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祭り-1

 本日は1年目の授業最終日。先日の試験も問題なく終わったようで、みな様いよいよ訪れる2年目に期待を寄せながら、『魔術遣い(マギクラフタ)』様の最後の授業を受けているようでございます。

 私はといえば、いつもと同じように宿の屋根より覗き見鏡を使って魔法学院(アカデミア)のご様子をうかがっております。こちらは一見ただの筒でございますが、中をのぞき見ると遠くにいる人の姿、および周囲の音声が、壁を越えて見渡せるという優れものでございます。もちろん、利用上の問題がないかはアカデミア側に問い合わせ済みでございます。曰く、「見られて困るものがあるのであれば、対策をしている」とのことで。


 ご挨拶が遅れました。私ケラミリア様のお付きである、サレッサ・ノレイノウと申します。他の方のお付きや親族と同じように、直接的な接触に制限が掛けられているため、このように遠くから見守り申し上げておるのです。


 *****


 昼5つ時の鐘が鳴り、『魔術遣い(マギクラフタ)』様は授業を終えられました。ぞろぞろと出てくる見習達。その中でも、もちろん我が主を見失うことはございません。

 「っはー! 終わったぁー! とりあえずご飯を食べて、それからどうする? というか休みのこと考えようよ」

 「あ、あれ。ヤーレは補習があるんじゃ」

 「う……それは忘れといてよ……。ま、まあ一日中ってわけでもないし。ケラマも今度はずっとこっちにいるんでしょ?」

 姫様はにっこりと笑われて同意されました。

 夏の休みと同じように、冬の休みも親族等との接触禁止令は解かれます。そのため夏のように帰省することもできるのですが、道が悪いこともあるためか夏ほどには帰る方は多くないようです。ただ、姫様にとってはあの屋敷に戻るよりはこちらで過ごされた方がよくお休みできるように愚考いたしますが。


 と、ナリサリス嬢とヨミー様がお3方のもとへとやって参りました。

 「お休みの話ですか?」

 「うん。2人は帰るの?」

 やや意外ですが、お2人とも帰省されないようです。

 「やっとのことで、こちらで過ごすことをお認めいただけたのですよ」

 「ヨミーさんのご実家は、なんと言いますか、過保護なところがありますものね」

 「ええもう。もちろん、それがよいこともありますけれど。ナリスさんは?」

 「私の方は、半分家出みたいなものでしたから」

 「そうでしたね」

 それでヨミー様は含むような笑われ方をされます。なんと申しますか、ヨミー様については読み切れないところがございます。ただ、少なくとも害意はないようなので問題はないでしょう。

 そのまま5人は外に食べに行くようです。先の通り禁止令がない今、私も合流すること自体は可能ですが……今は若い方々の時間、私が混ざるのは野暮というものでございましょう。


 *****


 と、後ろの方から物音が聞こえました。どなたかは予想がつくので無視していると、そのまま私の真後ろへと気配が移動していきます。

 「だーれ、だ! あれ?」

 行動を察知して避けましたが、言動の方は予想だにしておらず、つい顔をしかめてしまいます。

 「……正気ですか? あなた今何歳だと思っていますか?」

 「魔女に年を聞くのはタブー。知らなかった?」

 無論存じております。皮肉のつもりでしたが通じないようで。

 無視していると、背後の襲撃者――もとい協力者である『暴馬(プーカ)』が、筒の前で手をひらひらと振ってきます。非常に煩わしい。

 「また出歯亀してんのー?」

 「出歯っ、失礼ですね。聞き捨てなりません」

 「お、やるか~?」

 覗き見鏡から目を離して立ち上がると、『暴馬(プーカ)』が戦闘態勢で拳をこちらに振り始めました。……よく考えれば、どう転がっても勝てるわけがないのですよね。

 なんだか興が冷めてしまいました。また座って、姫様の監視、そう、あくまで監視警護を続けます。


 姫様ご一行が食事を楽しんでいらっしゃる間に、『暴馬(プーカ)』についてお話しておきましょう。

 この、いつのまにやら隣に座り込んで指で作った輪をのぞき込んでいる(覗き見鏡と同様の魔術を使っているのでしょう)方は『暴馬(プーカ)』と呼ばれる魔術師で、魔道具と呼ばれる、この覗き見鏡のように魔術などの効果が宿った道具の作成を主に行っている方です。そして、この街で私の仕事を手伝っていただいている方の1人です。

 当然ながら姫様の警護に当たって私ひとりでは手が回らず、かといって公的にはもはや王族ではない姫様にとって、私がついていること自体かろうじで許されていること、正式な人員を追加するわけには参りません。それゆえ、このような現地の方にご協力いただくことが重要となります。魔法学院(アカデミア)関係の方でしたら、内部調査もやりやすいことでしょうし。

