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『暴れ馬《プーカ》』

 中央の大通りを噴水広場まで進み、アカデミアの方に曲がって2つ目の小道に入って、ちいさな歌を歌ったあたりで左を向いたところ。そこに、私の店『万有堂』はある。

 私としてはもっとハイセンスなお店の名前にしたいところだけれど、一応はまだ師匠のお店だし、なかなか変えられないのは残念だ。

 とはいえ、表の看板は変えられなくても、自分から名乗っていく分には師匠にバレないし問題ない。そうして既成事実を作ってしまえばいいのだ。帰ってこない師匠が悪い。

 「いらっしゃい、キラリン☆パワーショップへようこそ~」

 早速やってきた客に考えていた新店名を名乗る。どうやらこの客には好評で、目を見開いてこっちに注目してくれた。よしよし。


 よく見れば常連さんだった。目つきは悪かったはずだけど、これだけ開かれた目ならよく分かんないね。うんうん、常連さんに新しい驚きを与えるなんて出だしから好調じゃないか。

 「……魔術の付与を頼みたい。マレンマまで行くつもりだから、防暑と防塵を」

 お付きの人から大量に渡された布を受け取る。数十人分の衣類と、荷物をくるんだりするためのものもありそうだ。

 この街には隊商が集まってきて、交易を行ったりこうやって魔術付与を依頼されたりするようになっている。順番的には魔術付与のために商人が集まってきて、そのついでに商品の交換したりしたのがはじまりらしい。まあ私としては食い扶持に困らなければそれでいい。

 とにかくもらった布の量とサイズを数えよう。

 「でも結構な量だね。頼んでるの、ウチだけじゃないんでしょ?」

 「無論だ。量については、まあ隊長がな」

 「まああなたのところだと道中も安心できるような用心棒が護ってくれるんでしょうけど、マレンマまでも結構な距離あるでしょ?」

 「だがひと月もすれば冬凪だろう? その前に、ここに商品を引っ張ってきたいそうだ」

 「祭りの準備ってわけ。じゃあちゃんと戻ってもらわないと困るなぁ」

 冬凪が終われば年越しももうすぐ。そうなれば、どこの通りにも屋台が出てきてこの街全体がお祭りみたいになる。そこで売ったりするものの仕入れということだろう。

 「あそうだ、マレンマといえばさ。最近なんか有名なお菓子が評判だって聞いたんだけど」

 「ああ、仕入れリストにもあったはずだな」

 「取っておいてよ、私の分」

 常連さんはこちらの顔を、というか財布事情をかな、うかがってくる。

 「言っておくが、高いぞ」

 「え、奢ってくれないの」

 「なぜ?」

 常連さんの眉間の皺がさらに深く深くなっている。やっば。話題変えよ。

 「そういえば冬凪のときってなにかしたりするの?」

 「商隊としては特に何もしないが、まあウチはいろんな人が集まっているからな、個々人で色々したりはある」

 「そんな感じなんだぁ。じゃ商売にするには規模も小さい感じになっちゃうか」

 「そもそも魔術屋に頼むようなものがあるとは思わんが」

 「まあそれはそれ、なんとでもなるはず……っと、できちゃった」

 数を数えるだけのつもりが、ついつい魔術を掛けてしまった。うーん、自分の才能が恐ろしい。

 「防暑防塵、あと耐久性も上げてるから。破ってヒモに変えたりとかはできないから気を付けてね」

 「ロープなどは十分揃っている」

 常連さんは付き人の方に受け取らせて、簡単にチェックをさせている。まあ人の手で破られちゃったらなんのための魔女か、って感じよね。

 「大丈夫そうだな。また頼むぞ、『暴れ馬(プーカ)』」

 「はーい。効果は1月は持つはずだけど、気になったらマレンマで魔力入れ直してもらってね。あと請求書」

 常連さん相手だと価格規定があるから計算するだけで料金が出せて助かる。常連さんの方も請求書を眺めて、サインをする。サインが正しければ、2枚に分けてお互いで管理する。生産は年末にまとめてになるので、それまで保管しておかないといけないのはちょっと面倒。

 「では世話になった」

 「はいはい、またキラリン☆パワーショップをよろしくねー」

 常連さんはお店から出る前に足を止めて、こちらに振り向いた。

 「その名前、どうかと思うぞ」

 ……不評だったかー。

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