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補習-3

 昼9つの鐘が鳴って、ひとまず現状確認はできたということで、私達は解散した。

 夕ご飯は……どうしようかな。ミルやケラマはもう食べにいったんだろうか。

 とりあえず、寮の部屋に戻ろう。


 部屋に戻ったら、2人は勉強机に向かって……はいなくて、着替えもしないでお茶用の机を出して向かい合っていた。

 「ただいまぁ」

 「お帰りなさい」

 「お帰り。ど、どうだった」

 「それが……の前に、2人ともご飯は食べた?」

 2人とも首を振って答える。まあ今お茶を飲んでるってことは、時間的にそうだろうとは思っていた。

 「じゃあご飯食べながら話そう。食堂でいい?」

 「そうですね。今からでは遅くなりますし」

 「先食べててもよかったんだけど、まあありがと」

 そんなわけで、また学園の方に戻った。


 夕方の食堂は、昼ほどには混んでないけれど朝ほどに空いてもいない、といった具合。ご飯にはちょっと早いからだろう。いい時間だと魔女達で混んじゃうんだけど、外は暗くなってしまうから外で食べるのも難しくて、この頃は難しい。

 私やケラマなんかは夕ご飯こそその日の食事の本番といった気分だけれど、ミルは朝食べた分夜はあまり食べないらしい。いつもスープとサラダくらいで済ませてしまっている。私は朝は半分寝てて食べたのをほとんど見てないから、あの大きな体がそれだけで持つのかと不安になってしまう。

 ケラマは食事を終えるまでは、魔法を掛けてもしゃべったりしないんじゃないかというくらいかたくなに口をひらかない。それで、私もミルも3人で食べてるときはあまり食事中に話したりしなくなった。……まあミルは元々かもだけど。

 まあでも、今日は私が愚痴を聞いてもらうくらいだろうし、ケラマが食べ終わるのを待たなくてもいいだろう。

 「それで、呼び出された件なんだけど」

 「ど、どうだったの?」

 「補習だった……」

 ミルは死刑宣告を受けた人のような絶望の表情になった。これだけリアクションしてくれると、語りやすくてありがたい。

 「で、でも、最近は勉強もがんばってたし」

 「そこじゃなくてね、実は魔力のことで――」

 そうして、ミルに私の現状について話した。


 *****


 ミルは静かに話を聞いて、話し終わってもなにかを話すわけでもなかった。ずっと下を向いて、手をもじもじと動かしている。

 「ま、まあだから。私は魔女になれないかもってことらしくて。いやある意味もう魔女なのかもらしいけど」

 「あ、えっと」

 「まあ魔法も魔術も使えない魔女なんてないか、あいやそういう魔女もいるんだけどね、まあそれはいいや。でもほんと困っちゃったよね。これまでやってたことも意味なかったなんてさ」

 「あ、いや」

 「もういっそ魔女にならなくたっていいのかもね。そうそう知ってる? ただ人でもアカデミアで研究してる人もいるんだって。それにまあ私は魔法都市の市民権もあるし、魔女じゃなくたってここにいられるし」

 「それは! っ……」

 ミルはようやくこっちを向いたけど、言葉を続けることはできなかった。

 私は、また泣いてしまった。重く見ないでもらいたいのに、どんだけ笑ってごまかそうとしても、目は言うことを聞いてくれなくて、だんだん声を出すのも難しくなってしまう。

 「だって、せっかく、見習いになったのに、こんなのってさ、またこの体だよ。私だってもっと外に出たかった! みんなに迷惑だってかけて! もうやだよこんなの」

 もう取り繕うこともできないで、ちゃんとしゃべれてるかも分からないまま、鼻をすりながらただ口の動くままに声を出してしまう。

 それでいて、どこか冷静な自分も居て。ああ、このままだとまた倒れてしまう。いやなのに。もっと2人に心配を――――。

 「ヤーレさん」

 ケラマが声を出すと、不思議と静かになる。私の泣きすする声も、不思議と止まってしまう。

 まるで魔法みたい。


 涙はまだちょっと出てくるけれど、にじんだ視界でもケラマの真っ白な長い髪はそれだと分かる。話している内にケラマも食べ終わっていたらしく、ナプキンで口周りを拭いていた。

