表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/52

ドキッ!魔女だらけの大運動会 ボカンもあるよ-4

 さて、誰も気にしておりませんでしたが、様々な魔術や魔法によってぐちゃぐちゃになってしまったグラウンドは気がつけば整地されており、こともなげに次の競技へと進んでいきました。

 大玉転がしに出場なさったヨミーさんは、『泣女(バンシー)』先生の魔術によって自分に向かって転がるようになった大玉から逃げるのに必死だったり、二人三脚では、身長の近い姫様とレィさんとで微笑ましく肩を組まれて、優雅にゴールされたりしておりました。

 深く考えられていないチーム分けかと思いましたが、覚えている限りではどのチームも案外勝ったり負けたりしているように思います。魔女の方で調整されていたのでしょうね。


 *****


 ともあれ昼5つの鐘が鳴り、運動会も小休止となりました。

 「しかし食堂も開いているのに、わざわざ外で食べるんですのね」

 「そういうものですから」

 見習いと、弁当を用意できなかった人向けに用意されていたものを受け取りにテントに向かいます。

 「獣人ちゃーん!! 一緒に食べよー」

 「ひぃぃ……」

 じゃれてる『隼』とミルは姫様方に任せます。


 受け取ったあとはヨミーさんとともにまたチームで集まっていたシートの上に座ります。ただ座って応援するにしてはかなりスペースがあると思っていましたが、こうして食事を広げるとその理由がよく分かります。それでもまだスペースが空いているのですけれど、まあ余裕があることはいいことです。

 「もし、ここにヤーレと名乗る子がいませんかね」

 食事の準備をしていると、夫婦のようなお2人が声を掛けてこられました。運動会中には見なかったような顔に見えますが。

 ヤーレさんを訪ねる大人というのも不思議ですが、答えない理由もございません。

 「ヤーレさんなら救護テントの方でお休みになっているかと思いますが」

 「ああ、やっぱりそうですか」

 「ほら、だから言ったじゃないか」

 女性の方が男性の方を小突きます。気の置けない様子を見るに、やはり夫婦のようです。

 しかしどうしたものかと考えていると、アミー先生が戻ってきました。

 「あれ、『人形師(ドールマスター)』に『痩せ狼(レンドイル)』じゃないですか。あなた達の娘ならいませんよ」

 「ああ、『魔術遣い(マギクラフタ)』。今ちょうど教えてもらったところで」

 「というか、大丈夫なんですか? ここに来て」

 「なに、招待を受けたんだから大丈夫だよ。ちゃんと学院長の印もあった」

 言いながら、お2人もアミー先生と一緒に私達のシートに座ります。

 「あの」

 「ああ、すみません。私は『人形師(ドールマスター)』。ヤーレの母です。こちらがヤーレの父で」

 「『痩せ狼(レンドイル)』です。娘ともども、よろしくお願いします」

 「え、えぇぇ」

 ちょうど『隼』さんから逃げてきたミルが驚きの声を上げました。

 「いや、そんな驚かなくても」

 「あ、あわわたし、ヤヤーレにはいつももせ、お世話に」

 「ミル様、どうぞこちらで落ち着きになってくださいませ」

 「ああありがとうごじゃます」

 ミルは差し出されたお茶を飲んで、誰から差し出されたかに気付いて吹き出し――そうになりましたが、なんとか飲み込みました。……気管に入ったようでむせてますが。

 「な、なんで、サレッサ、さんが」

 「覚えていただいていたようで光栄です。魔女の皆様とそちらの方――ヨミー様ですね、お初にお目に掛かります。ケラミリア様のお付きをしております、サレッサ・ノレイノウと申します」

 「ご丁寧にありがとうございます。そのままヨミーとお呼びください」

 優雅に挨拶するお2人の後ろで、姫様はヤーレさんのご両親とご挨拶を済ませていたようです。

 「ところで、サレッサもですけれど、どうしてこちらに? たしか」

 「在学中、それまでの関係者は見習達と接触することを禁ずる、でしたね。休み期間は例外でしたが、ここでそうなのは、なんというか」

 「運動会のお昼ご飯は親と一緒に食べるもの、ですからね」

 ヨミーさんがこちらに戻ってきました。ここでも「そういうもの」ということですか。

 「まあとはいえ、さすがに一昨日の連絡では、来れる人もそう多くないみたいですね。」

 「一昨日……」

 それは無茶というものでは。眺めてみると、比較的近場出身の元貴族の元に、姫様と同じように使用人が来ているくらいのようです。

 「これで再現といえるのかしら……?」

 「まあ、物語でも全ての親が来られるものでもないようですし」

 ヨミーさんは言いながらも、どこか周囲の様子を伺っているようでした。そういえば、手紙の頻度を考えると、ヨミーさんは家の人からかなり大事にされている様子でしたし、誰か来たりはしないのでしょうか。


