ドキッ!魔女だらけの大運動会 ボカンもあるよ-2
あっという間に運動会当日。まあ2日程度ですからあっという間というのも当然ですが。
私たちは体操服を着て、運動場の中央辺りでなんとなく事前に通知されたチームごとに集まって、魔女の方々が集まるのを待っています。
しばらくするとだんだんと魔女の方々が集まって来ました。それに興奮し始めたヤーレさんをなだめます。まったく、これで身が持つのでしょうか。
「しかし、あの舞台はいったい何のために用意されたのかしら」
私達の前には、鉄の舞台など、昨日まで運動場になかった色々なものが用意されています。
「あれは『朝礼台』と呼ぶのですよ。運動会は、責任者があそこで宣誓を行うことで開始するのです」
訳知りなヨミーさんが指を立てながら説明してくださいます。なるほど、運動会に必要なものということですか。きっとこの周りの旗みたいな飾りや何個か並んで立てられたテントもそういうものなのでしょう。
そんなことを考えながらなんとなく周りを見渡していると、どこからともなく歌が聞こえてきました。
「きれいな歌声ですね」
「こ、これは……!」
勢いよくヤーレさんが朝礼台の方に向くと、まるでタイミングを合わせたように朝礼台から煙が上がって、その煙の中から一昨日にも見た『歌姫』が姿を現しました。
「はい、はい。みんな揃ってるわねぇ」
服装も昨日とあまり変わらず、どうやら自身は運動なさらないつもりのご様子です。少々大仰な身振りを見るに、むしろ嬉々として参加しようとしそうな印象を受けますが。
「それじゃあ早速だけど、第1回、魔法学院大運動会を開催しまーす! みんな、正々堂々と楽しみましょうね。あ、あと優勝チームには景品があるから、がんばってねん」
周囲の魔女の方々から様々な雄叫びが上がります。それに合わせるようにヤーレさんも「『歌姫』」と叫んでいて、やはり少し心配になってしまいます。
その騒ぎを収めるように、『歌姫』が手を突き出します。
「魔女のチーム分けを発表するわ。方法は単純。先に配っていたカードに魔力を込めれば、みんなの所属するチームに導いてくれるはずよ」
その言葉を号令に、周りの魔女たちの手元が色とりどりに輝きはじめます。その輝きの示す方向に各々歩き出しました。
「あら、おちびちゃんたちじゃない」
最初に私達の所に来たのは、魔力の授業でもお世話になっている『泣女』先生でした。
次に現れたのはもっと小柄な魔女でした。ローブを羽織って両手を広げた位ありそうな大きなつば付きの帽子をかぶったその姿を見て『泣女』先生はにやりと笑います。
「久しぶりね、クア」
「……その呼び名はやめて」
「だってあなたの二つ名長いんだもの。ほら、見習いたちにも自己紹介したら?」
どうやら知り合いらしく、馴れ馴れしい様子で『泣女』先生が絡んでいます。
その小柄の魔女はすごく不機嫌そうな様子でありましたが、無表情に戻ってこちらに向き直りました。
「『もの言わぬ樹人』。よろしく」
ノバ……えっと? たぶん事前に名前を知っていたのでしょうヤーレさん以外、一度で覚えられずに曖昧な顔になっています。失礼、当然ケラマ様も問題なさそうです。
「呼びにくければ『レィ』でいい」
「まあこの子はこんな感じで暗いけど仲良くしてあげてね。これでよく魔法を教えたり出来るわよね」
「余計なお世話」
そうしてまた絡む『泣女』先生をレィさんはひどく面倒そうにあしらっているのでした。
ところで、魔女の方はもう1人いらっしゃるはずでしたが、まだ見えませんね。
「あ、あの……」
ヨミーさんとまだ来ない魔女のことを話していると、ミルさんが声を上げられました。何かあったのかとそちらの方をうかがいます。なんだかいつも以上におどおどしているように見えますが、とくに変わりないようにも……。
「あ」
「ヨミーさんなにか……はい?」
