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【おまけ】 〜宴の裏で〜 ②




―――酒場「ラフィール」



 

「ハハハハッ! "領主"にタメ口で接客したのか? ガーフィール! お前、どれだけ、常識がねぇんだよ!」


「『いつも通りでいい』って領主が言うからだ! はじめはちゃんと敬語を使ったぜ?!」


「ふふっ、本っ当に似合わなかったけどね?」


「そりゃ、見たかったなぁ! 確か、かなりの美男子なんだろ? ……ハッ! シルフちゃん、俺を捨てないでくれよ?」


「ふふふっ、どうしよっかなぁ?」


「ぷッ、ハハハハッ! やっぱ、最高だな、ラフィールは!」


「それにしても、"あの領主"……、初めて見たが、あれはなんかあるぜ! 気をつけろよ?」


「バカめ! 俺が貴族に会うはずないだろ?!」



 リッカは1人でヤマト酒を嗜みながら、尻尾に座ったまま、ガーフィールとシルフィーナと談笑しているアードを盗み見る。



――"死人"に囚われてなんになる? ソイツだって、お前がそんな暗い顔してたら『迷惑だ!』って言うに決まってる。



 アードにもたれかかって眠っているアリステラ、端の椅子に寝ているカレンを順々に見渡し、



(妾はソファじゃないの……)



 少し口を尖らせながらも、どれだけの長い時間が経っても、片時も忘れる事のなかった"親友の死"を、鼻で笑ったアードの笑顔を思い返していた。


 


〜〜〜◇「No.28 ダンジョン」92階層◇



【side:"クラマ"】



 

ズズッ……



 少し上の階層でグリムゼードのオーラに目を覚ました『異形』は妾を見据えると、パッと頭を下げた。



「なぁ、"上"に連れてってくれ……。お願いだ」



 妾は絶句して大きく目を見開いた。


 これだけの"力"を持ちながら、こんなにも簡単に頭を下げられる"人間"。


 "人間"という種族は傲慢で強欲で……、とても醜く欲深い。彼は、長きに渡る"生"の中で刷り込まれた凝り固まった頭を容赦なく壊してくる。



「妾は……、妾は……」


「俺は"無能"だ。場所はわかってても、きっと辿り着けない」


「な、馴れ合う気はないの……」


「別にそんな事は求めてない……。俺のパーティーメンバーは何があっても死なせはしない。どんなクズやバカでも関係ない……。俺が『加入中』のパーティーで死人を出す事を、"俺"は絶対に許さない」


「……」



 彼はスッと手を前に出して妾の頭に優しく触れる。



「《縮小解除シュリンク・オフ》……」




ズワァアッ!!



 消えたはずの魔力が蘇り、妾は更に目を見開く。



(な、何を考えて……いるの? 本当になんなの? またこの場で妾を回復させてどうするつもりなの!?)



「もちろん、お前の望みを言えば、可能な限り叶えてやる」



 "圧倒的強者"からの申し出に、すぐに頭をよぎる物がある。


「……じゃ、じゃあ! 妾の親友を殺した"クソトカゲ"を屠って欲しいの! アイツさえ消せれば、妾はやっと『平穏』を……!! 君の力があれば、簡単に、」


 ふと感じた寂しそうな漆黒の瞳に、妾は言葉を止める。


「"復讐"か……。ふっ……、そんな事でいいのか? その"クソトカゲ"が何かは知らないが、屠ってやる。早く上に連れて行って、」


「ま、待つの……!! なんなの!? 妾の"大切な人"を奪った報いを与えるの! 絶対に、許さないの! 絶対に、あのクソトカゲだけはッ!!」


「わかった、わかった。"トドメ"はお前に譲ればいいんだろ? お安いご用だ。さっさと上に連れて行け」


「……な、なんで"呆れ"るの!? 何で、"憐れむ"の!?」


「……?」


「君、本当におかしいの……。まだ少ししか生きてないくせに、妾に"そんな目"を向けないでなの!!」



キュッ……



「んんっ!!」



 彼は妾の耳をつまみ顔かニヤリと笑う。


「俺は憐れんでなんかない。ただ……、4000年も生きてて、バカだなって思っただけだ!」


「……て、手を離すの!!」


「"死人"に囚われてなんになる? ソイツだって、お前がそんな暗い顔してたら『迷惑だ!』って言うだろうなって思っただけだ」


「……」


「復讐を果たしたってなんにもならない。その大切なヤツが帰ってくるわけじゃない」


「……そ、そんな事、わかって……るの……」



 妾が呟くと彼は耳から手を離し、



ポンッ……



「もっと『今』を楽しめ。もし、お前の大切なヤツが殺された時……、殺されてたのがお前で、残されたのがその"親友"だった時、……お前はソイツにどんな顔をしてて欲しい……?」



 頭に乗せられた手が温かい。

 少し寂しそうな漆黒の瞳はひどく優しい。


 そんなの……、そんなの……。


――クラちゃん!


