いけ好かないギルマス
―――冒険者ギルド
辺境都市"ルフ"の冒険者ギルドのギルドマスター"ムーティン"は、急に騒がしくなったギルドに眉を顰め、《魔力感知》を行うと同時に、ギルド長室から飛び出した。
「……な、何者なんですか、"アレ"は……」
視線の先には"1匹"の『亜人』。内に秘める魔力量は経験した事もないほど膨大な物だ。
ピキピキビキッ!! ビキィッ!
何やら、因縁をつけた男と、それを楽しそうに嘲笑していた連中がピンポイントで"氷漬け"になる。
ひんやりとした冷気に、氷のような冷たい笑み。"真っ白の狐人"の幼女に、
ゾクゾクッ……
背筋に寒気を感じながらもギリッと歯軋りをする。
(『化け物』め。……"亜人風情"が!!)
ムーティンは魔物の血を引く亜人に嫌悪感を抱きながらも、その力量にゴクリと息を飲む。
(クソッ……なぜあのような"ゴミ"が……、直ちに責任を負わせ……、ん? ……『あの男』……)
ムーティンは亜人の横で苦笑している男を見つけると、ニヤァッと口角を吊り上げる。
「……あの"お方"がおっしゃっていた『要注意人物』てすか? 最近、姿を見せないと思ったら……クククッ……これはいい」
ムーティンは更に口角を吊り上げながら小さく呟くと、
バチッ……
その"要注意人物"と"亜人"は、ほぼ同時にムーティンに視線を向けた。
1人は、「ふっ」と鼻で笑うように。
1人は、氷のように冷たく鋭い視線で。
「……ククッ、そんな風に私を見ても、『ここ』のルールは私なのですよ……」
ムーティンは2人の視線に対しても口角を吊り上げたままだった。
※※※※※
「……や、ヤバい。一瞬で凍ったぜ!」
「なんだ? アード様がバカにされた瞬間に」
「し、死んだのか? コイツら……?」
これは、面倒な事になった。
冒険者共はうるさいし、"上"にはなんか、嫌な感じのヤツがいるし……。これはアレだ……"お仕置き"だな。
「おい! リッカ! なんて事してるんだよ!」
……フイッ!
「いい度胸だな、おい。そんなに"欲しい"のか?」
「や、やめてなの! ……こ、こんな人前で耳は嫌なの!」
「あんなバカ、放っておけよ!」
「……だ、だって、主様のこと……」
リッカはそこまで言うと、またフイッとそっぽを向いた。
いや、まぁ……、俺のためを思ってくれたんだろうし、屠ってはないみたいだけど……、沸点低すぎるだろ! 自分の氷で温度下げろよ!
なんか、ちょっとかっこよくてキュンッてしたけど、マジで何してくれちゃってんだよ!
心の中でどんなお仕置きにしようか考える俺だが、
「リッカちゃん、すごぉい!! ウチ、びっくりしちゃった! 確かに、なんか嫌な感じだったよね?」
「……リッカさんの魔力コントロールがここまでだとは……。どのように調整しているのです?」
シルフィーナはしゃがみ込んでリッカの顔を覗き込みながら可愛い笑顔だし、アリスに至っては、"氷漬け"でも死んでいない事に無表情ながら少し感嘆したようだ。
「……べ、別に……魔力の濃度を薄くするだけなの」
リッカはそっぽを向いたまま、尻尾をぶんぶん振っていて、控えめに言ってはちゃめちゃにかわいいが、
(……さてさて、"コイツ"は何が目的なんだ? まさかとは思うが、俺の『自由』を奪う気か?)
俺はこちらに歩いてくる男に視線を向けた。
「これは、一体、何事ですか!? ……そこの亜人がやった事は見ていましたよ? この世界の"絶対悪"である魔物の血を引く"亜種"。この責任はどのように果たすつもりなのですか?!」
貴族のような身なり。
片眼鏡にアッシュグレーの髪。
歳は40前後か?
なんか生理的にムカつくヤツだ。
さっき、悪意の気配を纏ってたし、どうせロクなヤツじゃない。
「……すまなかったな。"俺"のが……。まぁでも、冒険者同士のイザコザはギルドは関与しないだろ?」
「……何を言っているのですか、あなたは……? バカなのですか? 許されるはずがないでしょう? 私はこのギルドを任されている"ムーティン・ウリアル"と申す者です!」
「……ギルドマスターなのか?」
「……えぇ。そうですよ? あなた、所属しているギルドの"上司"の顔も知らないのですか?」
「ごめん。知らない。興味ない」
俺の言葉にムーティンはピクピクと顔を引き攣らせる。
「……ともあれ、"亜人風情"が人間様に楯突いたのです。許される事ではありません。ここでは私がルールなのです!!」
ギルドマスター"ムーティン"は俺の目を見つめ、嘲笑うようにニヤリと口角を吊り上げる。
「……ねぇ、アード君。ウチ、こんな人が上司なんて嫌なんだけど?」
「おやおや、あなたのように可憐な女性は大歓迎ですよ? ですが、そこの亜人は早くお引き取り願います。同じ空気を吸っているだけで、」
「旦那様。私の素性を明かしても?」
「クククッ。顔が見えませんね。どこの誰かは存じませんが、この場で私以上に権力を持つ者は、この世界に1人としていませんよ?」
シルフィーナとアリスからは怒気が滲んでいる。
色々な冒険者ギルドを訪れて来たけど、まさか"ルフ"のギルドが「ハズレ」だったとは知らなかった。
"亜人差別"なんて、今どき古い。10年も前に獣国と和平を結んだんだろ? この国は……。
ってか、モフモフはどう考えても正義だろ?