ヨミーさんの指さすところ、ミルさんの頭の上の方をよく見ると、人の手のようなものが生えていました。よく見るとミルさんの耳――つまりは猫の耳――あたりを撫でているような。
「『隼』、なにしてるの」
「あ、ばれちゃった」
レィさんに声を掛けられて、もう一人が出てきました。どうやらこの方がミルの背中に隠れながら頭をなでていたようでした。他のお二人に比べるとすっきりとした服装で、というか『泣女』先生といいレィさんといい、運動するつもりの服には見えませんわね。
「というわけで私が『隼』。いやぁ、獣人のこが同じチームなんて嬉しいなぁ。あ、尻尾も撫でていい?」
「え、あの」
にじり寄ってくる『隼』さんと、ゆっくりと離れようとするミル。こういう時、間に入りそうなヤーレさんは――
「――のあいだに特別な関係があったっていう噂は前に見たけどやっぱり本当っぽいっていかこの運動会で『隼』ってまさに得意分野だから魔法見放題になるよねというか周り見渡しても――」
――鼻のあたりを抑えながらなにか早口でぶつぶつとつぶやいていました。これは大丈夫なのでしょうか。
と思っていたら、急にヤーレさんが咳き込んだと思ったら、口から血を吐いて倒れてしまいました。
「え、や、ヤーレさん!?」
「どうしたの?」
なんとかヤーレさんを抱きかかえると、こっちに気付いた『泣女』先生が、即座に朝礼台の方に魔力の光を飛ばしました。折り返すように『歌姫』がこちらに飛んできました。
「あらあら、これは大変」
鼻からも出た血で顔がドロドロになってしまったヤーレさんは、やはりどこか幸せそうに笑いながら意識を手放しています。『歌姫』が少し歌うと、こちらに笑いかけました。
「鼻血が吹き出ちゃったのね。こういうことは前にもあったの?」
「え、ええまあ。いえ、く、口から血が出るのは」
「ああ、それも鼻血。ほら、鼻と口は繋がってるから。鼻が塞がれちゃって、口から出ちゃったのね」
言われてみれば、最初に出た血以外は口から出ていた様子がありません。
「あとは意識がないのは眠っちゃってるみたいなんだけど……」
「昨日はなかなかお休みできなかったようですから」
「そうなの。それじゃあ、ゆっくりさせてあげるのがよさそうねん」
『歌姫』がヤーレさんの顔に手を軽く当てると、血の汚れがきれいに取れました。それから抱きかかえて、テントの方に向かいます。
「そうだ。アミー!」
呼ばれたアミー先生は、一呼吸置いてどこからともなく現れました。
「なんですか? ああ、テントまで運びますよ」
「それは大丈夫。それより、ここのチームが1人減っちゃうから入ってあげて」
「なるほど。まあいいですよ」
そうして、ヤーレさんの代わりにアミー先生がこのチームに入ることになりました。まさかヤーレさんが競技まで耐えられないとは、さすがに想像出来ませんでした。
*****
ちょっとしたハプニングもありましたが、ひとまずはチームごとに用意されたシートの上に座って、今後の予定をチェックします。それによれば、まずは徒競走からのようです。
「走者は見習いで、魔女は自分のチームの見習いに魔法とか掛けるのは自由だけど、他のチームの妨害とかはダメって感じでよろしくねん。それじゃあ作戦タイムスタート!」
というわけで、観客席兼チームの集合場所として準備されていたらしいシートに戻り、魔女の方々を交えての作戦会議です。
まず走者につきましては、前々日の話し合いのとおり、私が出ることになりました。
「えー、獣人ちゃんじゃないの」
『隼』はミルを抱き留めたまま、不満そうな声を上げます。
「やはり、速い人が走った方がよいのですか?」
「いや? どうせ魔法使うから、ただ人の身体能力程度は誤差にしかならないんじゃないかな」
「であればどうして」
「だって、どうせなら獣人ちゃんに魔法掛けてあげたいじゃん?」
「あ、あの、ミル、です」
ミルのか細い声はどうやら『隼』に届かなかったようで、特に反応は返されませんでした。
代わりにアミー先生がため息をつきました。
