客人
報告そのものは実に淡々とした形で行われたものの、レイラがもたらした情報に、王城内は上を下への大騒ぎとなった。
「これが魔王だと……?」
プリンターがあればレイラが記録したそのままを写真としてプリントアウトできるもののそれはないので彼女が写実的に描いた魔王の姿に、誰もが唸るしかできなかった。
伝説にある<世界樹>を連想させる天を衝く巨木のごとき威容に、人も獣も<贄>として取り込み無数のデモニューマを際限なく生み出すというそれは、<人々が想像していた魔王の姿>とは全く異なるにせよ、想像をはるかに超えた異様な存在としてのインパクトはあまりに大きかったのだ。
さらにレイラは、彼女が観測できたものを基に類推したデモニューマの勢力図も作成。隣国<帝政バルラシアム>はすでに存在せず、周辺国も<ベル・ルデニオーラ>同様の危機に曝され、現時点での有効な対抗策はなく、無限に生み出され続けるデモニューマに蹂躙されるのを待つのみという現状をつまびらかにした。
『人が存在する限りデモニューマを生み出す贄は失われない』
という事実も、勇猛果敢な軍人や騎士さえ震え上がらせる。
だが、それでも、彼らの心は折れることがなかった。
「敵がいかに強大であろうとも、我らは決して屈しない!」
「そうだ! 我らは戦うぞ! デモニューマ、何するものぞ!!」
「然り! 魔王などに世界を好きにさせてなるものか!!」
互いを鼓舞し、レイラがもたらした情報を基に、防衛体制を練り直すのだ。
そうして王城内で改めて人間達が対策を講じている一方で、
「彼女は、シズカ・フジワラ。ここよりはるか東方の国より来た旅人で、<帝政バルラシアム>領内での唯一の生存者です」
屋敷に戻ったレイラは、まず、そう言って静香をシェイナ達と引き合わせた。
「彼女も、当面の間、この屋敷にて暮らすことになります」
そう告げるレイラに、
「よろしくお願います」
静香は深々と頭を下げ、
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
シェイナとニューティは快く彼女を迎え入れてくれた。ただ、パティリエカだけは、
「ええ……?」
と、少し不満そうだ。どうやら、レイラを見る静香の様子に、感じるものがあったらしい。
それでも、
「レイラ様! 見てください! レイラ様がお役目を果たしている間に作り上げようと思ってた外套です! お早いお帰りでしたのでまだ途中になってしまいましたけど、いかがでしょうか!?」
留守中、ニューティがとても丁寧に接してくれたのが分かる朗らかなシェイナの様子に、レイラはふわっと微笑んで、
「さすがによくできていますね。これは完成が楽しみです」
応えた。それにシェイナは、ぱあっと頬を染めて、
「はい♡」
満面の笑顔になる。レイラが早く帰ってきてくれたのが嬉しいというのもあるのだろう。
「わ、私も、シェイナには負けませんわ!」
慌ててパティリエカが、自分の作っているものを手にとって、差し出してくる。こちらも、元々、<淑女の嗜み>として針仕事も学んでいたこともあり、途中ではあるもののよくできていた。だから当然、
「パティリエカ様も素晴らしい腕前です。この調子でお願いします」
レイラは笑顔でそう告げた。するとパティリエカの表情も明るくなって、
「はい、お任せください!」
と。
さらにレイラは、二人の後に控えて立っていたニューティに向かい、
「お二人に丁寧な指導をなさってくださったようですね。ありがとうございます」
礼を述べる。それに対してニューティは、
「ありがたき幸せ」
レイラの言葉に恐縮し、深々と頭を下げた。
そんなニューティを見届けて、部屋の隅にやはり控えていたブルーディスにも、
「お役目、ご苦労様です」
と声を掛ける。
「光栄の極み」
大きな体を折りたたむようにして、ブルーディスも頭を下げた。
こうして再会を喜び合い、夕食にする。
なお、静香の身柄は、レイラの客人として彼女が預かることとなった。身元もはっきりしない<旅人>だとはいえ、そこは、レイラに任せた方が確実だと、軍の幹部達も判断したのである。
何より、今は、魔王とデモニューマが最大の脅威であり、人間同士であれこれしている場合じゃないというのも、あるのだから。




