくる。
「……き、貴様! なにを、」
「む、無茶苦茶だ! ぷっ……、ふは、アード様はわざとじゃないのに、あんまりだろ! ぷぷっ」
「そ、そうだ! ぷっ、ぷぷっ……あ、亜人差別なんて古いんだよ! こんなに可愛いのに!!」
「アード様と"氷のケモ耳幼女ちゃん"に謝れよ! "染み付き"ブリーフ!!」
「なっ、いや、私は、」
「さっさと服着ろよ! "ブリーフマスター"!」
「アード様は勇者パーティーの一員として"魔将王"の1人を討ったんだぞ!」
「そうだ! "ブリーフマスター"なんかより立場は上だ!!」
"ブリーフマスター"はギリギリッと歯軋りをすると、
「貴様らの冒険者資格を剥奪してもよいのですよ!? 私にはそれだけの権力があるのです!!」
考えうる中で最も愚かな言葉を吐いた。
俺は再度実感する。なんて"優秀"な男なんだと。
シィーン……
笑い声は一瞬にして消え失せ、冒険者達の目つきが鋭く変わっていく。俺はほくそ笑み、それを隠す。
「ふ、ふざけんじゃねぇよ! 誰がブリーフマスターの下で働くかよ!」
「そんな恰好で何言ってんだ? 恥ずかしくねぇのかよ!」
「こっちから願い下げだ!! 冒険者ギルドは"ルフ"以外にもあるんだよ!」
冒険者達を"当事者"に引き込んで、完璧に俺の味方につけた。幸いな事に、「勇者パーティーをクビになった」なんて言ってないし、俺は使える物はなんでも使う男だ。
ブリーフマスターは「私がルールだ!」なんてドヤっていたが、ルールはいつだって"民意"が打ち破ってくれるんだ。
俺は肩を押さえたまま、スクッと立ち上がると、
「……くっ、あぁ……。こりゃ、"勇者パーティー"に迷惑かけちまうな……。"カレン様"に会わせる顔がねぇよ。せっかく、俺なんかを拾ってくれたのに……」
片腕をぷらぷらさせながら顔を覆った。
「……ア、アード様! 大丈夫ですか!?」
「アード様は、"平民の希望"なんだ! せ、聖女様に治して貰いましょうよ」
「お、おい! とりあえずでもいい!! 回復役いないのかよ!?」
「はい!! 私!」
「は、はい!! 私が!!」
「私も回復役です!!」
「俺もだ! 俺が治しますよ!」
顔を覆った俺は緩む頬を抑えられない。
そして、忘れてはいけないのは、俺は"役に入る"とやりすぎる所があるという事だ。
「……だ、大丈夫……。大丈夫だから、ちょっと今日はもう帰らして貰うよ。みんなぁ! ありがとうなぁ!! 本当にいいギルドだよ……! 最高だ、"ルフ"の冒険者達はッ!!」
そう叫びながら、チラリとみんなの視線を誘導し、
『ギルドマスターが、この"ブリーフマスター"じゃなかったらな?』
口にすることなく苦々しい顔をすると……、
「ギ、ギルドは!! ギルドは"冒険者様"の物です!! こんな横暴は許されません! "グランドマスター"と"領主様"に、この件をお伝え致します!!」
バユンッバユンッと乳を揺らしながら、声を上げるエリナが叫ぶと、受付嬢も湧き始めた。
「い、いつも、セクハラされてました!」
「わ、私は、『ブスだから』って、めちゃくちゃな仕事量を押し付けられました! 「奥の事務室から出るな!』って! みんな私の事、知らないですよね!?」
「毎日のようにお尻を叩かれて、『クビにするぞ?』って食事に付き合わされてました!!」
思わぬ"援軍"。
なんか1人、めちゃくちゃ可哀想な娘がいた気もするが、今はちょっと、あの、なんか……、ごめん。
「ムーティンさん! 勇者パーティーの一員であるアードさんへの暴力と"亜人差別"、数々のセクハラに冒険者様達への失言!! この件は、ルフの"領主様"にご報告させて頂きます!!」
チラチラと俺の顔を伺っているエリナの、「私に任せてください!」的なノリに、若干イラッとしながら、罪深く揺れる乳を見つめていたが、
「な、なんだと……。このクソ女……」
ズワァア……
漏れ出た"暴力の気配"にいち早く対処する。
「本当に悪気はないんだ! 悪かった!!」
俺は叫びながら駆け寄り、触れた瞬間に《魔力縮小》を展開する。
「……? んあッ? ……き、貴様」
「……勘弁してくださいよ、"ブリーフマスター"……」
誰にも聞こえない声で小さく呟けば、目の前で大きく拳を振り上げるバカ。
「うわぁあ!! 助けてぇえ!」
ブンッ!!