「どちらにしても、この競技であなたの魔法を使ったらゴールまで走れませんよ。私がやりますから」
「あら、やる気なのね」
「まあ、どうせやるなら勝たないと」
言いながらアミー先生は私の足元を見つめています。次に手に視線を移してから、詠唱を始めます。
「足に勢いを、手には 淀みを」
詠唱とともに、両手両足にアザやkに赤く輝く魔方陣が描かれました。
「走ってみてください」
言われたとおり走ってみると、いつもの2倍、いや3倍近い距離を1歩で稼げてしまいました。それでいて、いつもの感覚で走れていて、違和感がないことがむしろ気持ち悪いといいますか、かなり不可思議な感覚です。
「……たしかにこれなら、元の能力が誤差程度でしかないというのもうなずけますわね」
「直線は問題なさそうですね。次は左手を少し広げながら走ってみてください。広げすぎないようにだけ注意をして」
理由の分かりかねる指示ではありますが、手に宿された魔方陣が関係しているのでしょう。言われた通り、左手をほんの少し開いて走ってみます。相変わらず驚異的な距離を進みます。しかし。
「あ、あら?」
広げた方向に引っ張られるような感覚を受けて、その感覚のままゆるやかに左に旋回していきます。バランスを取るのが大変ではありますが、出来ないというほどではありません。
「もうちょっと開いてもよさそうですね。いけますか?」
この指示で理解しました。今回の徒競走のコースには、たしかにカーブが含まれています。1歩が大きくなった分、普通に曲がるのは大変ですから、その補助としてこの両手があるということですわね。
言われたとおり走りながら少しずつ左手の開く量を広げていきます。広げて行く度に、引っ張られる感覚が強くなっていき、より急に曲げられていきます。
「あっ」
少し開きすぎたと思った瞬間に、完全にバランスを崩して足を滑らせました。しかしどこからかついてきていたらしいアミー先生に抱き留められて、地面に転げる無様は晒さずに済みました。
「そこまでのようですね。今回のコースでは問題なさそうなので、もうちょっと練習しておきましょうか」
「は、はい!」
それで言われたとおりもう少しやってみて、体を慣らしていきました。
*****
やがて時間となり、所定の位置に呼ばれました。
10部屋を2部屋ずつに分け、5チーム。その代表が横1列に並びます。
一応身体能力を気にしているのか、男性陣はカーブの分不利になりやすい外側、女性陣は内側に配置されています。私はちょうど中央。……もしかしたら単に部屋順なのかもしれません。
コースの内側では『歌姫』が取っ手のついた筒のようなものを掲げて、スタートの合図を出そうとしています。
「いい? これが鳴ったら走り出してね。まずはお試しで1回」
取っ手についたちいさなレバーを引くと、パンと軽くよく響く破裂音が鳴りました。これなら、どこで走り始めればいいか分かりやすくてよいですわね。
「分かった? それじゃあいくわよ。位置について、よーい」
ボカン!
左で鳴った音を打ち消すように、右側から大きな音、そして吹き飛ばされそうな風が体を襲います。
なんとか耐えて右を見ますが、土埃が晴れても人影が1つしかありません。
「1人消えた……?」
「あ、あれ!」
隣の子が指さした方を見ると、ひっくり返った人影が見えました。あの大柄な姿は、たしかに5人目の走者、ドゥズンさんのようです。しかし、いまいち状況が掴めません。
その答えは、観客席に回った他チームの魔女の声で分かりました。
「ほら見て! ウチらが1位だよ」
「バカ、ぶっ倒れて動きもしないじゃないか! あれでどうやってゴールするんだよ!」
「えー、でも爆発に乗せるのが1番早いって異世界科学でやってたんだけど」
――その時、ようやく思い出しました。この学院では、1日最低1度は爆発音を聞くことを。
どうやら、私達はその爆発のまっただ中に放り出されてしまったようなのです。