理由はなんにせよ、確かに"ここ"での権力者は明らかに"コイツ"だ。すぐにでもぶん殴りたいが、殴り飛ばしたとこで、何も解決しない。
ここはさっさと帰って、穏便に済ませるか。
「シルフちゃん、アリス。今日は帰ろうか! ラフィールにでも行って、さっさと愚痴ろうぜ! リッカも。それでいいな?」
「で、でも、アード君……」
「……」
2人は俺の顔を見てハッとしたように沈黙したが、俺は「ん?」と首を傾げる。
チラリとリッカの様子を伺うと、少し潤んだ白銀の瞳。
微かに震える手に気づかない俺ではない。
――"人間"は嫌いなの。
この1か月の記憶が頭に蘇る。
「俺やアリスも嫌いなのか?」と聞いた時には、
――き、嫌いじゃないの。
なんてプイッとしながらも頬を染めていたのを思い出す。
ポンッ……
俺はリッカの頭に手を置いた。
「……主様、ごめんなさいなの。妾、妾が、」
「なんで謝るんだ? 俺のためにしてくれたんだろ? ありがとうな、リッカ」
「……主様」
「バカめ。気にするな! これからはあんなヤツら無視しとけよ? こうやって面倒な事になるからな」
「……はいなの」
「よし! エールでも飲みに行こうぜ!」
俺が笑いながらギルドを後にしようとすると、
ガシッ……
"予想通り"、肩を掴まれた。
「……なにを逃げようとしているのです? そこの亜人は憲兵に突き出しますよ?」
「……そう邪険にしないでくれよ。死んではないし、ちょっと風邪引くくらいだろ?」
「あそこの冒険者は"Aランクパーティー"のリーダーを務めている、スキル【怒雷】の"ジェフ"さんです。彼に風邪を引かれるとギルドに、損失がありましてね」
「……」
「全く、この"ゴミ"の躾くらいしておいてくれませんか? それに……、"奴隷"はルフの街には入れてはいけないのですよ? そんな事も知らないのですか?」
ガタッ……
男の前に立ち塞がろうとしたアリスを片手で制止すると、シルフィーナに抱きしめられているリッカの潤んだ瞳に見つめられる。
(ふっ……、バカめ。捨てるわけないだろ? 最高級"ベッド"を。もう俺の生活には欠かせない昼寝の必須条件の"お前"を……)
何やら怯えているようなリッカの視線を鼻で笑い、片眼鏡の時代遅れの"バカ"に視線を向ける。
「……で? ギルマスは、そんなあからさまに挑発して、何が狙いなんだ?」
おそらく、コイツは何かを狙っている。
それはわかっている。
「"狙い"などありませんよ? 私は当たり前の事を述べているだけにすぎません。そうですね……。たった今、『ゴミ』がギルドに入る事を、禁止、」
ソッ……
言葉を遮るようにバカの肩に触れ、ポンッポンッと腰の辺りを叩く。
「そう言わないでくれないか? 俺達は冒険者登録しようとしただけなんだよ。俺は《縮小》しか出来ない、」
ビリビリッ!!
俺はバカの衣服を《縮小》して引きちぎると、
「あ、あぁあっ! ご、ごめん!! も、申し訳ない!! 【縮小】しちゃった! わ、悪かったな! 俺っておっちょこちょいで、"無能"なんだ!!」
なんて焦ったように声を張り上げ、真っ白の下着姿に靴だけというみっともない恰好にしてやった。
「本当に悪かった!! 悪気はないんだ! 許してくれ!!」
周囲に聞こえる大きな声で謝罪し、大きく目を見開くギルドマスにしかわからないように、ニヤリと口角を吊り上げた。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなんの?!」
「そういえばアードってこんなヤツだったなww」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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たくさんのブクマ、評価、心から感謝です。
テンプレ通りにシバくのもアリかと思いましたが、アードはこんな安い挑発には乗りませんし、ナナメ上のやり方で対処しますよ。次も楽しみと思って頂ければ幸いです!