叫びながら躱すと共に、改めて距離を取る。
ジィー……
周囲からの視線を一斉に浴びるブリーフマスター。
「な、なんてことをしているんですか!? ギルドマスターとして許されない行為です!!」
声を上げたのはエリナ。周囲の冒険者達も突き動かされるように罵倒を始め、「辞めろ!」コールが巻き起こる。
「……ハ、ハハッ……ふ、ふざけないで下さい……。じょ、冗談ですよ。ハハッ……。こ、"こんなはず"では……」
ギルドマスターは小さく呟きながら悲壮感を漂わせ、トボトボと2階へと去っていく。
(……どんな"はず"だった?)
微かな違和感。単純に"俺"やリッカが気に入らなかったわけではなさそうだ。
「おい、リッカ、"今"の、何が滲んでた……?」
ブリーフマスターの後ろ姿にも、微かなシミを見つけて噴き出してしまいそうになるのを堪えながら、リッカに声をかけると、
ギュッ……
リッカは俺の腰に抱きついて来た。
「……あ、主様ぁ」
微かに震えるリッカに、自然と頬が緩む。
周囲からすればカッコ悪かったはずなのに、俺を"理解"してくれる者が少なくとも3人。
アリスの無表情も、シルフィーナの"ガンミ"も、味方をしてくれる冒険者や、受付嬢達も……、
(……勇者パーティー、さまさまだな)
これは今までには無かった物だ。
「……ふっ、……後で"お仕置き"だぞ、リッカ。今日こそは、そのモフモフで俺の身体を洗えよ?」
ポンッと頭に手を置き、小さく呟くとリッカは1度だけギュッとしてから、フイッと視線を外す。
「わ、妾だけなら屠ってたの。妾は主様の意志を尊重したの……」
「……ハハッ、よぉくわかったぞ? そんなに"いじめて"欲しいんだな?」
「ち、違うの!!」
ブリーフマスターに悪態を吐き続ける冒険者達と、リッカの氷が溶け、「……あれ? 俺、何してたんだっけ?」とガクガク震えながら身体をさする"モヒカン"。
さてさて、群がられる前に退散するかな。
正直、《時間縮小》も考えたが、最後の言葉は少し気になるし、現実は、そう、甘くはない。
「アード様! 大丈夫ですか!?」
「俺! 俺が治しますよ! 肩!!」
「ちょっと邪魔なのよ! 私が治すの!!」
俺とリッカに群がる回復役達に囲まれながら、目立つとロクな事にならないと半泣きになる。
現実逃避するように、「どうやったらエリナの"おぱい"が本物かどうか確かめられるのか?」に思考を切り替える。
触った瞬間に《時間縮小》するか? いや、流石にコソコソするよりは、アリスに「触るだけならいい?」って聞くべきか……?
……いやいや……、「私のお胸だけにして下さい……」なんて言われたら、堪らんぜ、おい!!
苦々しい顔を浮かべて肩を押さえたまま、俺の頭の中はお花畑。すると、回復役達の隙間から、スッと手が伸びてくる。
「《完全治癒》」
ポワァア……
「皆様。お騒がせ致しました。私が治癒致しましたので、もう何も問題ありません」
無傷の俺の肩には何の効果もない、上級回復魔法をかけたアリスは、フードを外して無表情で宣言する。
シィーン……
呆気に取られる冒険者ギルド。
「あ、ありがとう! "聖女様"!! すっかり治りました!」
俺はリッカをヒョイッと抱きかかえ、ジーッと俺を見つめているシルフィーナの手を取る。
「では、行きましょう!」
「はい、だんな……、"アードさん"」
この隙に俺達がギルドから一目散に飛び出すと、
「「「「う、麗しすぎるぅうう!!」」」」
ギルドから歓声が沸き起こった。
ルフの街を少し早歩きでラフィールへの道を急ぐ。
ラフィールへの最短距離だけは覚えているから不思議だ。
「申し訳ありません、旦那様。顔は隠すようにとの事でしたが……」
「ふっ、気にするな。ラフィールに行こうぜ!」
「ア、アード君! ウ、ウチとパーティーを組んでくれるのは、どうなったの!?」
「……ん? まぁそんな急がなくてもいいだろ? あっ! シルフちゃんも、今日は"お客"として、俺達とずっと一緒にいないか?」
「……え、あっ。……う、うん」
「よし! じゃあ、決定、」
「あ、主様……降ろしてなの……」
俺に抱かれたまま、頬を染めて照れているリッカのか細い声が俺の言葉を遮る。
俺はニヤリと頬を緩め、手に触れている太ももをムギュッてしてやった。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「とりあえず、ワロタ!w」
「エリナの乳って結局どうなの?」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
広告下の評価ポイントを、
【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】
にして【ブックマーク】もして頂ければ最高にテンション上がります! 「なんだこれ?」と思われた方も、評価「☆☆☆☆☆」のどこでもいいのでポチッとして頂ければ泣いて喜びます。
たくさんのブクマ、評価、心から感謝です。
少しでもクスッとなって頂ければ幸いです。引き続きよろしくお願い致します。
少し改稿しました。よろしくです。




