『俺、勇者パーティーを抜けるわ』
〜2章開幕〜
―――辺境都市"ルフ" 高級宿「風見鶏」
「俺、勇者パーティーを抜けるわ」
俺の言葉に絶句したのは3人。
歴代最強の勇者"カレン"、数々の魔法を生み出した賢者"ランドルフ"、そして、俺の妻にして聖女アリスこと、"アリステラ"。
「……なっ、……い、いやいや! 『1番弟子』にして貰ったばかりなのに、アード様が抜けるなんて容認できるはずないよ!?」
「……アード。流石に、それはワシも認められんぞい? お主は、もう勇者パーティーの根幹! そんな事は断固として認められん!」
「……旦那様。どうかされたのでしょうか? ……あの『約束』は……」
カレンは口を尖らせながら眉間に皺を寄せ、ランドルフはグッと唇を噛み締めてかわいこぶり、アリスは無表情で顔を青くさせる。
「……主様、言葉足らずなの」
俺の後ろに控えるリッカはプイッとしながら、チラチラと俺の顔を見ては、3人を気遣っている。
コイツはどうやら、なかなかのツンデレのようなのだ。
ポンッ……
頭に手を置いてやると絶対に視線を合わせないが仄かに頬を染める。
「お前は優しいな、リッカ! もう少し素直だったら、もっと可愛がってやるんだがな!?」
「……妾は別に可愛がって欲しいわけじゃないの」
ツーンッとしながらも、頬を染め尻尾を振る爆乳ケモ耳幼女。なかなか俺の"ツボ"を抑え始めているような気がするのは気のせいだと信じたい。
狙って演じられてたら、俺は泣いてしまうくらいこの"ベッド"を気に入っている。
「……ア、アード様? リッカちゃんとイチャイチャする前に、ちゃんと理由を教えてくれないかなぁ!?」
ピクピクと顔を引き攣らせるカレン。
「……あ、えっと……、あののぉー……、カレン、アリステラ……。ワシもパーティー抜けるわ。"あと"よろしくぅ!」
清々しい顔でふざけた事を言っているランドルフ。
「……私は……、私は……、旦那様……」
無表情ながら、縋るような紺碧の瞳を向ける"アリス"。
「助けなければならない人々」と「俺と一緒にいたい」という板挟みでどうすればいいのかわからないと言ったところだろう。
最近では、アリスの無表情から少しは感情を読み解く事ができるようになっている。
まぁ確かに……、説明不足だよな。
それはわかってるんだよ。
でも、そんなの当たり前だろ? ふざけ倒してるんだから辞めるしかないだろ? いや、アリスとの約束は守るぞ? それは絶対に守るんだが……、
「休息が短すぎるんだよぉ! なんだよ! ふざけろよ! まだアレから"1ヶ月"しか経ってないだろ!? なんだよ、『王宮招集』って!! 俺は絶対に王都になんて行かないし、国王や貴族とも会わないし、あと5ヶ月は休むんだ!」
「ア、アード様! 僕達が1ヶ月も休めるなんて奇跡なんだ! 本来なら、通常の難関クエストに向かってるところなんだよ?!」
「……チィッ! 何をカリカリしてるんだよ! お前、最近おかしいぞ? カレン!!」
「……うっ! そ、そんな……。ア、アード様が"相手"をしてくれないからだよぉ! うぅ……、うっ……。それなのに……"辞める"だなんて……、こんなのあんまりだよ……うぅ……」
泣き始めたカレンに、ただただドン引きしながら、俺はこの1ヶ月を振り返っていた。
◇
カレンの事は、確かに無視している……と言うよりも構ってやっていない。
朝から夕方まで高級宿にこもり、アリスとイチャイチャチュッチュッしながら過ごし、夜には酒場「ラフィール」に。
度重なる鼻血に貧血で死にかけ、7日目にしてついに……。なんてのも今ではいい思い出だ。
「童貞を卒業する」と世界の景色はより色鮮やかに……、「身長が5cmくらい伸びたんじゃないか?」と思ったが、ただ幸福感にふわふわと軽く"浮いて"いただけだった。
とまぁ、それはいいとして……。
カレンは「流石は勇者!」とでも言えるのか、1人でも愚直に魔物を狩りに行っていて接点が極端に少ない。
アリスもたまにカレンに同行し、ルフ周辺の村や都市に『聖回復薬』を無償で配りに行っているから、カレンの努力とアリスの"聖女仕事"については俺の耳にも届いてる。
ランドルフも夜には一緒にラフィールで飲んでいるが、昼間は自室で様々な研究を繰り返していて、なんだかんだで賢者の仕事を全うしていると言えるだろう。