 と、考えていると。

 「――ィルさまぁーー!!」

  遠くから変わった服装の方が手を振りながらこちらに参ります。肌の色やこちらに向かってくることを考えて、ヨミーさんの家の方でしょうか。

 その方は息を切らしながらも私たちのシートのところまでやってきて、立ち止まりました。

 「ゥリクァ! あなたが来たの!?」

 「ええ、はい。ご主人様方は、やはりお仕事が忙しい、ということで」

 「ええ、ええ。期待してないから。むしろあなたでちょうどいいくらいだわ」

 なんだか不穏な言葉が聞こえますが、やはりヨミーさんのお連れの方だったようです。

 視線に気付かれたようで、ヨミーさんが紹介してくださいます。

 「これは私が家にいた頃の付き人で、リカと呼んであげてください」

 「はい、よろしくお願いします。あ、あと、まだ付き人を辞めるよう言われてないんで、はい」

 「まあその話はあとにして、とりあえずここに」

 リカさんは周りの人に挨拶をしながら、ヨミーさんのお隣に移動しました。

 「ささ、ヨムィル様にお茶を」

 「そちらの方からいただいたから」

 視線の先のサレッサさんが軽く挨拶をします。リカさんはどこか不満そうな顔にしたあと、周りを見渡します。

 「あ、ご飯! 取ってきます」

 「ゥリクァ」

 名前を呼ばれて、ようやくヨミーさんの手元に弁当があることに気付きました。それでまた肩を落としてしまいました。

 「あの、もしかしてリカさんは」

 「こういう人で。ただ、そもそもゥリクァは使用人というよりは護衛なのですよ。だから」

 「ヨムィル様、なにかありました!?」

 小声で話しているところで、リカさんが大声で入りこんで来て、2人で苦笑してしまいました。

 「大丈夫だから。他の方々とも交流しておいて」

 「あいあい」

 それで、近くで『隼』さんに撫でられているミルの方に体を向けていました。

 「なんというか、裏表はなさそうな方ですわね」

 「まあ、そうですね。今はちょっと緊張しているようで」

 なるほど、緊張すると声が大きくなるタイプなのでしょう。ヨミーさんのことを余計に気にしているようなのも、かもしれません。


 *****


 ひとまずは顔合わせを終え、食事を済ませたあとはしばらく午前中の感想などを漫然と話していました。

 「それにしても、大玉に追われる経験は初めてでしたから、新鮮でした」

 「あー、あれは逃げなかったら大玉に押されて楽できたはずだったのだけど」

 「そうでしたか。おっしゃっていただけたら」

 「いやー、案外足速かったのね」

 言いながら『泣女(バンシー)』先生とヨミーさんが笑い合っています。ついじっとみてしまって、ヨミーさんに気付かれてしまいました。

 「なにか私の顔についてます? ナリスさん」

 「あいえ。なんというか、よくあんな大きなものに追われて笑えているなと。ああ、悪い意味ではないんですの」

 「分かっておりますよ。そうですね、私たち、こちらに通い始めてから半年ほど経ちますけれど、これまで分かりやすく自身に向けて魔法を掛けられたこともないと思いまして」

 「まあたしかに。爆発だって他人事でしたしね」

 「そうそう」

 そうしてまたヨミーさんはくすりと笑われました。

 「ヤーレさんもいらっしゃったら、きっと大興奮されていたでしょうね」

 「どちらにしてもそのまま倒れていそうですわね。後か先かという話でしょう」

 「たしかに」

 それで笑い合いました。しかし、この場にはヤーレさんのご両親がいることを忘れておりましたわ。

 「失礼いたしました。親としては、心配になってしまいますよね」

 「ああいえいえ、むしろ変わらないでいるんだなぁと安心しました」

 「あの子ったら小さい頃から本当に魔女のことだといつまでもしゃべり続けてね」

 目に浮かぶようです。姫様よりもさらに小さいヤーレさんが、舌っ足らずにしゃべり続ける姿。

 「そ、そういえば、ヤーレは昔から、その、倒れたり、した、です?」

 ちょっと間の空いたところに、ミルがやや繊細な質問を投げ入れました。急いで話を変えようとしましたが、お2人はあまり気にされていないようでした。

 「むしろ昔の方がよく倒れてて。一日のほとんどはベッドの上で過ごしていて、家の外に出はほとんどでられなかったんですよね」

 「え……」

 「それでもやっぱり魔女になりたいと言って聞かなくてね。幸い才能はあったから、魔術を掛けてなんとか学院には行けるようになったのさ」

 穏やかに微笑んでいるお2人を見ると、当時は本当に気が気ではなかったことがうかがえます。

 「なんというか、大変だったのですわね」

 「え? いやいや。そりゃあ色々心配なことはありましたけどね。でも大変なことなんてありませんでしたよ」

 「そうなのですか?」

 「ええ。だってあの子のことを愛してるから。だからなんの問題もなかったよ」

 なんてことないように、お2人はそうおっしゃいます。なんというか、とても純粋な方々のようです。

 「ちょっとヤーレさんが羨ましくなってしまいますわね?」

 「大丈夫ですよ。子を愛していない親はいないものさ。あ、親は」

 『痩せ狼(レンドイル)』が言ってからしまったという形で顔を引きつらせました。首を振って安心させましょう。

 「存命ですわ。ただ、そうですわね。親の心内を、子供はそれほど分かっていないのでしょうね」

 お2人ともに納得したように頷かれます。

 しかし、この間はヤーレさんの天然発言に驚かされましたが、このご両親に育てられたのであれば、それも納得ですわね。

 改めて周りを見渡せば、一部の見習達だけが、久々に会うのだろう方と仲良さげに語り合っています。

 見習達にどういう子がいるのかを考えれば、世の中そう単純でないと気づけそうなものですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