魔王討伐
シェイナとパティリエカがどれほど親しくしようとしても、今のこの世界には<身分の違い>というものが厳然と存在する。そしてロボットであるレイラにはそんな社会を変えてしまう権限はない。
だからこそ彼女は、敢えてデモニューマの迎撃を街の兵士達に任せた。
社会制度もそうだが、どのみちレイラが活動限界を迎えればあとは人間達だけで対処するしかないのだ。ゆえに、人間達だけで抗しきれなくなった時にのみ、レイラも迎撃に出る形になった。それ以外は、とにかく新型弩砲の製造に集中する。もちろん、この街の職人達にも惜しみなく技術を提供して。社会制度は変えられなくとも、<身を守る手段>の提供ならできたからだ。
そして、いよいよバッテリーの残りが五十パーセントを切ったところで、
「それでは、私はこれより、<魔王討伐>の任に就きます。可能な限り帰還する予定ではありますが、魔王を撃破した時点で私の<魔法>は尽き、帰還を果たせなくなる可能性もあります。ですのでエギナ様。その場合には、シェイナとパティリエカ様によろしくお伝えください」
「レイラ……」
エギナと前線の兵士達だけを前に、レイラはそう告げた。これ自体は、<ルデニオン>を出る時にはもう王をはじめとした上層部には計画の詳細を明かしていたが。
ロボットは、嘘を吐けない。しかし、『事実を告げない』ことはできる。問い掛けられれば答えないわけにはいかないが、問われなければ黙っていることはできるのだ。ロボットをよく知る者にとっては常識だったそれも、この世界の人間達は知る由もない。エギナも、まさかそんなことを隠しているとは思わなかったし、そんなそぶりさえまったく見えなかった。ロボットであるがゆえに、人間に見られるような<隠し事をしている時に出る癖>などが存在しないのだ。
しかし……
「お前、それで私に何をシェイナに説明させるつもりだ?」
いつもと変わらずに穏やかな表情で淡々と話すレイラに、エギナは険しい表情で対峙する。ルデニオンを出た時には、それこそ数日で帰ってくるような口ぶりだったはずだ。それがこのまま魔王との決戦に臨むという。しかも、帰ってこれないかもしれない決死の覚悟で。
無論、ロボットであるレイラに<死>はない。そもそも彼女のデータはすでに新しい機体へと引き継がれ、ここにいるレイラには多少の<差異>が生じているに過ぎない。ほんの数週間分の。
だが、人間であるエギナにそれは理解できない。そしてエギナが何を怒っているのか、実はレイラにはおおよそ分かっていた。ロボットである彼女には、彼女に至るまでの数千年に亘ってロボット達が蓄積した人間の心理に関するデータがあり、それを基にすれば、さほど難しくないことだった。だからこそ、この状態では何を言っても納得してもらえないであろうことは分かっていたのだ。だからこそエギナには計画をあらかじめ告げなかった。彼女の性格からすれば揉めるのは分かっていたがゆえに。
その上で、レイラは、ここに来る時に背負ってきた背嚢から、外套を取り出し、羽織ってみせた。思いがけない彼女の行動に、エギナも兵士達も戸惑う中、
「これは、パティリエカ様の手によるものです。さすがによくできています」
微笑みながら、自慢げにそう口にする。それを丁寧にたたんで背嚢に仕舞うと同時に別の一着を取り出してまた羽織り、
「こちらは、シェイナの<作品>です。なるほど技術的には拙く、全体のバランスも良いとは言い難いでしょう。ですが、一針一針丁寧に<想い>を込めて作っているのが分かります。彼女の人柄が表れていますね」
やはり笑顔で言ったのだった。