 「落ち着きましたか?」

 「まだ……びみょう……」

 まだしゃっくりも残ってるし、頭の中がぐるぐるしている感じは残ってる。けれど、自分の頭の中をとめどなく喋ってしまうようなことはせずに済みそう。

 ケラマは立って、温かいお茶をくんで私の前に置いてくれた。

 「まずはこちらを。温かいものは落ち着きますから」

 私はぎこちなくうなずいて、もらったコップに口を付ける。

 「あつ」

 当然ながら、くみ立てのお茶は飲むには熱かった。息を吹きかけて、すするようにして空気と一緒に飲み込む。

 お茶が体を中から温めているのを感じる。気付かないうちにだいぶ冷えてしまっていたようだ。

 「……うん。もう大丈夫」

 なにかが変わったわけじゃないけれど、少なくともちょっと考えてみるくらいはできそうな気がする。


 ケラマは私の様子を見て、微笑みながら小さくうなずいた。

 「それでは、3つばかり問おうかと思いますが、よろしいでしょうか」

 改めて聞かれるとまたしゃっくりが出そうになるけど、もう一回お茶を飲んで、うなずき返す。

 「はじめに、ヤーレさんの時折倒れられるのはどのようなゆえあってのことなのでしょう」

 「う……えーっと、救護室の『手当人(セラピスト)』によると、魔力酔いに近い感じだって話だったと思う。あー、今思うとこれもばっちし体質の問題じゃん……」

 「え、で、でもヤーレの魔力は外に出ないようになってるんじゃ」

 「あれ? たしかに、魔力が外に出ないと魔力酔いになるわけないわけだし。ようなもの、だからとか?」

 なんだかさっきまでとは別の意味で頭がぐるぐるしてきたけど、ケラマはあまり気にしていないように次の質問に進めた。

 「2つ目ですが、こちらにいらっしゃるまではどうだったのでしょうか?」

 「あまり変わらなかったと思うけど。ときどき倒れることもあったし、だからだいたいベッドの上で過ごしてたし」

 「お家の方では? そちらでも倒れることはあったのでしょうか?」

 「家で? そういえば、覚えはないかな。だいたいベッドの上にいたのはそうだけど、気分が悪くなったのは外に出たときくらいだったような」

 言われてみれば、妙な話だ。魔女のように魔力が体の外に流れ出してしまうなら、どこにいても大きな影響はないはずだ。

 ケラマは満足そうにうなずいた。

 「私の考えでは、ヤーレさんのお家には、今ヤーレさんに掛けられている魔術と同じようなものが掛けられていたのではないかと」

 「あー、たしかに。というか、そうでもないと私生きてなかったかもだし」

 「そこで3つ目ですが、なぜ今でもヤーレさんが倒れることがあるのか、そしてなぜ家で倒れることがなかったのか。そのことを存じているだろう方は?」

 「……ママ」

 そうだ。ママなら詳しいことも分かるはずだ。パパは魔法使いだし、マモルさんはただ人だから、きっとママ以上に詳しいということはないはずだ。

 ママに聞けば全部なんとかなる……なんてことはないんだろうけど、それでも、もうちょっと分かることも増えるだろう。そうすれば、アミー先生も『泣き女(バンシー)』先生も、もっといろんな対策を考えられるようになるかもしれない。

 もしかしたら、黙ってても2人が相談したりするのかもしれない。でも、まずは自分で尋ねに行きたい。だって、私のことだから。

 「……ありがと、ケラマ」

 「私はただ尋ねただけですから」

 ケラマは相変わらずの微笑み。ミルは、耳を折りたたんでちょっと不服そう、というより、力を貸したかったとかかな。私も、似たようなこと考えてた。

 「ミルも、ごめん。さっきは勝手に色々ぶつけちゃって」

 「ううううん。それはそのいつものことだし……じゃなくて!」

 つい出たんだろう本音に、私も笑ってしまう。

 「いつもはもうちょっとマシじゃない?」

 「あの、嫌ってことじゃないから。むしろ、どんとこーい、みたいな」

 「そっか。じゃあ、駄目そうだったらまた愚痴らせてね」

 ミルはぶんぶんとうなずいて答えてくれる。なんというか、猫みたいな耳してるのに、犬みたいに動くよね、ミルって。


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