俺はと言うと……、基本的にアリスがいる時はイチャイチャし、居ない時にはリッカの"尻尾ソファ"でダラダラ、または……、
――どうかな? アード君。
なぜか、"双剣"を手にし、"戦う看板娘"になったシルフィーナと"森デート"の、どれかだ。
シルフィーナの剣技は"受け流し"と"反射系"、正直、驚嘆しすぎて目玉が飛び出るところだった。
盾役として最前衛に立ち、隙をついて前衛の役割も合わせ持つ逸材。その誕生をリアルで目の当たりにすれば、誰だって目玉が飛び出る。
「危なかったらカッコ良く助けてやろう!」
始めは正直、舐めていたが、何をどう考えてもこんな辺境都市に居ていい種類の素質ではなかった。
より研鑽を積めば、 A、いや、Sランクの冒険者にだってなれる『本物』だ。
シルフィーナのスキルは【追憶】。
『触れた物の"声"を聞く』
"俺からすれば"、かなりの『強スキル』だ。
愚直な努力を重ねるシルフィーナが可愛いすぎて……、戦闘中のお胸がバユンッバユンッすぎて、毎度理性がぶっ飛びそうになるが、俺が一言、助言をすればひっくり返らせる自信がある。
カレン、ランドルフ、アリスと同等の可能性、勇者パーティーの即戦力にする自信があるが……、
――アード君。ウチ、頑張るから! 待っててね?
でも、シルフィーナは俺に助言を求めない。
俺はその意志を尊重する。
自分で辿り着く事が大切な事も重々理解しているつもりだからだ。
手に巻かれた包帯。
文字通り、血の滲むような努力をしているシルフィーナ。
"何のためか?"はよくわからないが、おそらくは"食材探索"の一種か何かなのだろう。
魔物でも美味なヤツはたくさんいるし、ガーフィールはいつも1人で調達しているから手伝いたいのかもしれない。
まぁシルフィーナが戦う理由はどうでも良くて、俺の頭に1つの妙案が浮かぶのは必然なのだ。
『シルフちゃんとパーティー組めばいんじゃね?』
アリスとは毎日、同じベッドや露天風呂で"ムフフ"してるんだ。「側に居る」という"約束"は果たしていると思うし、《聖約》に関しても7日間、離れなければ問題ない。
『俺、勇者パーティー抜けてもいんじゃね?』
俺がその考えに至るまで時間はかからなかった。
別に関係が絶たれるわけじゃない。
ランドルフとは毎晩酒を飲んでいるし、まぁ、カレンは……、その……、まだ一切、助言とかしてやってないから、"これから"、たまに稽古をつけてやれば約束を破った事にもならないだろ……?
つまりは……、
『俺の"日常"帰ってくるんじゃね?』
怠惰で毎晩のように酒を飲み歩く自由な日々。
「勇者パーティーの雑用までクビになっちまったよ」なんて嘯けば、『無能』のレッテルを再取得し、また"あの日々"に帰れると気づいてしまったのだが……、
「うわぁあん……! アード様ぁあ!」
「……はぁ〜……、もうワシ、お酒飲みたい……」
泣きじゃくる勇者と、唇を尖らせてかわいこぶっているジジイ。
「旦那様……」
無表情の妻の潤んだ紺碧の瞳。
(……や、辞めれる気がしないんだが?)
これまでに経験した事のないような猛烈な"脱退拒否"。まぁ正直、ちょっと嬉しくてはあるから、やってられない。
この日々も気に入っている。
ただ、それ以上に"面倒な事"はしたくない。
勇者パーティー自体が嫌ってわけでもないが、周囲からの尊敬と称賛の眼差しが鬱陶しい……。王侯貴族の前には死んでも立ちたくない……。
がんじがらめにされて『自由』を失うわけにはいかない。
この一点が俺を突き動かすのだ。
何をどう説明すればいいのか、というよりも、この説明をする作業が面倒で、俺が短く息を吐くと、
ひょこっ……
俺の後ろからリッカが顔を覗かせた。
「……主様は"2つ"のパーティーに所属すればいいの。表向きは"シルフ"と妾で『Fランクパーティー』……。勇者パーティーにはこっそりと参加して、"緊急の仕事"はサポートするの……」
小さく呟かれたリッカの言葉に思考を進める。
……"それ"、悪くないな。
俺は沈黙したまま、その可能性を探り始めた。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「2章も頑張れよ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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