 笑ってて欲しいに決まってるの……。



「君……なんなの……本当に……」


「……"先輩"だな……"復讐"の……」


 彼は少し悲しそうな笑みで小さく呟き、「そんな事はどうでもいいから、さっさと上に連れていけ!」と、先程の表情など気のせいであるかのように続ける。


 妾の気持ちを"わかったフリ"したわけじゃなく、彼はちゃんと"知っている"。彼から一瞬だけ滲み出た「悲哀」が全てを物語っている。



「……だ、誰が殺されたの……? 君にとって大事な人だったの……?」


「……バカめ! 嘘に決まってるだろ! さっさと望みを言え! 誰か1人でも死んでたら、はぐれた俺が悪いみたいだろ? そんなのは死んでも嫌なんだよ」



 妾に"嘘"は通じない。

 いくら隠した所で感情が流れ込んでくるから。


 "焦燥"と"畏怖"。


 堕獣ダジュウを前にしても、魔力を解放した妾と対峙しても、一切感じ取れなかった2つの感情。


 きっとこの人は、"失う事だけが怖い"の……。


 素直に「早く助けに行きたい」とは言わないところ……。そんな事は決して口にはしない見えっ張りなところは、いかにも人間らしい……。


 なんだか……ひどく可愛らしいの。


 人智を超えた『力』の"持ち主"。


 「あの"クソトカゲ"を殺したい」


 妾は今、"初めての欲"に包まれてる。


 「この人の側に居たい……」


 理由はわからない。けど、この人の過去を知りたい。復讐を終えた"彼"が何を思い、何をするのか見ていたい。



 "復讐"は"それ"を見てからでも遅くないの……。



「妾を……、妾を"使い魔"にして欲しいの……」


「……はっ?」


「……や、やっぱり、いいの。復讐するとしても君の力は借りない……の」



「……ハハッ!! いいぞ? このモフモフが俺の物って事だな?! よし。俺の"ベッド"にしてやる!!」


「ち、ちがっ! 妾を側に置いてくれるだけでいいの!!」


「ふっ! バカめ! それが"ベッド"になるって事だろ? ハハハハッ!」


「……ほ、本当になにを、」


「で? お前の名前は?」



 否定しようとする妾の言葉を遮った問いかけに、

 


ピクッ……



 妾は押し黙る。



――"九"つの尾を持つ、修"羅"の"魔"物……!! 逃げろ! "災いの権化"だ!!


 『不名誉の名前』。

 自分が畏れられる存在だと認めた"諦めの象徴"。


 『九羅魔クラマ



 でも……、


 妾は生まれ変わるの。

 この名前はもういらない……。


「……な、名前はないの。君に名付けて欲しいの……」


「名前ないのか? お前、"なかなか"だからあると思ってたけど……。そっかぁ〜……うぅ〜ん……、あっ、じゃあ、お前は"リッカ"だ! どっかの国で"雪"とかそんな言葉だろ? お前の綺麗な白い毛並みにピッタリだ!」


「……妾……"リッカ"……」


「なんだ? 嫌なら自分で決めろ!」


「ううん。いやじゃないの……。よろしくなの……。"主様あるじさま"!」


「ふっ……、よろしくな、"リッカ"」



 "主様"はそう言って笑うと、妾の頭を撫で背中に飛び乗った。



「……わ、妾、"ベッド"じゃないの!!」


「ハハッ! 急げ! "リッカ"! 早くしないと耳をこねくり回すぞ?」


「そ、それはダメなのぉお!!」



 妾は、主様の"大切な人達"の元に駆け出した。




〜〜〜〜〜




(……本当に"これで"よかったの?)



 リッカは自分の9本の尻尾をソファにして、みんなと楽しそうに笑っているアードを見つめながらヤマト酒をクイッと飲む。



「ハハハハッ! "スターダスト"の連中、こんなに早く解散したのかよ!」


「当たり前だろ! お前が抜けて、"本来"の魔物達が相手になれば、」


「バカめ! アイツらに"素養"はある。努力と研究が足りてないんだよ、アイツら! 必死になればギリギリ"B"には上がれるはずだ!」


「カッカッカッ! 『アードってやっぱ、凄いヤツなんですか?』って半泣きだったんだぞ? アイツら!」


「おい、ガーフィール……、それ、お前は何て答えたんだ?」


「ふっ……、『そんなもん、知るか』って言っといてやったぞ!?」


「さ、さすがだ! "パパ"!! よし。ランドルフ! ここで1番高い酒を頼むことにするぞ!」


「誰が"パパ"だ!」

「フォッフォッ! 好きに頼むとよい! ワシの貯蓄が火を噴くぞい!!」



 繰り広げられる会話。皆が楽しそうで笑ってる。


 『妾が行けば"更なる脅威"になる。主様が良くても、周りは認めないだろう……』


 リッカの不安は杞憂に終わった。


 『妾が怖くないの?』


 リッカの問いかけに、


――旦那様がお決めになられたのなら、私が意見する事はありませんよ、リッカさん。


――フォッフォッ! アードは『悪意』を感じ取る天才じゃ! アードが受け入れたのなら、ワシは何も気にせんぞい? リッカ殿。


――怖い……? ん? 怖くはないよ……。ただ、僕は羨ましくて吐きそうだよ、リッカちゃん!


 

 勇者パーティーは三者三様の答えを見せたが、その根幹にあったのは、絶対的なアードへの信頼だった。



 酒場でこうして皆の笑い声を聞きながら酒を煽る事はリッカにとって"初めて"の経験だ。


 自分が『普通』の獣人として扱われている事が嬉しくて、歯痒くて……。


(……ふふっ。妾はこれで……いや、妾は"これが"よかったの……。主様の側で、主様の全てを理解したいの……)


 リッカは小さく笑い、また酒を煽った。


「"フェン"……、"そこ"に居るの? "ユキノ"……、妾、久しぶりに……"幸せ"なの」



 アードの周囲に感じる同胞"フェンリル"に声をかけ、親友に報告しながら少しだけ銀色の瞳を潤ませた。





〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「次、どうなる?」

「更新頑張れ!」


 少しでもそう思ってくれた読者の皆様。

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 たくさんのブクマ、評価、心から感謝。

 今日の夜、 SSで"初入浴"を投稿しますが、警告来たらすぐに削除しますw


 明日から2章開幕。

 サブタイは、『俺、勇者パーティー抜けるわ』ですw


 何卒、2章も引き続きよろしくお願い致します。

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