 「そういえば、そろそろ魔力切れるころだよねー」

 「そのためにいらしたのではないのですか?」

 『暴馬(プーカ)』は舌を出して首をかしげあらぬ方向に目を向けながら、私の覗き見鏡を受け取ります。……見た目からしても年上の方なのですが、このような振る舞いをされると、なんと申し上げればよいでしょう、自分の未来まで不安になってしまいます。

 服装もフリルやリボンが多く、あまり仕事をされる方には見えないところがあります。とはいえ、淡い色でウェーブのかかった髪と合わせてみれば、決して下卑たものではございませんが。

 「はい、できたよ」

 そして仕事ができる。それがあるからこそ、まだ使っているわけなのです。


 *****


 それはそれとして、街の食堂に目を向ければ、みな様食事を終え、ご歓談を楽しんでいらっしゃるようでした。昼6つ時を過ぎ、空席も見えて、従業員からも和やかな空気がうかがえます。

 「それで、休みの間みんなここにいるんだったらさ、みんなでお祭り回ったりしない?」

 「お祭り……ですか?」

 「そうそう。冬凪が終わったころからかな、年越しの前後はいろんな屋台が出てね。それこそ世界中からいろんなものが集まるから、見てるだけでも楽しいんだよ」

 ヤーレ様は興奮気味に少し腰を浮かせながら話します。

 姫様は、話の内容というよりは、そのご様子をご覧になって微笑まれました。

 「それは、楽しそうですね」

 「もちろん! 食べ物だって食べきれないくらい種類があったりするしね」

 「ウチも特別メニューを用意するつもりなんで、よろしくね!」

 店員がさらりと口を挟んで、また仕事のほうに戻っていきました。それを見送って、みなさん小さくお笑いになります。

 「まあどこに行くかはともかく、私も特別予定があるわけではありませんし、構いませんわよ」

 「わ、私も」

 「よし! それじゃあ、具体的にいつにする?」

 そうしてみなさんもっと詳しい部分について話を始めました。


 *****


 たしかにこの魔法都市は交易都市としても有名で、そこでの祭りとなると、ファクスパーナ中のあらゆるものが集まるといっても過言ではないのでしょう。しかし、そのような場には人も集まるもの。警護方法について考える必要が出てきそうです。

 「ときに『暴馬(プーカ)』、年越しの祭りというのは、どれほどのものなのでしょう」

 「そりゃあ、この街で唯一といっていいようなお祭りだからねぇ。他の街からの人だってすごい増えるし、普段の市の様子が、文字通り街中で繰り広げられる感じっていうか」

 「街中って、裏通りも含めということでしょうか」

 「もちろん。なんならそういう人混みを避けて飛んでく魔女もいるから、空まで混んでたりするし、あ、だからこうやって出歯亀してると目立つかもね」

 またも不快な物言いに顔をしかめてしまいますが、こうして屋上より見守っていると、時折空飛ぶ魔女に見られてしまうのも事実です。

 それにしても困ったことになりそうです。外食の多いこの街でも、市が立つと人混みができて全ての人を見分けることはできません。覗き見鏡は人を見ないようにはできませんから、ミル様ほどの背丈があれば別ですが、遠くの人を見失うことは容易に想像出来ます。

 そのうえ、外からも人が多く来るとなれば、魔女見習いに手を出すということがどういう意味を持つのか、それが分からぬ不埒ものもいることでしょう。

 とはいえ。かようにご友人のみな様に囲まれている団らんを邪魔してしまうことは避けたい……しかしながら人混みの中を影より見守るのにも限界が。


 しばらく思案にふけっていると、『暴馬(プーカ)』が袖を引っ張ってきます。

 「ちょ、ちょっと、お姫ちゃんが」

 姫様が? 慌てて鏡を覗けば、姫様がこちらへと微笑んで手をお振りになっております。無論、まだ食堂にいらっしゃる為、端から見ればどこえともなく、ともすれば壁に向かって微笑まれているように見えたのかもしれません。

 「……お姫ちゃん、透視できるわけじゃないんだよね?」

 「私の在所はお伝えしておりますから、そこから推測なさったのでしょう」

 『暴馬(プーカ)』はいまいち納得されていない様子ですが、まあ良しとされたようです。

 「それで、今のはどういう意味なの?」

 「今のは、許可でしょう」

 「許可? っていうと」

 「同行を許された、ということでしょう」

 「え、なにそれ、こっちの話も聞いてたってこと?」

 無論、そのようなことはありません。ただ、お優しい姫様のことですから、こちらの愚考など全てお見通しのうえで、先回りいただけた、ということでしょう。

 侍従としてはなんとも情けなくはありますが、とはいえ給わりしご恩を無下とすることはなによりの無礼というもの。御相伴させていただきましょう。

 「つまり、私もついていっていいんだよね」

 ……まったくこの女は、いったいどこまで。いやもう、考えるのはやめましょう。


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