vs.勇者"カレン" ①
―――オリエント王国 「ジュラの丘」
ポワァア……
ヨボヨボ賢者の転移魔法で小高い丘にやって来た。
(すげぇ……)
俺はスキル以外の魔法を直に体験したのは初めてだ。シンプルに感嘆すると同時に、
(これを覚えられたら、迷子にならなくて済む!)
俺の弱点克服に光明が見えた。
穏やかな風が吹く心地よい丘。
辺りには都市や村はなく、街道しか通った事のない俺からすれば、かなりの未知だ。
――仲間達と絶景を……
アリスの言葉を思い出しながら、確かにこれは悪くないと頬を緩ませた。
「旦那様?」
「アリス。ここは?」
「カレンが幼い頃より修行していた"ジュラの丘"です。辺りには大自然が広がり、秘匿結界にも守られております。何をしても誰にも見つかる事はありませんので、ご安心して力をお使いください」
「へぇ〜……。何をしても見つからないのかぁ〜……。なぁ。アリス、ちょっと2人で昼寝しないか?」
「……だ、旦那様。カレンとランドルフの前です」
「ぷっ、ハハハッ! 冗談だよ!」
アリスは無表情のまま、顔を真っ赤にしてチラチラと2人の様子を伺っている。こうして、アリスをいじめる時が1番、感情が見えるし可愛い。
……癖になりそうだ。
「……帰ってからのお楽しみだな?」
ぷしゅ〜……
「ハハッ。可愛いぞ、アリス」
真っ赤なアリスに頬を緩める。
それにしても即刻、同居する事になるとはな。
結婚=同居。
真面目で頭の硬いアリスらしい。
別にそこまで考えていたわけじゃないが、俺も望むところではあるし、いつか泊まってみたいと思っていたルフ1番の宿「風見鶏」での新婚生活は最高すぎる!
「"夫婦"の談笑を邪魔するようだけど、早速やろうか?」
カレンはニッコリ笑顔だが、目は一切笑ってない。
なんかすごく嫌われている気がするが、俺、なんかしちゃったかな? 胸がないって言ったのがダメだった?
ないと言っても、つるぺたってわけでもなさそうだけど? まぁ気にしてるなら悪いことをしたな。
顔は相当な美人だし気にすることないのに……って、
「……ん? 木剣でいいのか? "聖剣"は?」
「……聖剣を使う気は無いけど?」
「スキルは使わないのか? 勇者のスキル【聖剣神技】って聖剣じゃないとダメなんじゃないのか?」
「僕が聖剣を持ってても勝てるってそう言いたいの?」
……なんだ、コイツ。
なんかずっと様子がおかしいぞ。こんなネガティブなヤツとあんまり一緒にいたくないんだけどな。
俺が基本的にポジティブだからなんかイラッとする。
「いや、俺はスキルを使えないとキツイんだよ。そっちが使わないなら、なんか、"アレ"じゃないか?」
「……へ、へぇ〜……、わかったよ。じゃあ、聖剣"グラム"を使わせて貰う」
「わかった! よし。いつでも、どうぞ!」
ガゴッ!!!!
俺の言葉が終わると同時にカレンは地面を抉り、一気に俺に襲いかかり聖剣を振るう。
ブォンッ!!
咄嗟に《地面縮小》を発動させカレンの背後に瞬間移動するが、おおよそ人間のスピードとは思えない。
「……な、何をしたの!?」
「え? いや、こっちのセリフだ! なんだその加速! 人間の範疇超えてるだろ!?」
「……き、君、魔法の知識ないの?」
「……ないけど?」
「そ、そう……。じゃあ、行くよ!」
カレンは先程よりも更にスピードを増して襲いかかってきた。またも《地面縮小》で背後に回るが、即座に2撃目が飛んでくる。
ブォンッ!!
後方に退避し、カレンの動きを冷静に観察する。
一切、無駄のない剣技。無駄がないだけに速さは相当な物だが、どこか単調。もっと緩急をつければ……って魔物相手だとそんなの関係ないか。
ブンッ! ブンッ! サッ! スンッ!
多彩な剣技を《地面縮小》で対処し続けていると、もうすっかり目が慣れてしまう。
聖剣は使っても、スキルは使わないのか?
「お、おっと……」
俺が少し体勢を崩すと、
シュッ……!!
死角からの鋭い突きが飛んでくる。俺はチラリと上空に視線を向け、《空中縮小》をして退避すると、
ドガッ!
カレンは俺目掛けて跳躍する。
そして、それに合わせ聖剣がキラキラと光を纏って輝き始めた。
「《天昇聖牙》!」
スゥスゥスゥススッ……ズギャッ!!
聖剣から光が伸びる。
16の光が俺を取り囲むように四方八方から逃げ道を塞ぎ、真正面からは光に満ち溢れたカレンが俺を撃ち抜こうとしている。
紅い髪はどこか神々しく、真紅の瞳は俺だけを見据えている。どう考えても、あの怪鳥よりも強い……、いや、まぁ俺に屠る気がないだけか……?
そもそも、最初の方はあまりのスピードに面食らったが、目が慣れてしまえば大した事はない。
タイミングに合わせて《空間縮小》をしていれば、カレンの身体は跡形もなく塵になっていたはずだけど、屠るわけにはいかない。
「《地面縮小》」
パッ!!
難なく死地から抜け出すと、カレンは空に巨大な光の斬撃を飛ばした。
ブゴォオオオ!!
まるで地上から流れ星が打ち上がるようだ。
アレを食らったらどんな魔物だって屠れるんじゃないのか? あの怪鳥から逃げてたと聞いたが、調子でも悪かったのかもしれない。
カレンはスタッと着地すると、大きく目を見開き俺をまっすぐに見つめる。
「《聖剣召喚》……」
ポワァア……
カレンが呟くと、光の粒子が舞い始めた。
長い赤髪はサラサラと風になびき、真紅の瞳は周囲の光を受けてキラキラと輝いている。
あまりの神々しさに自然と頬が緩んだ。